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龍と鑑定士  作者: ふっしー
番外編その1 フレス編 『プロ鑑定士ってなんなの?』
88/500

プロ鑑定士って一体どんなお仕事するの?

フレス視点の短編集です。

世界観の説明やキャラ紹介を兼ねております。

本編にも関係があるので、是非読んでみてください!


3つの短編の時間軸は『最後の仕事』と『それから』の間です。

「ねーねー、ウェイルー。ボク、プロ鑑定士になるって言っちゃったけど、鑑定士って一体どんなことをするの?」

「そういえば詳しい説明をしたことはなかったな。よし、丁度いい機会だ。話してやるよ」


 クルパーカーの事件の後、ウェイルはフレスをプロ鑑定士にしてやると約束した。

 だが、考えてみればフレスに鑑定士の仕事のことを話したことはない。

 丁度プロ鑑定士協会にある自室にいるのだ。

 この協会のことを含め、改めてフレスに教えてやる必要がある。


「まずプロ鑑定士の業務内容のことだが、基本的には依頼品の鑑定と贋作士の摘発という二つのことを主としている」

「うん。それはボクも一緒について行ったから判るよ」

「まあ大体の鑑定士は俺と同じようなことをしているよ。この協会内に籠って鑑定だけしている鑑定士もいるけど、それはお前も嫌だろう?」

「嫌! 籠りきるなんてつまんないもん!」

「それは俺も同感だ。だからといって今回みたいに事件に巻き込まれるのは御免なんだけどな」


 ウェイルは本棚から何本かの本を取り出し、机の上に並べた。


「鑑定について詳しい方法を話そう。今後お前も鑑定をすることがあるだろうからな」


 その中から一冊の本をフレスに手渡す。


「フレス。もしお前がその本を鑑定したとする。そしたら鑑定後にこの書類を書かなければならない」

 

 ウェイルは引き出しを開けて二枚一組の用紙を取り出し、フレスの前に置いた。


「……紙……? これ、なんて書いてあるの?」

「公式鑑定証明書だ。 …………? お前もしかして字が読めないのか……?」


 そうだ。フレスは人間じゃない。今アレクアテナで流通している文字を読めるとは限らない。


「うーん……。読めないことはないんだけどね。まだ慣れてなくて」

「……え!? 読めるのか!?」

「むぅ。ボク、一度フェルタリアで解放されているって言ったでしょ? その時に教えてくれた人がいるんだよ。ただ思い出すのに時間が掛かるだけなんだ」

「……フェルタリアか。そうか、それは良かったな」

「うん! それで、この鑑定証明書はどう書くの? なんだか二枚あるけど」


 見ると公式鑑定用紙は二枚で一組になってる。

 一見同じように見える内容だが、ところどころ形式が違うところがある。


「これらは二枚書いて初めて意味を持つ。一枚は価値証明書、もう一枚は鑑定証明書だ。どちらにも鑑定品の名称と所有者名、鑑定金額、鑑定士名、そしてプロ鑑定士であればプロ鑑定士コードを記入するんだ」

「プロ鑑定士コード?」

「公式鑑定証明書は別にプロ鑑定士でなくても作成できる。例えばセルクの絵画だが、下手なプロ鑑定士よりもルミエール美術館のシルグルのような専門家の方が詳しいことが多いからな。だからプロ鑑定士と一般鑑定士を判りやすく分別するために、プロ鑑定士はこのコードを記入しなければならない。コードはプロ鑑定士資格を得たと同時にもらえるんだ」

「へぇ~。別にプロじゃなくても鑑定していいんだ!」

「そうだ。だからお前も鑑定することは可能だ。しかし、それはまだ止めておいた方がいいだろうな」

「どうして?」

「知識が足りないだろう? 鑑定に誤りがあってはならないからな。それについては後説明しよう。この二枚、どちらもそれらの要素を記入した後、価値証明書は鑑定品の所有者に、鑑定証明書はプロ鑑定士協会に申請し、認可を得なければならない。プロ鑑定士協会に書類を提出して初めて、その品物に価値が付く」

