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俺はあえて幼女とは言わない

 世界は退屈だ、でも退屈だと思えることは幸せなんだ。


 十六歳になって世の中の事が少しずつ見えてきた俺は、自分にそう言い聞かせて今日もパソコンでお気に入りのゲームで遊ぶ。


 流石に同じRPGを三週もすれば飽きる。だけどシステムや世界観諸々が最近のゲームでは飛びぬけて好みに合っていたので、二週目は一週目にとり損ねたアイテムやイベントを網羅し、三週目はその上でこのゲームでは必須要素である『魔法』を使わないというプレイで挑んでいた。


(流石に厳しいか……?)


 アイテムを確認する。今は最終ダンジョンラスボス手前まで来ていた。


 このゲームはシステム自体は一般のRPGと変わらないのだが、操作方法が一風変わっている。専用のゴーグル、そして自前のヘッドフォンと最近流通しだしたモーションキャプチャー機能付きリモコンを使った『できるかぎり本当に冒険してるような雰囲気』を目指したRPGなのだ。


 しかし歩きの動作だけは手に持ったリモコンのボタンに寄るものなのでそこがなんとも惜しかった。


 ともあれ、それ以外は本当に自分がゲームの世界に入ったように遊ぶことができるのだ。


 俺はそんな中で自身の反射神経と詰み将棋のようなパターン化でなんとかこの街までやってきたのだった。


(これでなんとかなったら次はレベルも縛ってみるかな……)


 そんなことを考えながら魔王の間の扉を開ける。そこには不適に微笑み玉座に鎮座する魔王の姿があった。


 さあ、そろそろいい時間だし魔王を倒したら今日はもう寝ようか、夏休みだけど流石に夕方まで眠るのはナンセンスだ。


 戦闘開始のBGMが流れる。うーん、何度聞いてもいい曲だ。この為にわざわざ実際にコーラス隊に歌わせたって言うのだから力の入れようも伝わってくるものだ。


 この戦闘の肝はなんといっても自身の反射神経だ。相手の行動が予備動作に入ったらすぐにそれを見極め、対応した行動をこちらも行う。魔法による攻撃や回復が一切望めないので被害は最小限に……。


 まあ流石にこのゲームも三週目、パターン化された戦闘はもはや通過儀礼のようなものだった。


 危なげなく魔王を倒し、その後の無駄に長い魔王の語りはカットだ。後はエンディング後のセーブ画面の表示を待つばかり………………あれ?


 いつもならTHE・ENDの画面の後すぐにセーブ画面になるのだが……文字が消え、辺りは真っ暗のままなにも写らない……。


 ……バグったかな? 仕方ない、少々もったいないがリセットしよう……と、そこに画面に白くてぼんやりとした光が見えてきた。


 しばらく見ているとそれは段々と人の形を取り……一人の少女の姿になったのだった。


 その少女は見た目十歳くらいだろうか、黒くて綺麗な髪は床に付きそうなほどに長く、それとは全く対照的な白いシンプルなワンピースを着ていた。


「……君は?」


 思わず近づいて声をかける、少女は俺の目の前にいてただ俺の目を見上げるばかりだった。


 ……らちが明かないな、きっと街のデータか何かのバグだろう、さっさとリセットして寝よう。


 そう思って今にもゴーグルを外そうと思った時、『……待ってるから』と、少女が声を発した。


「何を待ってるんだ……?」しかし少女はそれ以上答えない。代わりに少女の後ろの暗闇になにか大きな物がぼんやりと映し出された。


 先程の少女のように少しずつ形になったそれはある建物だった。港にある大きな倉庫のような、全体的に錆びた体育館のような建物。そしてそれは見覚えがあった。


「学校のそばにある廃屋じゃないか……どうして……?」


 少女は答えない。そして少女と建物は少しずつ薄くなっていき、遂には消えてそこにはただ暗闇が広がるばかりとなった。


 しばらくすると何事も無かったかのようにセーブ画面が映し出される。怪訝に思えながらも一応セーブを行い、その日はゲームを終えて眠りに付いた。




 次の日、俺は昨日映し出された倉庫に来ていた。学校から立ち入り禁止になっている雑木林を抜け、忘れ去られたようにそこにそびえる倉庫は中に入ると埃っぽくて、壁際には電化製品や机といったガラクタが俺の身長以上に積まれていた。


 しかし倉庫の真ん中は開けており、床には大きくなにか書かれているようだった。


(……これは……魔方陣か?)


