静かな夜
《静かな夜》
昼ではまだまだ蒸し暑い日々が続いているというのに、夜になると虫が鳴きだす。まるで音楽を聴いているかのように、耳に届く音は心地好い。
もう、秋がきているんだなと、空に輝く月を見て思う。
「月、綺麗だよね」
いつからいたのか、横で同じく月を眺めているアヤが言う。
「そうだね。で、いつからいたの?」
「ついさっきだよ」
「そっか」
風が吹いて、アヤの金色の髪を揺らす。月の光が当たって、きらきらと静かに輝きを放っている。太陽に照らされている時もそうだが、月に照らされていても綺麗だ。
「どうしたの?」
じっとアヤを見つめてしまっていたのか、アヤが不思議そうに首をかしげながら声をかけてくる。
「なんでもないよ。ただ」
「ただ?」
「やっぱりやめた」
「気になるから、最後まで言ってよ」
途中で言うのをやめてしまうと、アヤが口を尖らせた。
「えー。やだよ」
さっきは無意識だったから何も感じなかったが、今になって恥ずかしくなってきた。
「聞きたいなぁ」
再び月に眼をやりながらアヤが呟く。
僕はまだ恥ずかしくて、黙ったままでいた。
虫達の鳴き声が、大きく感じた。
そのまま、静かな時間が流れていった。
僕の心も、だんだんと落ち着いてきた。ちらりと隣にいるアヤを見れば、まだ言って欲しそうにしている。
「まだ気になる?」
そう尋ねれば
「もちろん」
とすぐに返答があった。
「その金色の髪が綺麗だなって思ってたんだよ」
月を眺めていたアヤが僕の方へ振り向く。それと同時に、金色の髪が揺れた。
「ようするに―――」
僕はアヤに近付いて、耳元で囁いた。
「―――アヤに見とれてたんだよ」
「っ!?」
アヤの身体が、ビクッと跳ねる。そして、顔を真っ赤にして何か言いたげに僕を見てきた。
「なあに?」
「っ~~~」
アヤが、一瞬だけ僕を睨んだ。
「み、耳は弱いんだよ」
小さな声が、僕の耳に届く。
アヤが耳が弱いことくらい、もう知っている。
「そうだったね」
と、僕は笑いながら言った。
「さっきまで恥ずかしそうにしてたくせに…」
アヤがボソッと言う。
「そうだっけ?」
「……むぅ」
とぼけてみせると、アヤは口を尖らせてそっぽを向いてしまった。そんなアヤを宥めながら、僕は虫達の音楽を聴いていた。たまには、こんな静かな夜もいいなと思いながら。
―――――fin
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