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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編 『戦争勃発、陰謀の末路』
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 北、西の空から最初に煙が見えたのが、およそ二時間前。

 増援を分散させて送り出したのが一時間前。 

 相変わらず空には不吉な煙が上がり、兵士達の不安を煽る。

 刻々と変化する戦局を、バルバードは部下の報告からまとめていた。


「住民の避難はどうなっている?」

「西地区は全世帯避難が完了しました。北地区では多少時間は掛かっているものの、後数時間で避難が完了するそうです」

「そうか。よし分かった。避難完了次第、兵を全て本部に戻せ」

「承知しました!」


「報告します! 送った増援部隊が北地区へ到着、すぐに体制を整える模様です」

「西地区はどうだ?」

「西地区にも間もなく到着予定だそうです! 電信の情報だと、兵の士気は高揚、すぐに戦闘を行える体制だそうです!」

「うむ。戦況が変わり次第報告せよ!」


「報告します! 偵察部隊から電信が届きました。未だ敵の姿は把握できてないそうです!」

「よし、引き続き監視体制を緩めるな!」


 ――次々と届く、戦況の報告。

 地図の上を踊るように次々動く、マーカーを見つめながら、バルバードは淡々と部下に指示を送っていた。

 せわしくなく人が動く中、フレスとサラーはバルバードの隣で情報を黙って聞いていた。

(……未だ被害の情報はない、かぁ……)

 フレスが隣で聞いている内容に、死傷者が出たという情報は入ってきていない。少しだけほっとした。

 だが、代わりに押し寄せる奇妙な引っかかり。

 被害者が出ていないことに安堵する一方、それに反比例するかのように、得体のしれない違和感が、二人を取り囲んでいた。


「……フレス。おかしくないか……?」


 ふいにサラーがフレスに尋ねてくる。


「……確かにね」


 ――同感だった。


「『不完全』と戦争しているんだ。開戦して数時間とはいえ、被害者なしは何かおかしい」

「……そうだよね。相手には魔獣だっているんだから」

「それに奴らは神器を使うんだぞ? 奴らの持っている神器の力は想像以上におっかないものばかりなんだ」


 フレスが頷く。

 サスデルセルでも、ヴェクトルビアでも。

 『不完全』は強力な神器を用いて魔獣、時には人すらも操っていた。

 神器の使い方を熟知しているプロ集団が相手である。未だ直接的な接触がないとはいえ、被害が全くないとは考えにくい。


「奴らが本気を出せば、離れたところからでも攻撃なんていくらでも可能だ」

「それなのに、かぁ。ボク、何か引っかかるんだよね」


 このモヤモヤは何だろう。

 こんな時ウェイルなら――


(的確な指示や指摘をしてくれるんだよね)


 ――でも、そのウェイルは今はいない。

 そのことに、フレスは今不安を覚えていたのだ。


(ボク、最近少しウェイルに依存し過ぎていたのかな……?)


 そんなことをフレスが思っていた時。


「報告します!」


 息を切らせた兵士が部屋に飛び込んできた。


「どうした!?」

「敵がいません!!」

「……何っ!? 一体どういうことだ!? 確かに偵察部隊は敵を見つけていないと報告してきたが……」

「それが違うんです! 西地区の増援軍が、煙の上がった場所へ到着したのですが、そこには負傷した味方しかいなかったのです!」

「何!? つまりもう突破されたということか!?」

「そうではありません! 彼らの主張によると、あの煙は、突然爆発が発生したとかで! 負傷したのは皆その爆発に巻き込まれたことが原因だそうです!」

「何を言っている!? 爆発が起こったということは、起こした敵がいるはずではないか!! その連中は見なかったのか!?」

「本当に敵はいなかったのです!! ただ急に爆発が起きた! 向こうの兵士は皆口を揃えてそう言っているのです!」

「……一体どういうことなのだ……?」


 敵がいない。

 しかし負傷者は出ている。

 こんな手段を一体どうやって……?


