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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編 『戦争勃発、陰謀の末路』
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因縁対決

「……プロ鑑定士協会……!!」


 フロリアは唇を噛みしめた。

 『不完全』を囲むかのようにプロ鑑定士協会が姿を現したからだ。

 彼らの登場は予期していた。

 だが、予想以上に行動が早い。


「ルミナステリア! 競売禁止措置は!?」

「もうとっくに解除されていたわよ」

「……流石は鑑定士。行動も早いか……!!」


 競売禁止措置で鑑定士を足止めする作戦だったが、サグマールの機転により、状況は予想以上に早く収束したのだ。


「久しぶりだな、フロリア」

「……ウェイル……!!」


 氷の刃を構えたウェイルが、フロリアを見下す。


「王都ではしてやられたからな。今回は逃がさない」

「……ふん! そいつはどうかな? 『龍殺し』!! 出てこい!!」


 フロリアの背後に控えていた、最後の一体。


「またこいつか。確かにきつい相手だがな」

「殺れ!!」


 フロリアの命令に、龍殺しが飛びかかる――


 ――はずだった。


「……どうした!?」


 フロリアが龍殺しの異変にうろたえる。


「何故動かない……!?」


 その疑問にはウェイルが答えてやった。


「愚問だ。龍に対して『龍殺し』が天敵なように、龍殺しにも天敵があるってことだ」

「……あれは……!?」


 よく見ると、龍殺しの手足に、光り輝く小さな糸が撒きつかれていた。

 龍殺しは抜け出ようと必死にもがくも、動けば動くほど糸はその身に食い込み、汚い体液を噴出させた。


「神器『悪魔縛り』(デモンズ・バインド)。プロ鑑定士協会に所蔵されてある神器の一つだ」

「神器……!!!」


 龍殺しの動きが、次第に弱くなっていく。

 糸は複雑に絡み合い、もはや動くことも困難なほどだ。


「さて、厄介なこいつは縛った。次はお前だ」


 氷の剣をフロリアへと向ける。


「……ちっ」


 ばつの悪そうな表情を浮かべ、フロリアは少しずつだが、ウェイルから距離を取り始める。


(私の力だけではウェイルには勝てない……だが)


