安喰心:3
11/13(木) 8:50 p.m.
校門を潜ると、懐かしいという感情が沸き上がった。
だが、それ以外の感想は特に思い浮かばない。感慨に耽ることも、足を止めることもないまま黒猫の後を追う。
ゆらゆらと揺れる尻尾を視界に入れながら、一応どこかから突然生徒が現れたり、教師が現れたりしないか周囲にも気を配る。
「そういえば、君の眼帯はどういう理由なの? メバチコ?」
こっちを振り返らずに黒猫は言う。なんともまあ今更な質問だと思ったが、コレについての質問してこないことに疑問を感じることは今の今までなかった。
質問されて、漸く何故今なのかと思ったわけだ。自分は眼帯をしているのだと、今思い出した節もある。
だがそのせいで、雨をたっぷり吸い込んだ脱脂綿が、瞼を圧迫している違和感を感じてしまい、非常に気持ちが悪い。気が付かなければ気にならなかっただろうに。
「色々あってな。失明した」
イチからゼロまで話すのは面倒だし、その必要性もあるまい。それに、かつての飼い猫の面影を持つこいつにはなんとなく話し辛い。
「へー、そーなんだ。アレなのかと思ったよ。オレの右眼にはなんたらかんたら的な妄想に取り付かれた系男子なのかなって」
オレはそんな得体の知れない奴に見えているのか。それならまだ不良とか、問題児とか言われた方が数倍マシだ。
事実、学校ではそう言われていたわけだし。
そう言われた大きな原因の一つに、この髪の色にある。
曰く、オレは他国籍の父と自国籍の母親との間に産まれたハーフで、その父の髪質を引き継いだらしい。だから地毛が金髪。一般的に黒や茶の髪色をした生徒達の中に入れば目立つし、浮くわけだ。
正直、この髪色はオレ自身あまり好んでいない。手間なので自分では絶対にやらないが、黒染めという強制処置を受けたっていい。
悪目立ちするということに、得なんて全くないからな。
昇降口までやってきたところで黒猫は立ち止まり、頭だけで振り返った。
「じゃ、入るよ。ところで、もし学校の中で誰かに見つかった場合だけどさ、その姿で大丈夫?」
ずぶ濡れのパジャマ姿か。大丈夫とは言い難いな。だからといって、着替えなど持ち合わせていないしどうしようもない。
それに、不登校のオレが校内をうろついているってだけで、教師達にとってはちょっとした事件だろう。それに、パジャマ姿で校内をうろつく不良など、見つかるデメリットはあっても、メリットは絶対にない。
「出来るだけ見つからないように移動するべきだろうな。で、どこを目指すんだ?」
「んー、君が好きそうなところかな」
オレが好きなところ、ねえ。そもそも、学校自体が好きな場所なんかでは決してないわけだが。
そんなオレの心情なんて伝わるはずもなく、伝えるつもりもない。
なんの戸惑いもなく不法侵入を行う黒猫に続いて昇降口に入る。
雨の中を靴も履かずにここまでやって来てしまったので、昇降口に配置された掃除道具入れの中から雑巾でも拝借して、軽く足の裏を拭いておいたほうがいいかもしれない。
そんなオレの考えは所詮ただの思考。口に出していないそれが同伴者に伝わるはずもなく、立ち止まって掃除道具入れを見ていたオレをすっぽかしてズンズンと進み、中央階段へと直進していってしまう。
「ちょっと待て」
「え、何?」
「階段を昇るなら西階段だ。その方が人に出くわさない」
この時間なら生徒も少なくなっているとは思う。だが念のため、一番生徒の使用頻度が高い中央階段を使って校内を進むのは避けたい。万が一の確率は、少しでも低い方がいいに決まっているのだ。
