俺の特技
どうも。緋絽です!
こんな日常的な話はほのぼの書けて楽しいです!
高校に入学する時に書く調査書の『特技』の欄に、バスケは書かなかった。後で先生がボールペンで書き足していたのを見て、酷く居心地が悪くなったのを覚えている。
特技では、なかったのだ。特技というにもおこがましいような実力だったのに。
部屋の隅に転がっているボールを見る。
――離れたいと、切に思った。苦しかった。顔だけ水中から出しているような、そんな息苦しさに耐えられそうもなかったのだ。だから、高校入学が最後のチャンスだと思った。このままやめなかったら、一生離れられなくなるだろうと、直感が告げていた。だから離れた。なのに、離れたのに、やりたいと思うのは何故だろう? あの気だるさを凌駕する快感を忘れられない。
――あぁ、なんて矛盾した思いなのか。離れたい、けれど体があの熱を欲する。あれ以上の快感を俺は知らないのだ。
それは昼休みのことだった。昼飯を食った後、俺はいつも通り健司と翔太と時々女の子も交えて取り留めのない話をしていた。
その時、俺はすっかり考えていなかった。あいつ――山城がバスケ部のエースだというのは予想していた。予想通り、女の子に聞くとその通りだった。その上あいつはもてるらしい。黄色い声と共に答えが返ってきた。
――かっこええよね、山城君って。爽やかで、優しいし。
納得がいかん。世の中不公平や。あいつはただのバスケ馬鹿やで。
そう不満に思いながらも笑って女の子との話を終わらせる。
そう、それなのに考えていなかったのだ。あいつが――目立つということを。
席に座り翔太と健司と顔を突き合わせて話をしていたら、来たのだ。あの男は。
「しかし、航がバスケしよったとはなー」
健司が背もたれに背中を預けて目をぱちくりさせながら言った。
クソ翔太。健司に言うなとは確かに言わんかったけどな。今まで言わへんかったことを考えてちょっとは察しろや!
「なんで言わへんかったんや?」
「別に、やめてたし。そんなうまかったわけやなかったから、言う必要なあらへんて思ったんや」
頬杖をついて少し声を尖らせて返す。
健司は俺が機嫌が悪いのに気付いて口を噤んだ。
しかし、あのアホは。
「嘘やで。こいつ、山城にうまかったて言われてんねんから」
「え、山城に? すげえやん」
健司が目を丸くして俺を見る。驚きと期待の入り混じった、形容するときらきらとした目に見つめられた。
やめてくれ。そんな目で、俺を見ないでくれ。
俺は翔太を睨む。
こいつ、言わんでええことを。
「うまかったなんて言ってへん。綺麗やったて言っただけや」
「それでもすごいやん。山城、あいつ嘘吐かへんもんな。思ったことを口に出すタイプやで、あれは」
うんうんと健司が頷きながら言った。軽く頭を小突く。
「お前が山城の何を知ってんねん」
――突然教室が騒がしくなった。女の子が興味津々な風に扉の方を眺めている。それを見て俺達も扉の方へ目をやった。翔太が短く口笛を鳴らす。
「珍しい客やな」
そこには――俺の大嫌いなバスケ関係者が立っていた。つまり、山城 隼が立っていた。
「あれ、山城や。何してんねんやろ」
「なんや誰か捜しとるみたいやで」
翔太と健司が俺を見る。思わず身を引く。
「な、なんやねん。俺やないぞ!」
だってあいつが俺に会いに来る理由がない。
山城が扉の傍にいた女の子に声をかけた。女の子が頬を染める。
けっ、あんな奴のどこがいいんだか。
「峰岸、おる?」
俺かい!
「えー峰岸君ならあそこに…」
女の子が教室を見回してから俺を指差す。山城が俺を見た。目が、合う。
「あ、ほんまや。おおきに」
中に入ってこようとする山城を手を挙げて制する。
山城がそれを見て足を止めた。
なんでここに来るんや。騒がしくなったやないか。
立ち上がると翔太と健司からガッツポーズが送られてきた。
翔太の足を周りの目を盗んで蹴り飛ばしてから席を離れた。翔太が足を抱えて悶絶しているのを横目で見ながら山城の傍まで近寄る。
「峰岸、ちょっと」
「美帆ちゃんすまんなぁ。呼んでくれてありがとう」
見下さないように僅かに屈んで微笑む。
「え、ううん。お役にたててよかった」
頬を染めて目を逸らした。
よし、とりあえずドローやな。
「おい、峰岸」
無視されたのが癪に障ったのかムッとした声の山城の方を見て上辺だけ笑う。
俺の笑顔を見て山城の表情が固くなる。
そうや、お前はテリトリーを犯した。
「よし、山城。屋上行こか」