 ゲーマーなら一度は目にした事のある、特になにかを召喚するときなどに出てくるアレだ。相撲の土俵くらいの大きさに二重の円が引かれ、その周りや中には英語ともアラビア語とも言い難い文字が羅列されている。


(うわぁ……ガチなやつだ……痛々しいな……)


 しかしその完成度は感心してしまうほどに高く、思わず中心に立って黒魔術でも使ってみたくなるほどだ。


「…………手間が省けて助かるわ」


 俺が魔方陣の中心に立ち、両手を前に構えて目を瞑り、そしてお気に入りゲームの魔法の詠唱を今正に始めようとしていたところにそんな声が聞こえた。


「…………ああ、君の魔方陣だったのか。ごめんね、代わりに召喚しちゃうところだったよ」


 紳士の笑顔でそれに応える。なぜ紳士か? それは入り口に居たその声の主が少女だったからだ。


 外からの逆光で最初は良く見えなかったが、目が慣れてきて心に小さな衝撃が走る。


 その子は昨日あのゲームに現れた少女そっくりだったのだ。しかし今日は白いTシャツにデニムのホットパンツの活動的な格好をしていた。


「君は……もしかして――」


「そうよ、昨日見たんでしょ? その女の子。正確にはモデルなんだけど」


 少女は見た目こそ小学生だったが、その話し方は大人びていてむしろ年上なのではないかと思わせる。


「それで、そのモデルさんがなんの用?」


「ゲームクリアのご褒美、といったところかしらね。きっとあなたにとっては良い物だと思うけど、いる?」


 ちょっとだけイケナイ妄想をしたが俺はそこまで堕ちてはいない。イエス、ノータッチだ。


「くれるならぜひもらいたいものだけど……どんなもの?」


「それは受け取ってからのお楽しみ、よ。どうする?」


 少女が手を後ろに組んで近づいてきて……魔方陣の淵ギリギリで止まる。少々悩んだが……。


「……もらうよ。そんな悪いものでもないんだろ?」


 すると少女は微笑んだ。その表情はやっぱり小学生には見えなかった。


「そう、良かった無駄足にならなくて。それじゃ……目、瞑って?」


 言われるままに目を瞑る。もう一度言うが、イエス、イエスイエスノータッチ……だ。


 しばらく何事もなく時が過ぎる、聞こえてくるのは倉庫の外の蝉の大合唱だけだ。しかし――。


 身体のバランスが崩れる、一瞬の違和感の後に大きくまた揺れる――これは、地震だ――でかそうだ!


 思わず目を開けて辺りを確認する、ガラクタががたがたと音を立てていたがそれより驚いたのが足元の魔方陣――文字が蒼く光を放っていた。


「な……なんだこれ」


 しかしその疑問も一旦外に置いておく、また一段大きくなった揺れ、そして周りにはガラクタの山――とりあえず、少女と俺の安全を……。


 魔方陣の淵にいた少女の手をとって魔方陣の中へ引きこむ、少なくとも真ん中なら位置的にガラクタの下敷きにはならないはずだ――。


「え……ちょっと――やめ――」


 少女を頭を抱き込むようにしゃがみ、揺れが収まるのを待つ。思ったよりも大きくて辺りのガラクタがガラガラと音をたてて崩れる。流石に怖くなって目を瞑って身体を強張らせた。


 ……しばらくすると揺れがやむ。そして目を開けると――そこは大草原でした。


「………………はい?」


 なんだここは……倉庫はどこにいった?


「ちょっと……苦しいんだけど」


 抱えていた少女が不満げに声を上げる。解放された少女も周りを見渡していたが……一つ、ため息を着くだけで意外と反応は薄かった。


「…………うわーホント、やっちゃったよ……」


 少女はその場にしゃがみこんでしまった。


「ねえ君……ここどこ? 一体どうなったの?」


 すると少女は睨むように顔をあげ――」


「アンタが急に引っ張るから! 私まで巻き込まれたじゃないの! どうすんのよぉ……面倒ってレベルじゃないわぁ……」


 少し涙目になった少女はまた塞ぎこんでしまった……。


「あの……もしもし……?」


 肩に手を置こうとするがこんなときでも紳士協定。イエス、オーケーノータッチアーハン。


 だがその手を逆に少女が掴んだ、そして怒った様に顔を上げて――。


「もうしょうがないわ! さっさと行くわよ! アンタも協力しなさい! 速攻で……このゲームをクリア(・・・・・・・)するのよ!」


 ………………は?


 そうして俺と、不思議な少女の珍道中が幕を上げたのだった。

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