そういうわけで、オレは家庭科室や図書室など、生徒が授業以外ではあまり利用しない教室が比較的に多く配置されている西階段から進むことを推奨した。
「そうだね。誰もいないほうが、僕も君とおしゃべり出来るもんねっ」
見つかれないように進むわけだから、お喋りも控えてもらいたいところだけどな。
西階段へ続く廊下は教室一つ分の長さしかなく、突き当たりはが図書室になっている。
この廊下の校舎側は上階段では生徒の教室になっているのだが、一階には教室の代わりに放送室が設置されており、音が漏れないように重いドアが一つ。壁も防音になっている。
なので、多少声を出したり、音を立てたりしても中にいる人間には気づかれないだろう。だが、突き当たりの図書室に人がいた場合そうもいかないだろう。だから、余計な発言は控えた方がいいことに変わりはないのだ。
「ねえ、君ってこの学校では優秀な生徒だった?」
どうやら、バレないようにと慎重になっているのはオレだけのようだ。なんのために道を変えたのか、こいつはちっともわかっちゃいない。ぺたぺたと人気のない廊下に足音を響かせながら歩く黒猫には、声のボリュームに気を使うという配慮は全くないようだ。
それにしてもこいつ、誰かに見つかる可能性が高くなるに連れて饒舌になってきたな。というより、出会ってから時間経つに連れて、かね。
「優秀ではなかったな、一般的だ。中の上か、それか中の下」
……それはオレもか。
さて、どういうわけだろう。相手が人間ではなく、ただの猫だからだろうか。煩わしい人間同士のコミュニケーションを考えず、思ったことをただ口にだすだけの会話。もしかしたら、それは会話と言えないのかもしれない。
しかし、こうしてコミュニケーションがとれるわけだから、きっとこの黒猫に感情というものは備わっているのだろう。それでも、だ。相手が人型ではないことが、今のオレには有り難い。随分と気が楽だ。
図書室前を通過する時、一応ドアに注意を向けながら右折。正面に現れた西階段に歩を進める。前を向くと、ゆらゆら揺れる黒猫の尻尾が視界に必ず入る。それが目で追ってしまうほど気になって仕方がない。
「可もなく不可もなくだねー。なるほど、学業面で目立つ生徒ってことはなかったんだね」
「ああ。でも見た目が平凡じゃねーのは理解してる。だから頭の出来なんていう内側のことを聞いたんだろ?」
ぺたぺた。ひたひた。
「え? ああ、髪の色? そんなの黒猫がいれば三毛猫だっているんだから、違いが出るのは当たり前じゃないの? 人間が重要視しているのはもっとこう、能力とか学力とか、そういう面じゃないの?」
「ま、間違っちゃいねー。けどな、お前ら猫と違って人間様は見た目も気にするんだよ。自分とは違う……いや、自分達と違うだな。そういう特殊な存在に敏感な奴らだから、外見が人と違う奴は否応にも目立っちまうんだよ」
少し響く二つの声と、リズムの違う足音。それがなんとなく心地いい。
「へー、だから君は一人になっちゃったの? 他の人と違うから?」
「……さあどうかね。ただオレは、そういう人間らしさが嫌になった。だから、こんな所に通うのはやめた」
ひたぺたぺひたぺたぺひたぺた。
「なるほど。でも、人間が嫌いだってわけじゃなさそうだね」
踊り場を通り過ぎ、ぴょんぴょんとテンポよく軽快に上っていく黒猫の背中に溜息が漏れる。
全く、どうしてそんなに楽しそうなんだ。
「あん? 人間に対して、好き嫌いの感情なんてもうねえよ。そもそも、興味がない」
「なるほど、なるほど。なるほどねー」
