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龍と鑑定士  作者: ふっしー
番外編その1 フレス編 『プロ鑑定士ってなんなの?』
90/500

フレスのお料理教室

「うう……、やっちゃったよぉ……」


 今、フレスは反省していた。

 フレスの目の前には、空になった食器達。


「ウェイル、ごめん……」


 どうしてこんなことになったのか。

 それは数分前に遡る。



 ――●○●○●○――



「……しかしサグマールの奴、一体何枚報告書を書かせるつもりだ……」


 その日、ウェイルはクルパーカー戦争についての事後調査報告書を書くため部屋に籠りきっていた。


「…………イングやその神器、……さらにフロリアのこともとなると……、こりゃ飯を食ってる暇もないな……」


 あれだけの事件だったのだ。しかもウェイルはサグマールの協力があったとはいえ、独断で動き回っていた節もある。

 そういうことで書くべき書類は山ほど積まれていたのだ。


「……腹減ったな……」


 そんなウェイルを心配する視線があった。


(……ウェイル、ご飯も食べないで大丈夫なのかな……?)


 正午はとうに過ぎ、おやつの時間にもなろうかという時間帯。

 ウェイルは朝から食事を摂る事もせず、机にかじりついている。

 フレスはそんなウェイルを心配して、用意されていたウェイルの昼食を部屋に運んであげていた。

 ――しかし。

 ウェイルは多忙から口にする暇がなかった。


「…………お、おいしそう……。……ダメだ、我慢しないと! ……ごくり」


 おやつ時に、目の前にご飯。


「……ウェイル? 食べないのかなぁ……?」


 相変わらず忙しなく報告書をまとめ続けるウェイル。


「……ちょっとくらいなら食べてもいいよね……?」


 目の前で漂うかぐわしい香りに、フレスはついウェイルの分の昼食を全部食べてしまったのだ。




 ――●○●○●○――




(……うう……。何でボク、ウェイルの分を食べちゃったんだろう……)


 反省したところで食べ物が戻るわけではない。

 どうにかしてウェイルを手助けできないかと、フレスは考えていた。

 そして思いついた。


「――そうだ!!」


(ボクがウェイルの為のご飯を作ってあげればいいんだよ!!)


 そうなれば早速行動あるのみ。


「ウェイル、ちょっと外に出てきていい?」

「本は読んだのか?」

「…………まだだけどさ……。もう飽きちゃったんだよ!! ねぇ、ちょっとくらいいいでしょ?」


 ベッドの上で転がりながらフレスは駄々をこねる。


「駄目だ! あれしきの本が読めないでプロ鑑定士になんてなれるか!!」

「むぅ、だって面白くないんだもん! ボクだって何かしたいんだよ! ねぇってば!!」

「……俺は今仕事中なんだ! あまり騒がしくしないでくれ」

「じゃあそれを手伝うよ!」

「素人には無理だ!」

「じゃあ外出認めてよ!」

「本を読んだらな!」


 しばらく口論が続くと、フレスは完全に拗ねてしまった。


「もう! ウェイルの馬鹿! 分からずや!! ウェイルの為なんだからね!! いいもん! ボク、ちょっと出てくるから!」


 プンスカと頬を膨らませ、フレスは部屋を飛び出してしまった。


「全く……。……俺の為……?」





 ――●○●○●○――





「……とはいえ、ボク、料理なんてしたことないよ……」


 したことがないと言えば嘘になる。

 以前フェルタリアにいた時、一緒に住んでいた女の子に料理を振る舞ったことがあるのだ。


「……ライラ、あの時気絶しちゃったもんな……」


 結果は惨敗であったが。


「料理できそうな人かぁ……」


 プロ鑑定士協会から外に出る。

 このマリアステルで知っている人。

 誰かいたかなぁ……?


