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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編 『戦争勃発、陰謀の末路』
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決戦

 それからすぐに、イレイズ達と合流したウェイルは、イングからの伝言をイレイズに教えた。


「南地区は広いですからね……。本来なら奴一人を探すなど不可能に近いです。しかし、あの場所にいるというのであれば話は変わります」

「……イングが言ったあの場所ってのに、心当たりはあるのか?」

「はい。私や奴らにとって因縁の場所ですからね……」


 イレイズは何かを思い出すように、言葉を連ねていた。 


「……イングは間違いなくあの場所にいるでしょう。決着ってイングが言ったのであれば尚更です。ねぇ、サラー」

『…………私はそこのところはよく判らない。ただ、一つ言えるのは、お前と私にとってもあそこは因縁の場所なんだ』

「……ですね」


 ウェイルには何のことだがさっぱり判らなかったが、イレイズがそこまで言うのであれば、イングはすぐに見つけることが出来るだろう。


「イレイズ。奴の神器のことなんだが」

「ええ、知ってますよ。『無限地獄の風穴』《コキュートス・ホールゲート》でしょう?」

「おそらく死体を使って攻めてくる」

「ウェイルさん。大丈夫ですよ。何せ私はイングの神器を止めるためだけに、今回こんな無茶をやらかしたのですから……!!」


 イレイズは不敵に笑っていた。


「イングは、この私が倒します」


 自信満々に答えたイレイズ。

 したたかなイレイズのことだ。万全の対策を持って、イングを倒す算段を整えているのだろう。


「そこでウェイルさんにお願いがあります。ステイリィさんをある場所まで連れて行っては貰えませんか?」


 イレイズは後ろで恐怖のあまり気絶していたステイリィを指さす。


「ステイリィをか……?」


 目を回し、泡を吹く彼女を、一体どうしようというのだろうか。


「この地図の場所へ連れて行ってください」


 そういって紙きれを一枚渡される。

 イレイズが何を為そうとしているのか、およそ見当がつかなかった。

 だが、ここは従うのが一番であると確信できた。


「承知した。必ずステイリィを連れて行くよ」

「よろしくお願いしますね」

「イレイズ、今回の貸しは高すぎるぞ?」


「ご心配なく。私はこの都市の王ですからね? お礼することなんてわけないです」

 二人は拳と拳をコツンとあて、互いの成功を祈った。

「イレイズと言ったかしら? 私もイングの元へ連れて行って」


 アムステリアはそう言うと、フレスベルグの背を蹴り、サラマンドラの背へ移った。


「私もイングに一発……じゃなく一万発くらいぶち込まないと気が済まないの」

「ええ。貴方の力はマリアステルで知ってますからね。頼りにしてます」

「ふん! あんたに頼られても嬉しくもなんともないわ! それよりあんた、あの時私にドレスを買ってくれる約束してたけど、反故にする気なの?」

「今回の件が終わり次第、たくさんプレゼントしますよ」


 イレイズは気絶したステイリィを、ウェイルへと渡す。


「ウェイルさん。最後の最後までご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」

「こちらも仕事だからな。『不完全』という敵を倒すのは鑑定士の仕事だ」

「……本当に貴方は卑怯なお人好しだ」

「そっちだって、腹黒いお人好しだろう?」


 確かにそうだ、と互いに笑い、そして別れた。



  ――



「フレス、またも急ぐぞ!」

『……もう何も言わん……』

「何言ってんだ。俺とお前の仲じゃないか!」

『それ、結構久しぶりだな』



 ――



「行きますよ、サラー」

『ああ。場所はあそこでいいんだろ?』

「……はい。私とサラーが初めて出会った、あの場所へ――」

 