意味深な言葉に聞こえないこともないが、なんとなく特に意味はなさそうだ。
無意味な言葉をリズミカルに話しながら、階段を駆け上がっていく小さな背中を眺める。もう走るのは願い下げだ。
「君は随分と捻くれ者なんだね。興味がないなんて、絶対に嘘だもん。だってさ、そうやって他人に興味がない自分の世界を作り上げてるつもりでいるみたいだけど、ここに来てから君はずっと落ち着かない様子でキョロキョロその一つ目を動かしてたんだからね」
目敏い奴だ。確かに周囲に誰かの存在がないかと気を張っていたのは否定出来ないが、それが他人に興味があるからだ、なんて方程式にはならないはずだ。
黒猫がそのまま止まらずに二階を上がって行く足音。見失わないようにするには早足に成らざるを得ない。
「オレが本当に他人に対する興味がないなら、誰かに見つかることなんて気にしないはずだって言いたいんだろ?」
直ぐに追いかけたつもりだったが、二階の踊り場にはもう黒猫の姿はない。溜息一つこぼして一段飛ばしで階段を駆け上がり踊り場を通過すると、黒猫は三階で四足揃えて鎮座しており、オレの返答に対して首を縦に振った。
「それはただの屁理屈だ」
「いんや、理屈だよん」
即答されてしまった。にゃはっとあざとく笑った黒猫は踵を返し、更に上へと上がって行く。
小さな足音を聞き流しながら、押し通された揚げ足にまた溜息が漏れる。もしかしたらオレは、遊ばれているだけなのかもしれない。猫ってのは、気まぐれな生物らしいし。
「おい。どこまで上がる気なんだ? 校舎は三階までだぞ」
ここから上はもう屋上しかない。これ以上無駄に体力を消費したくはないので、呼び止めて忠告してやる。
黒猫はゆらゆら揺れていた尻尾をぴたりと止め、意味あり気に緩慢な素振りで振り返りオレを見下ろす。
「君が一番好きな場所に行くって言ったはずだよ?」
……それが屋上だと教えた覚えはない。こいつは一体どこまでオレのことを知っているのだろうか。
何故だと聞いてやろうとも考えたが、どうせまたのらりくらりと避わされるのがオチだ。
「で、屋上なんか行ってどうする。オレを助けるんじゃなかったのか?」
「にゃ? もしかして、助かりたくなっちゃったの? 心変わりなら大歓迎だよ?」
「んなわけあるか。オレの考えは変わっちゃいねえ。お前とオレとの会話の中に変わる要素がなんてあったか?」
「だろうね。だから行くんだよっ」
含みを持った言い方が好みなのか、饒舌なくせに語りたがらない猫だ。なんて面倒くさい奴。
もう何度目か分からない溜息を一つ落とし、両手を挙げてお手上げポーズ。それを見た黒猫に、にゃはははと憎たらしく笑われた。
軽くし舌打ちをし、後を追って屋上前の踊り場に行くと、四足揃えてお行儀欲座っている黒猫の姿。今更ご機嫌取りしようってか? 手遅れだな。
何やってんだ。早く行けよ。
と、声を出そうとして口を開けたが、なるほど合点がいった。四速歩行の黒猫には、ドアノブを捻ることが出来ない。
「人間様にドアを空けさせようってのか?」
「猫風情には恐れ多くて、人間様の偉大な発明品に手を出せなくってね」
ああ言えばこう言う、という項目が辞書にあるならこいつの存在を記入してやりたい。
「人間様に無駄な労働力を使わせるんじゃねえよ。開けてみろ畜生」
「あれー? おかしいな……人間のオスには、れでーはーすとっていうぜんとるまん精神なるものがあるって聞いてたんだけどなー」
「……は?」
何を言っているのか分からない。言葉の内容を理解しきれず押し黙ったオレの反応をじっと見ていた黒猫が、また口を開けようとしたので右手を突き出して静止する。これ以上話をややこしくするな。
