表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

2:帰郷の決心

 森の中を歩きながら、キッポが、

「今度はリムノとルカスの旅に付き合うよ。2人とも目標があるんでしょ?」

 新鮮な空気を肺一杯に満たして、

「キッポの旅の方が大切なんじゃない? いいの?」

「うん。その途中で情報が得られるかもしれないし。いいよ」

「だったら……。リムノ。お前の目標を叶えるか。オレはずっと後回しでいいから。急いでないしな」

 ルカスも言ってくれた。わたしの目標かあ……。

 細い道をゆっくり歩く。南方の森だからか、木々の葉が元気そうに風に踊ってる。

「わたしのかあ。――特に無いよ?」

「本当は。故郷に帰りたいんじゃないのか?」

 感心するぐらい、ルカスは洞察力が鋭い。わたしより歳上なだけあるわ。

「うーん……。確かにそうなんだけど。両親には会いたくないの。兄さんと妹は気になるけどね」

「だったら、こっそり会いに行くのはどう? お父さんとお母さんが苦手なんだったら」

 キッポはそう言ってくれるけど。

「セキュリティが高過ぎて、兄妹だけ会うのはムリだと思うの。どうしても両親と顔を合わせないと、連絡も取れないわ」

 小さな沢を越える。砂利の音が小気味いい。

「前々から思ってたんだが」

 ルカスが口を開く。

「どうしてそんなに、両親を毛嫌いしてるんだ?」

 そっか。話してなかったっけ。

「わたしね? 半分勘当みたいに、師匠の元へ修行に出されたの。それはいいんだけど、両親が政界に深く入りたいがために、兄さんや妹を勝手に、そう、チェスの駒みたいに利用してるのが許せないの。口答えばかりしてたわたしは、いらないみたいだし。だから両親が嫌い。許せない」

 話しているうちに、両親への怒りがふつふつと沸いて来た。人を人として見ていない両親に。

 息をついたルカスは、

「なるほどな。リムノの事情は分かった。でも、実の娘だろ? 考えてるより、大切にされてるかもしれないぞ?」

 わたしは首を横に振った。

「そんなことない。だって、師匠が亡くなった時、ちゃんと手紙を出したのに、返事一つ来なかったもの。わたし、見捨てられてるの」

 やっかみが入ってるのも分かってる。でも一度許せないって思ったら、消せないもの。この感情は。わたしは政界に興味も無いし、地位を手に入れたいとも思わない。窮屈な生活に汲々としているよりも、魔道の修行を積んで旅をしている方がずっと好き。わたしは続けた。

「兄さんと妹が気になるけど。2人ともおとなしいから、いいように生活させられてると思うの。そんな兄妹に、わたしの話をしたいのはすごくある気持ちだけど……。両親とは顔を会わせたくないわ」

 木漏れ日が、わたしの複雑な感情とは関係無しにきらきらダンスしているのが、とても気持ちいい。キッポじゃないけど、森の中って危険はあっても安心出来るわね。空気も美味しいし。木々の下草までも愛おしく思えちゃう。

「それでも。行ってみろよ、リムノ。故郷を出てどのくらい経つ?」

 ルカスが、前合わせ衣服の具合と帯を直しながら言ってくれた。

「うーん。――7、8年は経ってるわね。どうして?」

「その間に、考え方も変わってるかもしれないだろ?」

 そうは言ってくれるけど……。

「たぶん、変わり無いわ。兄さんたちを利用してるなら、政界で大きな力を持って、もっと伸し上がろうとしているわよ」

「それでも。顔を見せてやれよ。どんなでも、娘はかわいいものだぞ」

 ルカス……。そう言ってくれるのは、すごく嬉しいんだけど。

「リムノ。もしお兄さんと妹さんに会えなかったとしても。一度故郷に帰ってもいいんじゃないかな? ボクはそう思うよ」

 キッポも言ってくれた。やさしさは相変わらずね、キッポ。少し痛いけど。

 わたしはちょっと黙って、歩きながら考えた。確かに。会えなかったとしても、故郷は恋しい。出来ることなら会いたいけど、叶わないならそれでもいいから帰ってみたい。何だかわたし、今さらホームシックかしら?

 でも。それだったら、故郷に帰る前に師匠の墓前に立ちたい。実の娘のように可愛がってくれた、ココロやさしい師匠。うん。その方がいいかもしれない。師匠に報告しなきゃね。こんなステキな仲間たちと旅をしていることを。

 そこまで考えて、

「――じゃあ。じゃあね? 故郷に帰る前に、師匠のお墓参りをしたいわ。それでも……いいかしら?」

 ルカスとキッポは微笑んでくれた。

「ああ、構わない」

「ボクも。どんなところで魔道を勉強したのか、興味あるよ」

 わたしも笑みが自然に浮かんだ。

「ありがとう。でもね? ここからだとかなり遠いのよ。船旅になっちゃうけど、それでもいい?」

 勘定係のルカスが、

「最低ランクの客室なら何とかなる。でも、だいぶ厳しくなったからな……。船を降りたらギルドに寄って、ネタ探してから少し稼がないといけない」

「わたしもギルドに行かないとなあ。新しい魔道も覚えたいし。いつまでも魔道の額冠に頼りっ放しじゃいられないから」

「ボクの『部落探し』みたいだね」

 キッポが言った。ルカスはちょっと苦笑すると、

「そんなもんかもな。ただ、これは金稼ぎだ。どんなネタがあるか分からんが、成功しないと金は手に入らない」

 また小さい沢を越えた。ぴょんとジャンプして越えたキッポは、

「いいよ。お金稼ぎでも。途中で情報が手に入る可能性も、高くなるかもしれないからね」

「よし、決まりだ。今度はリムノに付き合おう。いいか?」

 長髪をかき上げながらルカスが言った。

「もちろん」

 キッポもうなずいてくれた。

「ごめんなさいね、わたしのワガママで」

「気にしないで。ボクの時にあんなに協力してくれたんだもん。それに、船って乗ってみたかったし」

「よし。行こうぜ?」

 笑顔で答えてくれる仲間。――ありがとう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