 ――


 クルパーカー南地区、避難地区中央。

 都市のど真ん中だというこの場所だが、周りの風景からは想像もつかないほど殺風景な場所だった。

 焼け朽ちた残骸が周辺を埋め尽くしている。

 清掃し、撤去されることもなく、まるでここだけ時間が止まったかのような、そんな雰囲気を感じさせるこの場所に、イレイズ達は降り立った。


「……ここに来るのは久しぶりですね……」


 イングが決着をつけようというのであれば、イレイズにはこの場所しか考えられなかったのだ。


「……あの日からずっとこのままなのだな……」


 サラーは少女の姿に戻り、足元のがれきを見つめていた。


「この場所は、私の覚悟の証を証明するために保存されていたのですよ」


 『不完全』に加入するために自らが火を放った、イレイズの城だったところである。

 王の住まう城にしては、やけにこじんまりとして控えめな屋敷であったが、イレイズはそこを気に入っていた。

 それを自らの手で火を放ち、敵の駒になったのだ。

 つまりこの場所は、イレイズにとって安らかな日々の思い出を一瞬で崩壊させた、屈辱の象徴ともいえるべき場所なのだ。


「…………」


 イレイズの顔が強張る。


「……大丈夫か? イレイズ。嫌なこと、思い出したのか……?」


 心配そうに見上げてくるサラーの顔を見て、イレイズの顔は穏やかなものに戻った。


「大丈夫ですよ。それにここはサラーと出会った場所でもあるでしょう?」


 イレイズがサラーと出会った場所。

 それもここなのだ。

 屋敷に古くから保存されていた絵画があった。

 それこそが神龍『サラマンドラ』が封印されていた絵画であり、イレイズの放った火により、封印が解かれ、彼女は現代に復活を果たしたのだ。


「サラーと出会ったことは、私の人生最大の幸運なんです。ですからここはそんなに嫌な場所とは思えません」

「そ、そうなのか……。うん、私も、その、……運が良かったと思ってる……」


 顔を染め、少し俯きながら照れるサラーは、とても可愛く、切り出したイレイズ本人も少し照れてしまった。

「……さて、じゃあ嫌な思い出と決別しましょうか。いるのでしょう? イング!!」


 …………。

 返事はない。

 だが、奴がここにいるのは間違いない。

 何故なら、この廃墟のそこら中から、殺気と気配を感じるからだ。


「――サラー、後ろ!!」

「――ッ!!」


 二人の話を黙って聞いていたアムステリアが、突如サラーに向かって叫ぶ。

 それを聞いたサラーは振り返り、腕を振るった。

 激しい炎が腕を包み、そのまま炎を放出する。

 彼女の背後に、突如死体が襲いかかってきていたのだ。


「ありがとう、アムステリア。助かった」

「何言ってんの! これからよ!! あれを見なさい!!」

「まさか、これほどまでとは……!!」


 思わず絶句する。

 すでにイレイズ達は敵の罠にはまっていたのだ。

 この廃墟を囲むかのように、町の方から大量のゾンビが姿を現した。

 人間もいれば魔獣もいる。


「……魔獣か。しかもこの数、厄介ね……」

「私もナイフだけで戦うのはきつそうです! サラー、私の手を焼いて下さい!!」

「判った! ……うらぁああ!!」


 イレイズの体は、常人に比べ遙かに炭素成分が多い。

 したがって高温に焼かれることにより、その部分がダイヤモンド状に硬化する。

 イレイズの腕はキラキラと輝きはじめ、硬化は完了した。

 無論、その際に生ずる火傷の痛みは尋常ではない。だからこそ、必要に迫られた時以外使用はしない。


「……クッ…………!! やっぱりこの痛みには慣れませんね、これ……!!」


 腕を振るうと、衝突したがれきが粉々になった。


「凄い特技を持っているのね。無駄にゴージャスだわ」

「本当に無駄なんですけどね……!!」


 焼かれた腕の感触を確かめてみる。

 ……よし、動く……!!