「えっと……もしかして、レディファーストっていうジェントルマン精神か?」
「うん。そう言ったよ?」
「言ってねえよ」
猫は横文字が苦手らしい。しかも自覚がないとは、救いようがない。
いや、それよりも一つ大きな勘違いがあった。
「お前、メスだったのか」
てっきりオスだと思っていた。自分のことを僕と呼んでいたし、こいつに感じる面影の元である黒猫がオスだったからな。
気付かなかったなーと、何気なく猫から視線を外して言った言葉だったが、オスだと思われていたメスはえらく気分を害したようで、爪を立てて尻尾を逆立てて威嚇体勢になっていた。
「こんなにかわいい子猫ちゃんがオスに見えたなんて、流石に失礼極まりまくるよ人間!人間の眼球には性別を識別する機能が備わっていなかったりするわけかな!」
とても怒っておられる御様子だが、残念ながら猫や犬畜生を一見しただけで雌雄を判断する能力を持つのはその道のプロくらいだろう。少なくとも、オレにはわからん。
「人間以外の生物の雌雄なんて、人間様は基本的に興味ねえよ。その辺の野良とか、他人のペットなら尚更な」
さっきまで楽しそうにしていたくせに、ちょっと性別を間違えられただけで一気に不機嫌極まりまくっている黒猫は、自分の言葉を正当化する為のオレの言葉を完全に無視し、そっぽを向いたまま尻尾を乱暴に振っている。
やれやれ。こんな所で貴重な睡眠時間を浪費するくらいなら、とっとと家に帰って風呂に入って湯冷めしないうちに眠りたい。
こっちから根負けしてやり、ドアノブを回して少し重たいドアを押し空ける。隙間風がとてつもなく寒い。
「ありがとっ」
懐っこい口調で礼を言われた。ぴょんっとドアの段差を飛び越え、こちらを振り替えてオレを呼ぶ。
早くおいでよ、と。
今の今まで不機嫌だったというのに、ドアを開けてやっただけで機嫌が直ったようだ。なんともまあ、感情の変化が忙しいやつだ。なんというか、少し羨ましいかも知れない。
今までの楽しげなテンションに戻った黒猫を眺めていると、自然と、また溜息が出る。
全く、こいつと行動を共にしてから何度溜息が漏れたことか。誰かと、何かと関わるってのは本当に面倒くさいことだと心底思う。事実そうなのだ。だからこんなにも溜息が出る。出てしまう。
正直寒いのでこんな寒空に濡れた服と体で出たくないのだが、オレが動かない限りこの物語は進まないようなので仕方がない。
右足から屋上に出て、黒猫の方へ行こうと数歩歩いたところで気付く。さっきまで降っていた雨がいつの間にか止んでいて、今はただ薄暗い星一つない空が広がっているだけ。湿気を含んだ風が頬を撫で、空気に紛れて消えていく。
すっかり本降りになっていて、明日まで降りっぱなしなのだろうと思っていたんだがな。
「で、黒猫。ここまで連れてきてどうしようってんだ?」
「ふぉるて」
……この距離で質問を聞いてなかったのか? オレは音楽記号を言えと言った覚えはない。
「だから、僕の名前だよ。黒猫ってのは猫って種類の中の一種類だから、名前じゃないもん。僕の名前はふぉるて。ふぉるて=じらそーれだよ」
なんだ、名前があったのか。オレのことを知っているような口を利いておきながら自分を名乗らないから、てっきり名無しの変な野良猫かと思っていた。
まあ、そうだとしたら眼鏡だとかどうして喋るのかだとか、そういう不明点が解消できないわけだが、なんせ考えるのは面倒くさい。
「あっそ。じゃあフォルテ、オレをここまで連れてきてどうするんだ?
