雨
《雨》
昨日、朝から雨だろうなと思っていたら、やっぱり雨が降った。
いつも通り執務室の机で仕事をしていると、なんだか不安な気持ちになった。それは一瞬のだけだったが、僕には無視することができなかった。
(なんだか嫌な予感がする…)
何故そう感じるのか、仕事の手を止めて考える。そして、すぐにその理由が見付かった。
(昨日のアヤの様子がひっかかっていたんだ)
何処か遠くを見つめる、哀しげな瞳。昨日はまだ大丈夫だろうと思って、あまり気にとめていなかったが、今はまずい。雨が降っている。
元気な時のアヤは、雨が降ると嬉しそうに笑うことが多い。だが、気分が沈んでいる時の雨は…それ以上に落ち込むことがほとんどだ。
慌ててアヤの魔力たどるが、城内に感じることはなかった。
(出かけてる?)
もしそうだったら、大変だ。僕は仕事をそのままにして、城下町へと出た。
雨はまだ止む様子がなく、傘をさしてアヤのいそうなところを探す。早く見付けないと、と焦る気持ちを抑えたかったが、そんなことはできなかった。
アヤのお気に入りの場所である小さな丘に行くと、人影が見えた。
見間違える訳がない。
アヤだ。
――――――――
丘の上、一本の木の下にいたのは、アヤだった。
見付けた安心感と、淋しげなその姿への不安感。
僕は、アヤにそっと傘をさした。
「………」
「アヤ、帰ろう?」
声をかけると、アヤは小さく頷いた。
僕等はゆっくりと歩き、城に戻った。
その間、アヤはずっとおとなしかった。僕は何を話せば良いのか判らず、静かにしていた。
城に戻ってすぐ、アヤをお風呂に勧めた。お風呂からあがった後もアヤはおとなしく、今もソファーでじっとしている。僕は温かいお茶を二人分作って、アヤの隣に座った。
「はい、あったかいお茶」「…ありがとう」
お茶を渡すと、今にも消え入りそうな声でお礼を言うアヤ。
「…どうしたの?」
尋ねても、答えはない。
「最近疲れてるようでもなかったのに、こんなに落ち込むなんて」
「うん…」
「何かあったの?」
「何かあった、って訳じゃないんだけど…うん」
だいぶ落ち着いてきたのか、声が少し大きくなり、ちゃんと話をするようになってきた。
コトッとカップを置く音がして、アヤが話しだす。
「ちょっと、考え事してたら、ぐるぐる悩んじゃったの」
僕は、アヤが続きを話すのを静かに待った。
「自分のことで…」
それはきっと、誰もが一度は考えてしまうこと。
「自分は何者なのか、とか…どうして此処にいるのかとか…。私が国王じゃなかったら、みんなは…今のように接してくれたのか、とか…」
アヤの声がだんだん小さくなっていった。
「…それで、なんだか怖くなってきちゃって…」
「そうなんだ」
ただ相槌を打つことしかできない、そんな自分が嫌になる。
「ごめん、迷惑かけるつもりはなかったの」
「いいよ」
反射的に言っていた。
「アヤはもっと、僕達に迷惑かてもいいんだよ。もっと、甘えていいの」
いつも、事あるごとに言ってきた言葉。
アヤのことだから、また一人で抱え込むことは目に見えている。それでも、僕は言った。
「ありがとう」
優しい声だったけれど、少しだけ哀しさが含まれていた。
「ねぇアヤ…」
気付いた時にはもう、口を開いていた。
「アヤが国王様じゃなくても、僕はアヤのことが大切だよ」
不意にアヤがこちらを向いた。まだ、一人でいた時に流していた涙のあとが残っている。
「アヤはアヤだよ。国王とか、そんなのは肩書きにすぎない」
そっと、アヤの頬に触れながら言う。
「確かにアヤは、とても強くて知識もある。けれど、それでも、一人の人なんだよ」
頬に触れた手が、何か温かいものを感じる。
アヤを見ると、瞳を閉じて静かに涙を流していた。
「大丈夫だよ。僕は、いつも、いつでも、アヤの味方だよ」
僕はそっと、アヤを抱きしめた。
「ありが…とう」
小さなお礼の声が聞こえたあと、アヤはしばらく泣いていた。そして、泣き止んですぐに、アヤは眠ってしまった。きっと、とても疲れていたのだろう。
アヤを布団に寝せた時に見た寝顔は、とても綺麗だった。
翌朝、雨はすっかりやんでいて、空には綺麗な虹が架かっていた。
―――――――fin
初出:H23 6/16
これは、いつか書こうと考えていた話でした。大まかな内容は出来ていたのですが、中々中身が思い付かず遅くなってしまいました。が、やっと書けました!
曇り空は、この話の序章、オマケです。