「――神器の力だ」


「サラー殿……?」

「大方、時間式爆弾型の神器でも使ったんだろうさ。奴らがよく使う手だ」


「報告します! バルバード様! 北地区の戦局ですが、敵が一向に見当たらないのです!!」

「北もなのか!? 負傷者は!?」

「すでに数名確認しています……!!」




「……フレス、まずくないか? この状況……」

「……うん。かなりまずいと思うよ……」


 サラーが言わんとしていること。

 想像するに、それは最悪の状態だ。


「おそらく敵は、すぐ近くにいる……!!」

「ボクもそう思う……」

 


「……どういうことだ……? 敵がいないとは……」


 バルバードも事の異質さに焦りの色を隠しきれない。


「サラー、ボクらが止めるしかないよね」

「……どこまで出来るか判らないけど、な」


 バルバードは南地区の兵力を削いでまで、北、西へと援軍を送った。

 援軍の力を得た兵士達によって、北や西地区内で『不完全』の動きを止める予定だったのだ。

 その作戦は目的は悪くはない。

 一番大切な南地区内への敵の侵入を阻むという行動は、現状もっとも最優先される事項だからだ。


 ――だが、この作戦には穴がある。

 それは一時的に本部である南地区の兵力が低下するということ。

 一番重要な部分が手薄になるということなのだ。


「バルバード! 大至急兵をここに戻させろ!!」

 サラーがバルバードに命ずる。

 焦りの色が色濃かったバルバードはすぐさまサラーの命令通り、兵の帰還命令を下した。


 

「敵はこれを狙っていたんだね……」


 北、西に兵力を集中させ、薄くなった南を叩く。


「北や西はおとりだ!!」


 サラー達はある重要なことを失念していた。

 それは自分達が戦っている相手は"贋作士"だということ。

 奴らがその気になれば、戦場の一つや二つ偽ることなど造作もない。


「敵はここへ直に来るつもりだ!! バルバード! すぐさま兵を臨戦態勢に!!」


 サラーの命令の最中、さらに一人の兵士が部屋に飛び込んできた。

 その顔を見るだけで、芳しくないことが発生したと誰もが理解した。


「ほ、報告いたします! 南地区最前線で待機していた小隊一つが、……か、壊滅させられました……!!」


「――なっ!?」


 バルバードはここに来て、ようやく己の読みが甘かったことを痛感した。


「早く全軍をここに戻せ!! とにかく急がせろ!!」

「駄目だ!! もしかしたら敵は北や西地区を監視しているかも知れない!! 全軍撤退させたら、今度はその地区が壊滅させられるぞ!! それに今から戻したところで意味がない!! 時間がないのだから!!」


 バルバードの命令にサラーは冷静に口を挟んだ。 


「それではどうすれば……!!」


 バルバードは猛者だ。それは違いない。

 だが、猛者ゆえに己に過信し過ぎていたところが、少しなりともあった。

 そのツケを今、焦りと言う形で払わされている。

 これではまともに指示するどころか、戦場に出ることすら許されないだろう。


「バルバード様! 軍は一体どうすれば!?」


「北、西は兵士を千ばかり残して残りはここへ戻せ! ここにいる兵達の内、千は住民の避難を、残りは私についてこい!!」


 バルバードの代わりにサラーが指示を下した。


「……承知しました!! おい、全軍に今の指示を回せ!!」


 バルバードはサラーの言う通りに指示を出す。

 悔しいが、今はサラーの命令がもっとも迅速だと判断したからだ。


「フレス!! 私達が行こう!!」

「がってん! サラー、久しぶりの共闘だね♪」

「…………そうだな。実に八百年ぶりだ」

「そうだね! ボク、全力でやるからね!!」


 互いに拳をコツンとぶつけた。


「背中は預けるぞ! フレス!」


「うっしゃあ! 任されたよ、サラー!!」


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