「勿論、君を助けてあげるんだよ」
「その中身を聞いてるんだ。いい加減教えて貰わねえとな。そもそも、態々高校の屋上まで来ねえと駄目なのかよ?」
「そうでもないけど、こんな田舎じゃ高い建物って言ったらここぐらいだったからね。君の思いで探りのついでに」
つまり、高いところでしかオレの命を救う云々の何かしらを出来ないということか。思い出探りの件についてはいつはじめるつもりなのかね。さっきの会話のことを言っているのかもしれない。
フォルテは四足を動かして飛び降り防止のフェンスに近付く。危ないぞと忠告する必要なないだろう。猫が高い塀を難なく歩いている様はよく見かけるし、まさかフェンスに乗ろうと考えていることはあっても、飛び越えることは考えていないだろう。
落ちたら死ぬ。それくらい猫にも分かるはずだ。
フォルテの後に続いて歩きながら、なんとなく自分が住む町を見渡すように顔を動かした。
校舎の周りに灯りは殆どない。
フォルテに指摘されたように、ここはとても都会とは程遠い田舎町だ。あるものといえば、あけっぴろけになったままの空き地、数時間に一度通るか通らないか程度の電車が通るための線路と踏み切りに、彼方此方に転がっている畑や田圃。そして唯一この時間でも少し多くの灯りが集まっているのが商店街。品揃えがイマイチで、開店時間も閉店時間も区々という適当な商店街だが一応数年前まではもっと栄えていた。
栄えていたといっても、その理由は町の商店が商店街にしかないかったからで、二、三年前から町にデパートができ、一気に経営が悪化した。今となってはちゃんと開いている店は両手で数え切れる程度にまで数が減り、商店街としての機能は最低限ギリギリ機能しているレベルにまで落ち込んだというわけだ。
「さて、本題だよ。君は本当に延命する気はないんだね?」
上の方から声がする。前に向き直り見上げると、2mくらいはあるフェンスの上にフォルテが乗っかっていた
人間様にはとても出来ないな。確実に落ちる。
「しねえな。一ヵ月後に死ぬならそれでいい。運命を受け入れるさ」
どうせ助かるためには、何かしらの行動をやらなければならないのだろう。その何かが、オレにとっては面倒くさくて仕方がない。
楽に生きて、適当に死ねるなら本望だ。いい人生だったとさえ言えるかもな。
「そっか、残念。でもね、僕は諦めないよ。君が諦めたって僕は諦めないもん」
「迷惑な話だな。とんだお節介だ」
「ごめんね。もうずっと前から決めてあるんだ。僕が絶対に君を守るって……うわぁっ!」
ずっと前から? 自分から初対面だと言ったくせに、以前から顔見知りだったようなこと言われた。
それについて聞いてやろうと口を開いたその時、かなり冷え切った風が吹き抜けた。それもフェンスが揺れるほどの強風。
口の中に勢い良く進入してきた冷風に咽させられ言葉が紡げず、フォルテの悲鳴に反応して咳をしながら見上げると、今の強風でバランスを崩したのか、フェンスから落ちそうになっていた。しかもこちら側ではなく、向こう側に。
「げほっ……おい、落ち着いてバランスをとれ!落ちたら死ぬぞ!」
どうにか助けらなければ。急いでフェンスに近付き、手を伸ばしてフェンスを掴んで揺れないように抑えてやる。
「わ、分かってるけどっ!っ……うにゃああ!」
だが、完全にフェンスからフォルテの足が離れてしまった。ここから落ちたら、ほぼ助からない。
「くそっ……うおっ!?」
どうにか間に合えと、反射的にフェンスを登ろうと右足を掛けると、ガシャン!という大きな音と共にフェンスが外側に倒れ始めた。両サイドのフェンスと連結していた筈の金具がフォルテより重たいのか先に落ちていく。ふざけるなボロ校舎め!
だが、今はこの状況はかなり好都合で、しかも考えている暇は一切ない。
オレは倒れ始めたフェンスを右脚で蹴り飛ばし、そのまま躊躇なく飛び降りる。
空中で体を反転させ、全霊を込めて両手を伸ばす。黒猫の体を掴めさえすれば……!
「やっぱりね。君はとっても優しい人なんだよ」
こんなときに何を言ってやがる。もう少し、もう少しで届くんだ。
「他人に興味がないなんて嘘だ。他人なのに、僕を助けようとしてくれている」
煩い。黙れ。オレはお前を助ける。
指先がフォルテの背中に触れる。もう少し……!
「だから僕はーー」
っ……届いた!そのままフォルテを抱き寄せ、胸の位置で抱えて地面に背中を向ける。何か言ってるみたいだが知ったこっちゃない。誰かを助けて死ねるなら、オレは本望だ。本望なんだ。
オレは月すら浮かんでいない暗黒の空からおさらばするため、目を閉じた。
オレは、今死ねて本望だ。