「一般鑑定士もプロ鑑定士協会に提出しないといけないの?」

「当然だよ。まあ手続きが結構面倒くさいから、ほとんどの人はプロ鑑定士に任せるがな」


 たとえばオークションハウス専属鑑定士の場合、毎日出てくる大量の競売品の鑑定証明書を、一括してプロ鑑定士協会に提出する。

 その数は非常に膨大なため、個人で手続きするなんて手間や時間が掛かりすぎる。

 プロに任せることこそ最も効率が良いのである。


「ねぇ、ウェイル。鑑定品の価値は協会に提出した時に固定されるの?」

「いや、当然だが、価値の更新はあるぞ。だが全ての鑑定品を毎日鑑定し直すのは手間が掛かりすぎる。だから価値を再度確かめたい物だけ、再鑑定依頼を出すんだ。また、本当にこれが真作であるか疑問を持った時、鑑定士協会に再鑑定の依頼をすることが出来る。さっき言った後で説明ってのは、これのことだ」

「もしかしたら贋作かも知れないってことでしょ?」

「そうだ。その鑑定士を信頼できない場合、違う鑑定士に再鑑定を依頼することが出来る。もし鑑定品が贋作だと改めて鑑定結果が出た時、贋作を誤って鑑定した鑑定士には罰金が科せられることがあるんだ。あまりにもよく出来た贋作であれば罰金はなかったりするが、それは状況次第だな」

「だからボクが鑑定するのは止めておいた方がいいんだ……」

「そういうことだ。まあ金額の低い鑑定品であれば構わないんだが、セルクやゴルディア、リンネといった超有名人のものとかは止めておいた方がいいな」

「そうだね。ボク、簡単なものからやってみるよ!」

「それがいいさ。そうだ、その本を開いてみろ」


 先程渡された本を、フレスは開けてみた。


「そこの目次には何て書いてある?」

「う~ん……。……鑑定士……の……歴史……?」

「よく読めたな。その本には鑑定士の歴史が記されている。時代によって鑑定士に求められる技術が違ったんだな。そのもっともたる例が占星鑑定士だ」

「占星鑑定士って、占い師のことでしょ!? ボク、やってみたい!!」


 目を輝かせるフレス。だがそのページにあった記述を見て、いきなりげんなりした。


「…………なんだこりゃぁああああ!!? 生贄のやり方とか書いているじゃない!?」

「そりゃそうだ。この大陸にまだ科学がなく、神器の力だけに頼っていた頃の鑑定法だからな」

「神器はあったの?」

「お前が生きていた頃にもあったんだろ? なら人間の時代にあるのは当然だろう」

「そっか! そういやボク、昔作ってたこともあるもんね!」


 神器というのはまだ人間の時代ではなく神が大陸を統べていた時代の遺物なのだ。


「干ばつや飢饉の時、占星鑑定士の指示で生贄を用意し、神器に捧げていたんだよ」

「ううう……。ボク、やっぱりあまりやりたくなくなったよ……」

「ハハハ、まあそうだな。だが現代の占星鑑定士の仕事は、文字通り占いをやるんだ。風水などを専門にするから、建築現場では結構重宝するらしい。人の名前を付けるのも占星鑑定士の仕事だったりするぞ」

「そうなの!? タロットとかもするの!?」

「するんじゃないのか? 俺は詳しくないからな。もしお前が占星鑑定士を目指すなら、いずれシュクリアの子供に名前を付けてやれよ」

「ボクが!? いいの!?」

「それはシュクリア次第だけどな」


 シュクリアとは宗教都市サスデルセルで出会った妊婦だ。

 別れ際、子供の名を付ける占星鑑定士を紹介すると約束した。


「でもシュクリアさんの子供の名前かぁ……。責任重大だね」

「だからこそやりがいもあるってもんさ。次はこれだ」


 本のページをめくる。


「……不動産鑑定士?」

「不動産鑑定士とは文字通り不動産を鑑定する。土地や家などだな。鑑定士の種類は数多くあるが、芸術品や骨董品などの鑑定をする真贋鑑定士と並んで最もポピュラーな鑑定士だ」

「建物は判るけど土地ってどういうこと? そこらへんにあるじゃない?」


 フレスに土地の所有権という概念はないようだった。


「土地にも持ち主がいるんだよ。龍のお前には少し判りづらい概念かも知れないけどな?」

「うん。全く判らない」

「フレス。家を建てるには何がいる?」

「お金でしょ?」

「そういうことじゃないよ。そりゃ金はいるが、それは材料を買うためにいるものだ。結局建物は、建築に必要な材料と、そして土地がいるんだ」

「……? 当たり前じゃないの?」

「当たり前だよ。家を建てるには土地がいる。もし家を建ててしまえば、その土地は他の人が使えなくなるだろう? それは不公平だ。だから土地を買うんだよ。ずっとその土地を使うためにな」

