俺のコンプレックス
第二回!航君、イライラします!
「自主トレかー?」
翔太が大きく手を振りながら山城の方に走っていく。
「おっおい」
出来ればバスケ関係者とは今後関わりたくないのだ。たとえこっちしか存在を知っていなくても、バスケの空気を纏っている奴と関わりたくない。
でも、これは、あれだよな。翔太が行ったのに連れの俺が行かへんなんておかしいよな。いや待てよ。顔も知らへん奴のところに行かへんでも別におかしいことないやないか。そうや、おかしない、俺は行かん!
「航何してんねん! 早よ来いや!」
「………へーい」
仕方ない、翔太は何も知らんのや。
諦めて駆け足で2人に駆け寄る。
なるべく目を合わせんようにしよう。
「あれ」
山城がおそらく俺を見て驚いたような声を出した。
「ど、どうも。初めまして。峰岸 航や。以後よろしく」
っつーか二度と現れるな!
「やっぱ峰岸や。お前、俺知っとるか?」
やっぱ峰岸や? てことはあれか? 山城は俺を知っとるってことか?
思わず山城を見ると真っ直ぐ俺を見ていた。
「あぁ…山城 隼やろ」
「なんやお前ら、知り合いか?」
翔太が隣で飛び跳ねている。
舌打ちをしたくなった。お前のせいで面倒なことになったんやないか。後で覚えとけよ、翔太。
「知っとってくれたか。おおきにな。なんや、同じ学校やったんやな。気付かへんかった」
「俺もや」
このあとおそらく聞かれるであろう質問を避けるべく思考を巡らせる。
その結果俺が導きだした対処法は――。
「聞いてもええか?」
「何を?」
俺の顔を見て顔を傾げる。
へぇ。エースだったから、どれだけ偉そうな奴かと思っていたが、案外話しやすい奴やな。
「俺がお前…山城を知っとるのは別におかしないやん。それは自分でもわかるやろ」
わからないなどと言ってみろ。俺は速攻でお前を最低な奴だとレッテルを貼ってやるぞ。
山城は一瞬考え込むと思っていたよりあっさり首肯した。
それに拍子抜けして目を瞬かせる。
「でもお前はなんで俺を知ってるんや?」
翔太にバスケをしていたことを知られてしまうが、この際仕方ない。はっきり言って今はこっちのほうが気になる。
「俺そんな有名やないやないか」
特にうまくもなく、そこそこだったのだから。
自分で言ってズクリと胸が痛くなった。
山城は目を丸くして俺を見た。
「確かに有名やなかったけど。俺、峰岸のプレー好きやったから」
一瞬で、思考が爆ぜた。
何が好きやったって? あぁ、俺のプレーがか。いや、ちょっと待て。試合したことないはずや。なんで俺のプレー好きになれるねん。
「な、なんで」
色々な意味を込めた質問に山城はうーんと考え込んでから俺を見た。
「みんなは気付いてなかったみたいやけど、気付いてる人もおったと思うで」
「な、何をや」
「峰岸のプレーな、美しいねん」
「はい?」
「せやから…うん、うまく言えんけど。お前のプレーな、見てて気持ちがええねん」
「えっ航バスケしとったんか」
翔太が以外そうに目を丸くする。ちょっと黙っとけ。今俺は最高に混乱してるんだ。
「そんなわけないやんか…俺のプレーが美しいて言うならな、なんで俺らのチーム勝たれへんかったんや」
頭を掻いて山城を見る。
「そら当然や。バスケはチーム戦、個人の能力が高くても、うまくせなそれも生きん」
山城がさも当たり前のように答える。
思わず眉を寄せた。
こいつが俺達の何を知ってる。あんなんでも、みんな必死だったんだ。
俺の雰囲気が剣呑なものに変わったのがわかったのか翔太が横目で俺を見る。
わかった。お前はそういう奴なんやな、山城。人の頑張りを、そんな風に無駄だと言ってしまえる奴なんやな。
「山城」
「うん?」
バスケのボールを睨むように見ている俺に気付いてか気付いていないのか山城は首を傾げた。
「お前、なんでこの学校入ってきたんや」
「え?」
何を言っているのかわからない、という顔をしているな。ほんまに、わからへんのやな。
「お前なら、色んな強豪校から引く手数多やったはずや。それなのに、なんで無名のこの学校にきたんや」
山城があぁそういうことかと呟く。
「だってしょーもないやないか」
「しょーもない?」
「そう。しょーもない。IHに行く準備が整っとるとこ行ったって、所詮それはその学校の力や。俺の力ちゃう。ほんなら、行ったって意味ない」
「せやから、自分の力でIHに連れていけるこの学校を選んだってか?」
「連れていく…までは言われへんけど。まぁ、そんな感じ」
「ふうん」
山城に向かって笑う。
「そら御大層なお心持ちやな。バカにしとんのか」
「ちょ…っ、航!」
翔太が焦ったように俺の肩を掴んだ。
振り払って山城を睨む。
「他の選手をバカにするにも程があんねん。ふざけんなよ」
あぁ、それを、俺が言うのか。俺だってあの時、バカにしたやないか。
「うざいねんお前。二度とその面見せんな」
返事を聞かずにその場を去る。
山城が、あの頃の俺に重なって見えた。
追ってきた翔太が俺の顔色を伺うように覗き込む。
「なんやねん航。お前山城嫌いなんか」
「あんな奴好きになれる奴の気がしれん。最低な奴やぞ」
「結構感じえかったやないか」
「お前は鈍ちんか。まぁ、ええよ別に。お前はあいつ気に入ったんやろ。そのまま気に入っとけや」
早足で歩いているからか翔太は小走りで追ってくる。俺より僅かに小さな翔太を見て山城を思い出した。
あいつ、俺より小さかったな。なのに、注目されてるんやからどんだけすげえ能力持ってるんやっちゅう話や。
「そういやお前バスケしとったんやな。一言も言わへんかったけど」
「聞かれへんかったからな。特にうまかったわけやないし、特技でもないし」
「でもあいつ、お前うまかったて言っとったやんか」
公園を出て角を曲がったところで止まる。翔太を振り返って睨んだ。
「お前は今会ったばっかりの奴の話を信じるんかい」
「そうやないけど…」
「しかもあいつはうまかったやなくて綺麗やったって言ったんや」
「同じようなもんやろ?」
「もうええ。俺の前で山城の話すな。気分悪い。置いてくからな」
「あっおい!」
置いていくと言った手前、早歩きで歩き出す。
翔太が小走りならついて来れる速さで。




