冴えきった空気
最終回です!
冬休みが明けて、始業式が終わった後のこと。
「峰岸っ」
帰ろうと靴を履いていたら後ろから呼びかけられた。
振り向いて思わずうげっと声が出る。
「なんや、山城…お前か」
「なんやとはなんやねん。失礼やな」
俺の陰から翔太が顔を出した。
ちなみに健司は野球部の活動があっていない。
休み明けからご苦労なこって。
山城がウィンドブレーカーの袖の中に手を引っ込めて擦りあわせている。
「うぅ、さぶい。年明けても寒さ変わらへんな」
「当たりまえやアホ。冬をなんやと思てんねん。年明けたら温こうなるとか摩訶不思議なトンデモ理論やろ。君が小学生の頃からどうやったか思い出してみぃ」
「そない言わんでもええやろ!」
山城がぶすくれた顔になった。
「ほいで? なんで呼び止めてん。俺らもう帰るんやけど」
爪先で床を蹴って靴を履く。
山城が体を摩りながら口をモゴモゴさせた。
「いや…ほら、あんなぁ…」
チラチラと俺を見上げてくる。
「すぐ出てけぇへんなら帰るわ。じゃーな」
背中を向けて手を振り歩き出した。
「あぁ待った! 待ってくれ!」
山城に腕を掴まれ引き戻される。
くそ。体は俺の方がでかいのに、山城の方が力が強い。ムカつく。
「なんやねん」
腕を払って振り返った。
「いや、あの。……………やっぱり、バスケ部、入らへん?」
これでもかというほど顔をしかめせてみせる。
「はぁ?」
「う、やって、少しはなんかスッキリしたんちゃうかなって思て」
チラッと俺を見上げた。
「泣いてたし」
「はぁぁあああ!? 泣いてへんわ!」
「え、何々? 航泣いたんか?」
ワクワクした顔で翔太が聞く。
「え、まじ?」
いつの間にか野球のユニフォーム姿の健司が輪に入っていた。
2人の頭を叩いて俺は怒鳴る。
「嘘じゃボケ! 俺は断じて泣いてへん! わかったか!」
「「へーい」」
頭をさすっている2人を横目に山城に向き直った。
「バスケはやらん」
「なんでや! やろうや!」
「やらん!」
俺の声に山城が顔を曇らせる。
しゃあないなぁ。
肩を組んで耳打ちする。
「…………今はな! 気が向いたらまたやるかもな!」
あんだけやらんやらん言うといて、今更やるなんて言うなんて、なんや恥ずかしいやんか。
せやから、今はやらん。
隣にある山城の顔が輝いた。
「~~~~いや、やっぱっ」
「やった、俺幸せや、峰岸!」
全力で山城が飛びついてきた。
「うっわなんや! 何すんねん、きっしょいなぁ!」
「許せ! 今だけ今だけ!」
遠くでバッシュが床を駆けるスキール音が響く。
案外、あのコートに立つ日は近いかもしれない。
冴えきった空気を吸い込んで、そう思った。
お付き合いいただき、ありがとうございました!




