表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/19

1:キッポ、再び旅へ

前作、

『キッポと一緒!』

http://ncode.syosetu.com/n6316bc/


をお読みになっていらっしゃると、いろいろな点がお分かりになるかと。


どうか宜しくお願い致します。

 ん~。

 わたしはベッドから起き上がり、思いっ切り伸びをした。ホントに良く寝たー。長旅の疲れも吹き飛んだわ。

 首をコキコキしてから、眼をぐしぐし。わたしはベッドに腰かけたまま、もう一度伸びをする。ベッドサイドのカーテンを開いてみた。わ! もうオヒサマが中天! 寝過ぎちゃったかしら?

慌てて服装を正し(って言っても、いつもと同じ固い生地の服なんだけどね)、枕元に置いておいた魔道の額冠を着ける。――うん。これでほっとするわ。立ち上がり、居間につながるドアを開けた。

「おはよー」

「何が『おはよー』だ。もう昼過ぎだぞ、リムノ」

 ルカスに言われた。

「ごめんなさい。久々のベッドが気持ち良くって」

「まあまあまあ。よく休んで頂けたようで。散らかってますけど、そう言って頂けると嬉しいですわ」

 キッポのお母さんが、前掛けで手を拭きながら言ってくれた。

「あ、ホントにすみません。――わたしが最後?」

 前半はお母さんに、後半はルカスに。

「一番最後。何度ドアをノックしようと思ったか」

「キッポは?」

「今、兄弟で柴刈りに。お食事の用意は出来ておりますの。どうか召し上がって」

「ありがとうございます」

 お母さん。いいなあ、こんな雰囲気。寝過ぎちゃったのは恥ずかしいけど。おなかが大きな音を立てた。ううう、もっと恥ずかしい。

 ここはキッポの故郷。ドルイドの旅を終えたキッポと一緒に、実家に泊まらせてもらったの。昨夜はお母さんまで巻き込んで、家族みんなプラスわたしとルカスで大宴会。お酒は強くないのに、お父さんに勧められるまま飲んじゃったわたしは、これまた恥ずかしいことに言動をあまり覚えていない。ルカスに支えられながらベッドに寝たのは、何とか覚えてるんだけど……。

 そんなことを思い返しながら、食事を頂くことにした。ふわふわのパンにハチミツをたっぷり付けて、ぱくん。美味しい! 昨日の宴会でも、美味しい食事を出してくれたなあ、お母さん。お料理上手って尊敬しちゃう。わたしがお料理、ヘタなのもあるけど。

 師匠の下では、わたしが食事を作ってたんだけど、自分でもヘタだって分かってた。それでも師匠は、にこにこ食べてくれたけどね。魔道の修行もそうだけど、お料理も勉強しなきゃなあ……。

 新鮮なサラダも美味しい。いっそのこと、キッポのお母さんに弟子入りしようかしら? 冗談だけど。

 食事を終え、せめて、と思って洗い物は自分でした。お母さんは、

『お客様に申し訳無い』

って言ってくれたけど、申し訳無いのはこっちの方だ。寝坊して、食事まで作ってもらったんだから。

 洗い終わったお皿を拭いていたら、キッポたち兄弟が帰って来た。キッポはやっぱり末っ子なんだって。上にはお兄さんが4人。言い方が悪いけど、みんなキッポそっくりで、わたしには見分けが付かない。キッポだけは一番背が低いからと言うのと、今までの旅のおかげで分かるけどね。

「お帰りなさい」

 わたしはキッポたちに言った。

「ただいま。リムノが洗ってたの?」

「寝坊したお詫び」

「良く寝てたもんね。疲れは取れた?」

「おかげさまでね」

「まだだったら、薬草あげるよ。苦いヤツ」

「いりません」

 ――いつものやり取り。これがまた続けられると思うと、内心嬉しい。

 そう。キッポは旅の目標を果たし、一人前のドルイドとなった。お別れなんだ、って思ってたわたしとルカスだけど、キッポが、

『旅をするドルイドになりたい』

と言って、この先も一緒に旅をすることになったの。泣いちゃうほどに嬉しかった。だって旅をして来て、キッポは家族同然のように感じていたから。一晩だけ実家に泊まって、また出発することになったの。部落の老師もその提案に、大きくうなずいてくれた。立派なドルイドとなるように、って。