「……いけます!! サラー、アムステリアさん、奴らを一掃しますよ!!」

「当然だ!!」

「油断だけはしないでよね!」


 集まり始めた死体、もといゾンビはその数を増やし、一目見ただけでも百体を超えている。

 戦闘開始だとばかりに一体の魔獣ゾンビが空を切り飛びかかってきた。

 それに乗じて、集まったゾンビ達は一斉に三人へと襲い掛かる。


「うおおおおおおお!!!!」


 巨大な火柱が、クルパーカーの都市から上がった。

 その激しい炎の熱に、まるで天まで焼くかのごとく、空が真っ赤に染まった。


「うらああぁぁぁぁあああ!!!」


 火柱の勢いはとどまることを知らない。

 ゾンビ達を骨も残らず焼き尽くそうと、暴れまわっていた。


「さすがサラーです。負けていられませんね!」


 イレイズも硬化させた腕を振るい、ゾンビ達に殴り掛かった。

 ただでさえ脆い死体に、勢いのついたダイヤモンドのハンマーを叩きつけられるのだ。

 パンチ一発で、ゾンビは文字通り屍となった。

 サラーの炎で大多数のゾンビは灰になった。

 しかし――


「…………ぐッ!!!」


 目の前のゾンビを全て焼失させたと同時に、サラーの火柱は消えてなくなった。

 それと同時に膝が折れる。


「……はぁ、はぁ……」


 額は汗で滲み、体はダルい。


「…………くそ……、体が……!!」


 今日どころか、ここしばらく戦闘が続いていた。

 まともに睡眠すらも取れなかったのだ。

 それに先程の龍殺しとの戦いとニーズヘッグとの激しい空中戦。

 連戦を続けたサラーの体に、残された力などあるはずがなかったのだ。


「…………まだだ! まだ動ける……!!」


 強がりを口に出すものの、立ち上がることすら出来ない。

 サラーの疲労はすでに限界を超えていたのだ。


「サラー、どうしました!?」


 イレイズがサラーの異変に気付く。

 ゾンビを蹴散らし、サラーの元へ駆けつけた。


「……凄い汗です……!!」

「だ、大丈夫だ、まだやれるさ……!!」


 イレイズに心配を掛けまいと立ち上がろうとはするものの、膝は言うことを聞いてはくれなかった。

 起き上がることおろか、逆に眩暈で倒れそうになる。


「イレイズ! 後ろ!!」


 その隙を見て、敵が動かぬはずはない。

 二人の息を止めんと、その牙をひん剝いてきた。


「ふん!!」


 アムステリアの足が伸びる。

 強烈な蹴りで、ゾンビを一蹴した。


「油断しないでって言ったでしょう?」

「……助かりました」

「貴方、大丈夫なの? 汗が尋常じゃないわよ?」

「大丈夫だ……。少しだけ休めば……!!」

「何を言ってるんですか!! こんなに熱が!!」


 額を触ると、相当な熱があった。


「……私が無理をさせたばかりに……!!」


 イレイズは思わず自分を責める。


「い、イレイズ、私に構うな……!! 敵はまだたくさんいる……!!」


 イレイズがサラーの身を案じる間にも、ゾンビはどんどんとこの場所へ集まっていた。


「……そうね。それに奴らのボスも到着したみたいよ?」

 アムステリアの視線の先。

 わざわざこのタイミングを計ってきたのか、イングが姿を現したのだ。


「あれ? そっちのドラゴンはお疲れみたいだね?」


 茶目っ気を含んだその笑い声は、イレイズの神経を逆なでする。


「……イング……!!」

「なに? イレイズ。僕はねぇ、本当はこんなことしたくなかったんだけどね? お前が悪いんだよ? 組織を裏切るから」

「……嘘をつくな……!! お前達、最初から私を嵌める算段を付けていただろう!!」

「何のことか判らないよ?」

「治安局のことだ!! お前の部下に襲わせたんだろう!? 全ての罪を私に被せて!!」

「さぁね。我々はやってないよ。何せ証拠がないんだから。状況証拠を鑑みてお前が犯人だと治安局が判断しただけだよ。もし我々が本当にやっていたとしても、証拠がないのではお前が犯人なんだよ」

「…………ッ!!」


 イレイズは顔をしかめる。

 その仕草はイングにとって悔しさからくるものだと思ったのだろう。

 イングは顔を歪ませ、嬉しそうにしていた。



(早々貴方の思惑通りにはいきませんよ……!!)





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