「これでも喰らえ!!」


 フロリアは懐に入れていた小瓶を取り出し、ウェイルへと投げつけた。

 ウェイルはとっさに一歩退く。

 その前に小瓶は落ちて、小規模な爆発が起こった。


「こんなものが通用すると思っているのか!!」

「さてね」


 煙の中、フロリアの声がする。


「こんなものでウェイルを倒せるなんて思うわけないでしょ? 本当の目的はこっち♪」

「何を……。――ッ!?」


 煙の中から、わずかな殺気。

 とっさに体を翻す。

 すると腹部に何か掠めた気配。

 見てみると服が裂けていた。


「なるほどな……!!」


 煙が風によって吹き飛ばされ、ようやくフロリアの意図を確認できた。


「さすがのウェイルも、これだけの数は厳しいでしょ?」

「確かにな」


 フロリアの回りには、『不完全』の構成員が、ずらりと並んでいた。

 彼らの手には、おのおの神器が握られ、いつでも発動できるように体制を整えている。


「ねぇ、ウェイル。もう降参して、私のものになったら?」

「……お前、まだそんなこと言うのか……」


 王都ヴェクトルビアでも、似たようなことを言われたことがある。


「だって、貴方面白いんだもん。私は貴方が欲しい。ね? いいでしょ?」


 子供のおねだりの様に聞こえるが、実際はそうじゃない。

 これは二択の問いかけなのだ。

 直訳すると、生きたいのか――死にたいのか。


「神器を構えられて訊かれる言葉じゃないよなぁ?」

「……どうなの? 私のモノになるの? ならないの?」


 語尾がだんだんと荒くなっていく。質問もだいぶ直接的になってきた。


「ある意味ラッキーだな」

「……え……?」


 ウェイルの発言が、突如ちぐはぐになったことに、フロリアは眉をひそめた。


「……どういうこと……?」

「だって、そうだろ?」


 氷の刃先をフロリアに向け、ウェイルは宣言した。


「これほど大量の贋作士を一度に検挙出来るんだからな!!」

「それは死を取るということね……!! 殺せ!!」


 フロリアが手を上げ、部下に命令を下す。

 部下達は一斉に神器を構え、そしてその力を放出させた。

 神器から放出された攻撃的な光を前に、ウェイルは足を止め、ククっと笑った。




「本当にラッキーだよな? ――なぁ、フレス……!!」




「――うん。ラッキー、だね!!」




 ウェイルの前に巨大な氷の壁が現れた。

 神器から放出された力は、全て氷の壁に阻まれる。


「……フレス……!! あの場で龍殺しに殺されたと思ったが……!!!」

「残念♪ ボクはウェイルがいる限り死なないから!」


 翼をゆっくりと羽ばたかせ、空よりフレスが降りてきた。


「助かったよ、フレ――」



「ウェイルーーーー!!! 会いたかったよーーーー!!!」



 ガバッとフレスはウェイルの胸へ飛び込んだ。


「おいおい、フレス。急にどうした?」

「会いたかったんだよーーーーー!!! ……すりすり」


 ウェイルに頬ずりするフレスの表情は、これまさしく安堵といった様子だった。


「よくやってくれた、フレス。後はプロ鑑定士に任せろ!」

「ボクだって一応鑑定士なんだけど!」

「鑑定士見習い、だろ?」

「むぅ、そうだけどさー」


 ぷーと頬を膨らますフレス。

 ウェイルはやれやれと苦笑いを浮かべながら、フレスの頭を撫でてやった。


「今回の事件が終わったら、プロ鑑定士試験に向けて勉強だ。判ったな?」

「うん!」


 戦闘中にも関わらずのんきに会話をする二人を見て、フロリアは憤っていた。


「……舐めやがって……!! 全員! もう一度やってしまえ!!」


「「「はっ」」」


 光が集中し、神器に力が宿る。


「……フレス。やってしまうか」

「うん! 任せて!」


 フレスが空を翔けるため、跳び上がった。

 『不完全』の連中は、一瞬だが、フレスの方、つまり上を向いてしまった。

 それは人間の反射だ。決して彼らが油断したというわけではない。

 だが、ウェイルはその隙を見逃さなかった。


「――ほらよっ!!」


 ――一閃。

 氷の刃が、空気に一本の線を描いた。


「……なっ……」


 その線上には、敵の神器が並んでいた。

 線が消えた瞬間、神器は真っ二つになっていたのだ。


「……神器が……!!」


 敵が怯む。そこへフレスは、巨大なつららを頭上へ出現させた。


「ほいさ♪」


 すかさず、空中からつららを落とす。

 それを見たウェイルは切ったそばから走り抜ける。

 だが不完全の連中はそうもいかない。

 ウェイルの剣撃を避けようと、本能的に体をやや後ろへ退いていたのだ。

 それが仇となった。

 とっさに体の体勢を元に戻すことなど出来やしない。

 巨大なつららが、その場所へ重力に逆らうことなく落ちた。


「安心して♪ 殺してはないからさ」


 つららは、連中に直撃する前に、極寒の冷水になった。

 おかげで彼らは死ぬことはなかったが、その衝撃のあまり失神していたのだった。


「ウェイルとの約束だからね。出来る限り人は殺さないって」


 そのことをフレスは律儀にも守ってくれたのだ。

 そんな二人の甘い行動に、神経を逆なでされたのがフロリア。


「…………!! 本当に舐めた奴ら……!!」


 しかしフロリアにはもう手駒は残されていなかった。


「チェックメイトだ。フロリア」

「…………ククク、クハハハハハハッ!!!!!!!!」

「何がおかしい?」

「だってウェイルがおかしなこというから。チェックメイト? それはキングを取るときに使う言葉だよ?」

「…………!?」

「私はせいぜいルークか、ナイト止まり。本当のキングは別にいるわ?」

「知っているよ。イングって奴だろ? どこにいる?」

「……もういるわよ? あんたのすぐ後ろにね……!!」

「――!?」


 言われるがままに振り向く。

 そこには――


「……いない……!?」


 騙されたことに気づき、すぐさま振り返ると、もうそこにフロリアの姿はなかった。


「……どこへ消えた……!?」

「あそこだ、ウェイル!」


 ――フロリアはいた。

 わずかに残っていたレッサー・デーモンの背に跨り、全力で逃げていた。


「ウェイル! どうするの!? ここの戦局もあまり好ましくないみたいだけど!!」

「気は進まないが、残ろう……。本当は奴を捕まえてアレスに謝罪させたいところだが……」

「……了解。他のところを助けに行く?」

「無論だ! 『不完全』や魔獣の数が減ってきたとはいえ、まだ戦況はどうなるか分からん! それにイングはまだ現れてないからな……!!」



 ウェイルは氷の刃を構えると、未だ戦闘を行っている味方の元へ援軍に向かったのだった。


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