「……そうだ! テリアさんのところに行こう!」


 このマリアステルで知っている人なんて、そもそもアムステリアくらいしかいない。

 思いつきのまま、アムステリアの家にやってきた。




 ――●○●○●○――




「……どうしてあんたがうちに来てるのよ……」

「それがね、ボクがウェイルの分のご飯を食べちゃって。代わりにボクが料理を作ってあげようと思ったんだよ」

「へぇ、あんたが料理、ね。少しは出来るの?」

「全く出来ない!! えっへん!」

「そこ威張るところじゃないでしょ!?」

「テリアさん! ボクに料理を教えてください!」

「断る! そして次にまたテリアって言ったら殺すわよ!?」

「お願いだよぉ~~~!! 教えてよ~~~~!!!」

 

 アムステリアの腕にしがみつき、フレスは泣きながら懇願する。

 アムステリアがいくらブンブンと振っても離れる様子はない。


「離しなさい!!」

「教えてくれるまで離さない~~~!!!」

「今仕事で忙しいんだよ!! ウェイルならともかく、あんたなんかのために割く時間はなんて一分一秒もないの! ほら、さっさと帰りなさい!」

「嫌~~~!!」

「このクソガキ……。こうなったら……!!」


 アムステリアはフレスの掴んでいる服を脱ぎ捨てて。

 フレスは服と共に外に投げ出されてしまったのだった。


「……う~ん。テリアさんも駄目なら……。サラーのところは遠いし、ボク、他に知っている人いないよ~~~。……あ、服一枚貰っちゃった! ラッキー!」


 なんとも無駄にポジティブなフレスであった。


 とはいえ知り合いが少ないことに違いはない。

 そのことに、これからどうしようかと思案しながらトボトボ町を歩いていると。


「――あ!! この店!!」


 見覚えのある店が目に留まった。

 ここは確か、サラーと再会したあの料理店!

 ここならば、きっとおいしい料理を教えてくれるはずだよ!

 フレスは目を輝かせながら店に入った。


「いらっしゃいませ♪ 一体何名様なんだよ、コラァ!?」


 店に入ると、あの謎の接客さんが来た。これはチャンスかも!


「一名です! 料理を教わりに参りました!!」

「…………はぁ?」


 流石の接客も、聞いたことのない注文に目を丸くしていた。


「てめぇ、この間クマがどうとか言っていたクソガキではないですか♪ 料理を習いに来やがったのか?」

「そうなんだよ! お願いします! ボク、何でもしますから!!」


 深々と頭を下げたフレスに、どうしようかと頭を掻く接客。


「お願いします!」

「……判ったよ。コックに話を付けてやる。感謝してくださいませ♪」

「うん! ありがとう!!」

「だが一つ条件がある!」

「条件? それって……?」

「それはな――」



「――いらっしゃいませー!!」



 フレスの凛とした声が、店内に響く。

 食事する客の視線はフレスに集中していた。

 ただでさえ目立つ風体をしているフレス。

 その彼女が、メイド服を着てウェイターをやっていたからだ。


「おいおい、あんな可愛い子、この店にいたか!?」

「いやいや! あの意味不明な接客しかいなかったって!!」

「注文、お決まりでしょうか!? ……て、うわぁ!!」


 ドジなところは相変わらずで、持っていたコップを落とし、水浸しになる。


「うう……びしょびしょだよぉ……」


 そんなフレスに、さらに客の視線は集中したのだった。


「何もない所でこけてるよ……」

「でもそんなドジなところがいい!!」

「……失礼しました……。ご注文は……?」

「じゃあ俺海鮮パスタとサクスィルのコーヒー」

「俺は豚ヒレ煮込みとライス、ミルクスープで」

「……それだけでいいの?」

「「え!?」」


 フレスは客に問い返した。

 フレスからしたら至極当然だった。

 何せ一回の食事で何皿も注文するフレスだ。この量で足りるわけがないと考える。

 しかし、客から見た場合、この言葉の意味は変化する。


「……もしかして、俺達、これだけしか頼まない意気地なしとか思われてる……?」

「……かもな。見ろよ、あの子の視線……」


 うるうると涙目なフレス。

 まるで小動物のような、そんな可愛らしい顔に、客は葛藤する。


「……じゃ、じゃあ、この山菜パスタも追加で!」

「お、俺もそれを!」

「……それだけで満足なの?」

「「ううっ!!」」


 ちなみにフレスが涙目なのは。


(ボクも食べたい……)


