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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第五章 貧困都市リグラスラム編 『妹弟子と引き金の硬貨』
94/500

ウェイルの師匠 シュラディン ※

「師匠!! ただ今帰りました!!」


 リグラスラム郊外のスラムの中。

 ウェイルが少年期に修行していたという建物の前に来た。

 壁にはあちこちひびが入り吹き荒ぶ風で風化寸前の家だったが、廃墟と表現するにはいささか失礼に値する。

 確かにボロッちい建物ではあるのだが、とても大切に使われているように見受けられる。

 掃除も行き届いているのだろう。非常に小奇麗なのだ。

 そんな家を見て、ウェイルは過去を思い出し感傷に浸っている。


「……懐かしいな……。本当に。何年ぶりかね……?」


 家のそばに転がっていたバケツ。

 これでよくギルパーニャと水遊びをしたものだ。


「フレス。ここが俺の師匠が住んでいる家だ。お前にとっては師匠の師匠だ。きっといい勉強をさせてもらえるさ」

「そだね! ボクもそのウェイルの師匠って人に色々と聞いてみたことがあるんだ!」


 そんな会話を交わしていると、家の奥からギルパーニャが二人を呼ぶ。


「おーーい!! ウェイル兄、フレスちゃん! 入ってきてよ~~!!」

「今いくよ~~。ウェイル、ボク先に入ってるね!」

「おう。俺もすぐ行く」


 フレスが家に入った後、ウェイルは転がっていたバケツを、昔の記憶にある定位置に戻すと、少しばかり笑みを浮かべて家に入ったのだった。




 

 ――●○●○●○――





 家の中は、外見からは想像もつかないほど広い。

 鑑定士という職業に就く者の住処には、おおよそ地下室が備わっている。

 鑑定品を管理、所蔵するには持って来いであるし、防犯上の観点から見ても効率が良いからだ。

 ウェイルの師匠は地下室にいたらしい。ギルパーニャが連れて、今に戻ってきた。


「……師匠、お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだ」


 現れたのは、渋い声の老人。

 しかし、ただの老人と思うでなかれ。

 御年六十にもなろうとしているその肉体には、年相応と言う言葉など辞書から消してしまったの如く、隆々な筋肉を携えていた。

 スキンヘッドで、こめかみにはドラゴンのタトゥー。

 表情は終始穏やかであったが、その瞳だけは異常なまでに鋭かった。

 もし怒らせてしまった場合のことなど想像もしたくはない。


挿絵(By みてみん)



 そんな男に、ウェイルは仰々しく頭を下げた。

 フレスもつられてピョコッと頭を垂れる。

 師匠はゆっくりと手を上げ、それをウェイルの肩に乗せた。


「……ラッハッハッハッハッ!!! ウェイル! お前、随分礼儀正しくなったじゃないか!!」


 懐かしい笑い声が響く。


「不肖の弟子が久しぶりに師匠に会うわけです。仰々しくもなるというもの」

「何言ってんだ!! 俺が教えるまで敬語というものすら知らなかった奴が! しかも教えたところで使うことはなかっただろう?」

「そうだよ! ウェイル兄、貴族連中にもタメ口叩くんだから!! 師匠がどれだけ変な目で見られていたか覚えてないの?」

「……無論、記憶しております。その節は誠に申し訳ありませんでした」

「ラッハッハッハッ!! 過ぎたことだ。それに貴族連中はスラム街の住民には皆奇異な視線を向ける。ウェイルがどうこうする以前の問題だ! それよりもウェイル。いい加減堅苦しいのは止めろ。息が詰まる。それとも何か? お前さんは師匠の息の根を止めたいとでも言うのか?」

「……そうだな。今更師匠に敬語なんて考えられない」

「それは少し問題があると思うけどなぁ?」

「ギルパーニャ。お前も人のことは言えんぞ?」


 懐かしい会話劇を繰り広げた三人は溜まらず腹を抱えて笑った。


(むぅ……。ボクだけ仲間外れ……)


 フレスはというと、疎外感を感じて少し不貞腐れていたのだが。




 改めて師匠に振り向くと、ウェイルはフレスを紹介した。


「師匠、ついに俺にも弟子が出来てな。紹介するよ。こいつの名はフレス。プロ鑑定士を志望していてな。俺が面倒を見てる」

「むぅ、ボクがウェイルを守っているんだけど!」

「確かにな。フレスには随分と助けられてるよ」


 今の台詞。それは本心だった。

 ここ短期間の間に起きた数々の事件。

 とてもじゃないがフレスなしでは解決できていなかっただろう。

 そんなウェイルの本心はしっかりと師匠に伝わったらしい。


「ふむ。良い師弟関係なのだな」

「ああ。それは自信を持って言えるよ」

「そうか……。ではウェイル。ワシのこともフレスちゃんに紹介しろ」

「フレス。この方が俺の師匠であるプロ鑑定士、シュラディンだ。俺の師匠だからな。目利きの腕は大陸一だよ」

「た、大陸一!? す、すごい……」

「そりゃあ大げさだろう? 精々リグラスラム一だ」

「大げさなもんか。このウェイルの師匠なんだぞ?」

「お前のその自信過剰っぷりは見ていて気持ちいいな! そういえばお前、ヴェクトルビアで何やら大活躍したそうじゃないか! 噂になっていたぞ?」


 王都ヴェクトルビア。

 『セルク・オリジン』を巡って起きた一連の事件は、瞬く間に大陸全土に広まり、その事件を解決した英雄としてウェイルの名前は大陸中に知られることになった。


「なんでもセルク関係とかなんとか。新聞で読んだが、相当大きな事件だったようだな?」

「……あの事件は色々と考えさせられるものがあった。芸術は時に人を狂わせると、身に染みて思ったよ」

「……そうか。ま、無事で良かった。お前さんは昔から無茶ばかりする癖があるからな。師匠としては心配なんだよ」

「…………心労掛けるよ……」


 シュラディンは優しくウェイルの肩に手を置いた。

 それは師匠が弟子を褒める時の仕草。

 久々に味わった褒められるという状況に、ウェイルは少し嬉しくなったのと同時に、少しばかり反省した。


「師匠~~~!! ウェイル兄~~~!! フレスちゃん~~~!! 食事の準備するから手伝ってーーー!!!」


 そんなしみったれた空気を一掃する、軽快なギルパーニャの声。

 ウェイルとシュラディンは互いにニヤリと笑うと、


「「今いくよ!」」


 と、声を合わせて調理場へ向かったのだった。











「大陸一……。だったらシュラディンさんは、フェルタリアのこと、詳しいのかな……?」


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