「父さんは?」

 キッポが、私が拭いたお皿をしまっていた、お母さんに訊いた。

「裏の畑だと思うわ。相変わらず何も言わないで、ふらりと出て行くんだから、お父さんは」

「じゃあ呼んで来る。そろそろ出ようと思ってたし」

「いいよ、キッポ。オレが行く」

 一番上のお兄さん(確か)がそう言ってくれた。

「もういいのか、キッポ?」

 お茶を御馳走になってる、ルカスが訊いた。

「うん。キリが無いしね」

「まあまあまあ。忙しい子だねえ。もっとゆっくりしていいんだよ?」

 お母さんが残念そうに言った。――そうよね。いつ帰って来るか分からない旅に、カワイイ息子が出かけるんだもん。

「決心鈍るし。昨日も言ったように、コマメに帰って来るよ」

 キッポは素っ気ない。だから余計にカワイイのかな?

「行くのか、キッポ?」

 のっそりとお父さんが帰って来た。

「うん、そろそろね。リムノ、ルカス。いい?」

「オレはいいが」

「わたしも。キッポはいいの?」

「うん。最後に、老師に挨拶してから出かけるよ」

 言いながら、キッポは荷物の支度をしている。じゃあわたしも。って言っても、バックパックと額冠ぐらいしか無いんだけどね。ルカスなんかもっと。いつもの、東方独特な前合わせの服装で、腰に長剣を着けるだけ。胸元のペンダントは着けっ放しだし。これはお守りだからかな? 以前、何か魔道が封じてあるのか、訊いてみようと思ったっけ。

「まあまあまあ。キッポ。しっかりと旅をするんだよ?」

「母さんの言う通りだ。お前ももう一人前のドルイド。恥ずかしくない旅をするんだぞ」

 褪せた服の上に革のブレストアーマーを着け、ハルバードを手にしたキッポは、

「大丈夫。また帰って来るから。じゃ、行って来ます」

 相変わらず素っ気ないキッポ。

「気を付けてな」

 お兄さんの一人が言った。キッポは軽くうなずいて、

「行こうか。リムノ、ルカス」

 聖堂へ向かって歩き出す。そんなキッポに、

「いいの? あんなあっさりしちゃってて」

わたしは訊いた。だって、また長旅に出るって言うのに。

「うん、キリ無いもん。ボクも家にいたら、出かけるのがだんだん億劫になっちゃうし」

「やさしい御両親だったな」

 手の甲で無精髭をざりざりしながら、ルカスが言った。

「そうだった? 良く分からないや」

「久々だよ。暖かい家族の中って。オレにはもう、叶わないことだからな」

 ――ルカス、家族がいないのかしら? 訊いちゃ悪いわね。話せる時になったら、きっと話してくれるでしょ。わたしはあえて掘り下げなかった。そんなことを思いつつ、聖堂に着いた。

「失礼します、キッポです」

 キッポがノック。しわがれた返事が来る。わたしたちは聖堂に入った。独特の匂いのする香が、安心させてくれる。

「昨日お話ししましたように、これから旅に出ようと思います。こちらのリムノ、ルカスにも納得してもらえました」

 老師は盲目ながら、波動で心理を得ることが出来るらしい。ゆっくりとキッポの方を向くと、

「気を付けて行きなさい。各地の部落からの情報、待っていますよ。――人間様。キッポはまだまだ未熟なドルイド。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうか宜しくお願い致します」

 ルカスが、

「こちらこそ。共に旅を出来ること、嬉しく思っております。キッポ君は大切な旅の仲間ですから」

 老師は笑みを浮かべた。

「そうおっしゃって頂けるなら。キッポ? 昨日も申したように、ドルイドとして恥じぬ旅をするのですよ」

「はい。では、行ってまいります」

 キッポとわたしたちは、深く礼をした。外に出て歩いていると、通りすがるフォクスリングたちが、

「もう行っちまうのかい?」

「気を付けるんだよ」

などと挨拶してくれた。キッポはにこやかに返事をしている。

「そう言えば、昨日のちびっこたちは?」

 わたしは言った。だってあんなにキッポになついてたのに。

「あ。今の時間は手習い所。北の外れにあるんだ」

 それでか。キッポもきっと、別れが惜しくなるからこんな時間を選んだんだろうな。

部落の外れに来ると、キッポは立ち止って振り返り、じっと部落の様子を見つめている。しばしのち、キッポは部落から出た。何か感じていることがあるんだろうけど、わたしもルカスもことばにしなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