 ただの食欲だった。

 そうとは知らない男たちは、


「「もう全品持って来い!!」」


 本日は、この店の売り上げ史上最高を記録したのだった。




 店が閉店して、フレスはコックに料理の手ほどきをしてもらう。

 最初はたどたどしい手つきで包丁を持っていたが、元々フレスは器用なもので、


「やった! もう千切りが出来るようになったよ!!」


 と、コック顔負けの実力を発揮していた。

 調味料や材料の説明も、懇切丁寧に教えてもらい、いくらか慣れてくると、


「よし、嬢ちゃん。今日の賄い料理は俺と一緒に作るか!」


 とのコックさんの計らいで、シチューを作ることとなった。


 その出来栄えは予想以上に良く、コックと一緒に作ったとはいえ、人前にだしても大丈夫なほどであった。


「おお! これ中々美味じゃねーか! よくやりましたね♪」

「このシチューならどんな男も喜ぶぞ!」

「本当!?」


 接客からの反応も上々で、コックのお墨付きも得ることが出来た。

 帰りにシチューを分けてもらい、フレスは意気揚々とウェイルの元へ向かったのだった。



 ――●○●○●○――



「ウェイル、起きてるー?」


 部屋に入ると、中は真っ暗で、机の上のランプだけがゆらゆらと光っていた。


「……zzz」

「……ウェイル、寝ちゃったんだ……」


 それもそのはず、フレスが帰宅したのは深夜十二時。

 仕事で疲れているウェイルは当然寝ている。

 それを判っていたからこそ、あえて起こすことはしなかった。

 せっかくのシチューだけど、今起こすのはとても悪い。


「……ここに置いておくからね」


 シチューの入った鍋をウェイルの元へ置くと、フレスは自分もベッドに入った。


「……少しでもウェイルの力になれたらいいなぁ……」


 今日一日色々あって疲れていたのか、フレスは目を閉じるとすぐに夢の世界へと誘われたのだった。





 ――●○●○●○――





 ――次の日。


「…………むにゃむにゃ……。ふぁああああ~~、もう朝ぁ……」


 ぐぐっと背を伸ばしてペタリと座る。

 机を見ると、相変わらずウェイルは忙しそうに書類を作っていた。


「……おはよ、ウェイル!」

「……フレス、お前昨日どこ行ってたんだ? なかなか帰ってこなかったから心配したんだぞ?」

「……うう、ごめんなさい」

「今日こそしっかりと勉強しろよ? でないと旅にいけないぞ?」

「……判ったよーう」


 なんだい、せっかくボクはウェイルの為に頑張ったのに。

 少しくらい褒めてくれたっていいじゃない……。

 フレスはムッとして顔を洗いに行くため扉に手を掛けた時。


「シチュー、おいしかったぞ」


「…………え?」


「あのシチュー、お前が作れたんだろ? おいしかったって言ったんだよ。少しおいしすぎてびっくりしたが……」


「うう……、あれ、ボクが一人で作ったわけじゃなくて、コックさんに手伝ってもらったんだ」

「そうか。……それでもな、あれはお前の料理だよ。なんていうか、そのな……」

「?」


 珍しくウェイルが言葉を濁す。

 鼻の頭をポリポリ掻きながら、ウェイルは照れ臭そうに言った。


「……美味しかったよ。お前の、その、心遣いはしっかりと感じられたからな」


「ウェイル……!!」


 ボクの体は勝手に動いていた。

 そう、尊敬すべき師匠に向かって。


「ウェイル~~~!!」

「おい、フレス! 抱きつくな!!」

「えへへ、すりすり……」

「フレス! これじゃ仕事出来ないだろ!?」


 いいもん。ちょっとくらい仕事が遅れたって。

 もしまた忙しくてウェイルが昼食が取れないことがあっても、ボクが作ってあげる!


「えへへ、ウェイル~~~!!」


 ウェイルが師匠で、本当に良かった!







「…………だが昨日約束を破ったのは事実だ。今日はしっかりと勉強してもらう」

「うええええ!! もう飽きたよ~~~~~~~!!!!」


 ウェイルが師匠で、本当に勉強になった。


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[良い点] >……あ、服一枚貰っちゃった! ラッキー!」 お前はつるぴかハゲまるくんか?!
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