勧誘
緋絽です!今回、短いです!
屋上へ行くとまだ夏の名残で温い風が吹いてきた。
後ろにいた山城の方へ振り向いてさっきの笑顔のまま首を傾げる。
「で? 何のようやねん。わざわざ嫌われに来たんか、山城」
屋上のフェンスにもたれかかって目の前の山城に言葉を投げた。
「二度と面見せんなって言ったはずやで」
「謝ろうと思うて」
「…は?」
山城の言葉にキョトンとして、目の前の男を凝視してみる。
こいつ、何を言ってんねやろ。
「俺、知らんうちに峰岸怒らせたんやろ。せやから、ごめん。それと、俺、バカになんかしてへんで。バスケを一生懸命しとる人らを俺はバカにせえへん」
酷く真面目な顔をして言うものだから思わず噴き出した。
「なっ、なんや?」
「アホや、お前」
そうか。山城にとってバスケをしとる人らはバカにする対象やないらしい。おそらく、バスケをしとる人らならどんなに弱い奴でも、尊敬の気持ちを持って接するのだろう。こういう奴は嫌いじゃない。ただ歯に物着せずに言葉を発しただけなのだろう。こういう風に俺が思うのを狙って言ったのだとしたら、こいつ、すごいやん。
「アホて…」
山城が苦笑する。俺は降参するように両手を挙げた。軽快な笑いが喉を突き上げる。可笑しい。ほんと、可笑しい。
「わかった。すまんかった。二度と面見せんなってのも撤回する」
それを聞いて山城が笑う。怒っていたお母さんにやっと許してもらえた――そんな感じのホッとした笑みだった。案外可愛い奴なのかもしれない。
フェンスにもたれかかるようにして座る。それを見て山城も隣に座った。
「俺の意志はやわやわやねんな…」
「しゃあない。だって峰岸だから」
フフッと笑った山城の頭を軽く叩く。
イテッと山城が頭を擦る。
「お前に言われたない。その口閉じろや」
「…聞いてもええか?」
「なんや?」
完全に無防備だった俺は山城のセリフの中身をよく考えずにボウッと前を向いたままそれを促した。
「なんでバスケやめたんや?」
息がくっと喉で詰まった。
待てや。それを、今、聞くのか。
嫌な汗が手の平に滲む。
それを知ってか知らずか山城が俺の顔を見て答えを待っている。
「…別になんもない。やめたかったからやめたんや」
「嘘やな」
間髪いれずして返答が返ってきた。
「嘘て! 即答か! 聞いといてそれはないやろ!」
てかなんで嘘やねん。なんでそんな風に思ったんや。
「あんな綺麗なプレーする奴がバスケやめたくなるわけあらへん」
思わずムッとする。
お前に、俺の何がわかるねん。
奥歯を噛みしめる。
「…山城、それはお前の勝手な理想やろ…。俺に押し付けてくるなや」
「だって俺やったら嫌いになんてなられへん」
「俺とお前を一緒にすな!」
「絶対そうや。綺麗なプレーする奴はバスケとは離れられへんのや」
山城が俺を見て真面目くさっていた顔をニヤリと歪ませた。
「峰岸。お前、無理やで」
「何がやねん」
苛々が募る。驚くほど低い声が出た。そのくらい、動揺しているということか。
「今は離れとっても、いつかもう一度バスケをする日がくるぞ。お前はバスケいから離れられへん」
思わず山城を凝視する。先程の敵に挑むような怒りはたちまちかき消えた。
まるで、呪いをかけられたみたいだ。そんなん、嫌や。やっと抜け出せたのに再びあのコートに立つなんて冗談やないぞ。
「そんなわけで峰岸、俺はお前のバスケ復帰推奨派やから。とりあえずやな、峰岸、バスケ部入れ」
山城がすり寄ってきて肩を組む。
「はぁ!? なんでやねん!」
「せやからお前がバスケ復帰するチャンスをばかばか与えて、どっぷり抜け出せへんほどもっぺんバスケに沈んでもらうためや」
「俺はそんなん頼んでへんっ」
腕を払う。
「そいでも俺が戻ってきてほしいから」
「うわっ、敵やっ、敵がここにおる!」
「なんとでえも言えばええ。痛くも痒くもないぞ。ほれ、ここに入部届がやな」
「どんだけ用意周到やねん、きっしょいな!」
「まぁそう言わんと」
山城が俺に入部届を握らせてきたので俺は自己最速で立ち上がって逃げた。