「あ、なるほどね! それもプロ鑑定士協会に申請するの?」

「もちろんだ。不動産などを手に入れた場合も全部鑑定士協会へ申請しなければならない」

「ボクにも出来る?」

「無理だ」

「ショボン……」


 さらにページをめくる。


「これは?」

「為替鑑定士だな。これについてはお前にはだいぶ早い。そもそもこの大陸の流通している貨幣すら知らないだろ?」

「……ハクロアは知ってるよ……?」

「それだけじゃないんだな」


 ウェイルはおもむろに財布を取り出すと、様々な柄の貨幣を机の上に並べた。

 その中で最も大きい貨幣を指さす。


「これが今言ったハクロアだな。この大陸でもっとも信頼度が高い。発行しているのはヴェクトルビアだ」

「じゃあこの描かれているのはアレスなの!?」

「これはアレスの親父だよ。まあアレスもいずれここに描かれるだろ」

「ボクも描かれたいよ?」

「無理だ」

「ショボン……」

「この赤い紙幣は?」

「これはレギオン札。信頼度はハクロアには及ばないものの、それに準ずるほどにはある。こっちはリベルテ。これもそこそこ使われてるな。このハクロア、レギオン、リベルテ三つを総称して三大貨幣というんだ」

「へーーー!! こっちの硬貨も三大貨幣なの?」

「そうだ。この硬貨もリベルテ硬貨だからな。だが硬貨は本当に奥が深い。この額面通りの金額に収まらないことだってある。いずれ硬貨コレクター相手の仕事もあるだろう。その時に話してやるよ」

「……ねぇねぇ、なんだか見たことある顔が描かれている紙幣があるんだけど……」


 フレスが指さしたのはとある貨幣。


「ああ、こりゃカラドナ札だ。価値はこれ十六枚でようやくレギオン一枚なほど低い。それにお前が見覚えがあるのも当然だ。これを発行しているのはクルパーカーだからな」

「……もしかしてこれって……」

「当然、イレイズだ。俺だって最近知ったんだぞ?」

「ええええーーーーー!?」

「しかもこのカラドナ札、もうすぐデザインを新調するってイレイズは言っていた。なんでも戦争勝利記念だとかなんかでな。そうなるとおそらくサラーも描かれるはずだ」

「なんでサラーも!?」

「サラーは先の戦争で英雄扱いされていたからな。いつの時代でも人々は英雄を求め、記録に残そうとする。イレイズもサラーを描きたいと言っていたしなぁ」

「いいなぁ、サラー……。ボクだって戦争の時頑張ったのに……」

「気を落とすなよ。サラーだって好きで描かれる筈じゃないと思うぞ? あの性格だ。絶対嫌がるさ」

「じゃあ代わりにボクが!!」

「無理だな。サラーはイレイズに頼みこまれると断れないだろうから」

「うう……羨ましい……」

「お前は英雄になるより鑑定士になるんだろ? 描かれる存在になるより、描かれたものを見定めることが出来る存在にならないと」

「うん! そうだね!! で、結局為替鑑定士って結局なんなの?」

「これら貨幣の価値は常に一定ではない。大陸の治安、環境によって大きく変化するんだ。大陸の状況をいち早く察知し、価値を更新するのが仕事だ。そのためには、常日頃から情報収集に当たっていなければならない。な、お前には無理そうだろ?」

「うん、無理! もっと単純な方がいい!」

「だと思ったよ。だからお前は俺と同じように真贋鑑定士を目指してもらう。贋作を見極め、真作の価値を付ける仕事だ」

「ボク、頑張るよ! さぁ師匠! もっと色々と教えてよ!」


 意気込むフレスに、ウェイルはにやりと意地悪な笑みを浮かべた。

 ……あれ? もしかしてボク、地雷を踏んだ……?


「やる気があるな! よし、早速だが、この本を全て読破してもらう! 読み終わるまで外出禁止だ!!」


 ドサドサとフレスの目の前に積みあがる本の山。


「うわあああああん!!! 無理だよーーーーーー!!!」

「いいからやれよな?」


 フレスが次に外出したのは二日後のことであった。


「……うう、もう活字は見たくないよ……」


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