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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編 『戦争勃発、陰謀の末路』
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双子の妹 ルミナステリア

「…………ふふっ、流石お姉さま。すぐに私って判ったのね?」


 ルミナステリアと呼ばれた女は、ご機嫌そうにアムステリアを見つめていた。


「当たり前でしょう? そんな趣味の悪い香水なんかつけて」


 対するアムステリアの顔は険しい。

 まるで喧嘩でもしてきたような、そんな顔。


「趣味が悪いなんて、お姉さまはアロマに疎いのね? これは一本四十万ハクロアは下らない、サクスィル産の最高級香水なのよ?」

「あいにく私は香水なんかには興味なくてね」

「そうなの? だからその歳で男の一つも出来ないのかしら?」

「男ならいるに決まっているじゃない? ねぇ? ウェイル?」

「…………え?」


 突然話を振られたもんだから、言葉に詰まる。

 大体、今の今まで臨戦態勢だったはずだ

 まさかこんな世間話が行われるとは思ってもみなかった。


(世間話と言うより、これはどちらかというと――)


「そうなの? お姉さま。その男、キョトンとしてるけど。本当にお姉さまの男なの?」

「照れているだけよ! 全くあんたは昔から私をからかってばかりで……!!」

「……昔から……?」

「ああ、そうか。ウェイルは知らなかったわね。この憎たらしい女は私の妹で、ルミナステリアっていうの」

「そうなのよ~、よろしく♪」


 軽くウィンクを飛ばしてくるルミナステリアと呼ばれた女。


「アムステリア、このルミナステリアって奴が、ここの連中を……」

「ええ、間違いないわ。彼らの死体からかすかにだけど、ルミナステリアの香水の匂いがしたから」

「あらあら。お姉さまってやっぱり鼻がいいのね。まるで犬みたい!」

「……殺すわよ? ルミナステリア」

「お生憎。こっちもその気だから♪」


 ウェイルには感じ取れていた。

 平和な姉妹喧嘩に見えるこの光景だが、飛び交う殺気は半端なものではない。


「ルミナステリア。あんたがここにいるってことは、今回の黒幕は"イング"ね?」

「さあ? 私には何の事だか?」


 しらばっくれるルミナステリアにアムステリアの視線が鋭くなる。


「あんたら過激派がクルパーカーを襲う実行犯ね? イングはどこ!?」

「だから私は知らない設定なの。答えるわけないでしょ?」

「アムステリア、イングってのは……?」

「……詳しくは後で。ウェイル。下がっていて。こいつは私の獲物だから」


 アムステリアの声が緊迫する。


「あらあら、男の前だからって強気ねぇ、お姉さま」


 対するルミナステリアも歪んだ笑みをさらに強めた。

 アムステリアがナイフを取り出し、ルミナステリアへと投げつける。


「手癖が悪いのは昔からね♪」


 それを読んでいたのか、軽々と躱すルミナステリア。


「それはお互い様でしょう?」


 そう返すアムステリアの手には、一本のナイフが握られていた。

 そこから血が流れ出す。


「……一瞬で投げ返していたのか……!?」


 挙動が早すぎて、ウェイルの目では追うことすら出来なかった。

 ルミナステリアは、アムステリアのナイフを避けたと同時に、ナイフを投げ返していたのだ。


「ルミナス。ここで奪った全ての指を渡しなさい」

「嫌よ。これをイング様に献上すれば、もっと私の目的に近づけるんだから」

「いい加減、目を覚ましなさい!! イングにそんな力なんてないわ!!」

「あるわよ。イング様ならきっと、ね」


 その時、ウェイルはアムステリアの姉っぽさを窺うことが出来た。


(……アムステリアが、ルミナステリアに何かを呼びかけている……?)


 普段のアムステリアからは想像も出来ない、縋るような目をしていたのだ。


「どうしても私の言うことが聞けない?」

「ええ。私はお姉さまを信じてはいないから」


 そう切って捨てるルミナス。アムステリアの顔がどっと暗くなったのをウェイルは見た。


「そう。じゃあもうあんたには死んでもらうわ」

「奇遇ね。私もそう思っていたところ」


 二人は再びナイフを取り出し、互いに刃先を向け合った。

 いつ戦闘が始まるか、ウェイルは固唾を飲んで見守る。

 たった一瞬の間だったが、それは何時間にも感じられるほど長かった。

 静寂を切ったのはルミナステリア。


「……でも残念。私、もう行かなきゃいけないから。ここでの目的も済んだし、そろそろ作戦も開始しないとね」


 ナイフを下げるルミナステリア。

 打って変わって弛緩する空気。

 しかしアムステリアだけはルミナステリアを見据えたままだ。

 ルミナステリアは、一歩下がると、胸元から香水を取り出した。


(あの香水……。まさか……!!)


 アムステリアが何かに気付く。


「お姉さま。会えて嬉しかったわ? 出来ることなら、また会いましょう?」


 その瞬間、アムステリアが叫んだ。


「ウェイル!! 部屋から出るわよ!!」

「なっ!? どうしたんだ!?」

「あのバカ、香水じゃなくてガスを噴射する気よ!!」

「何だって!?」

「あらあら。私の行動は丸わかりってわけ? それじゃね、お姉さま♪」


 ルミナステリアはバイバイと手を振ると、香水瓶のボタンを押した。

 そのガスは一気に部屋中へと広がる。

 ウェイル達は呼吸しないように手で口を押えながら、どうにか会議室から脱出することが出来たのだった。




  ――●○●○●○――




 二人は会議室から脱出した後、すぐさま屋上へと目指した。

 目的は達した。つまりもうこそこそとする必要はなくなった。

 正体を隠すためのローブは羽織ったものの、階段を利用することはない。


「あったわ、ウェイル!」

「よし、吹き抜けを目指すぞ!!」


 プロ鑑定士協会同様、世界競売協会でも移動手段は神器に頼っている。

 ならば必ずあると思っていた神器がこれだ。

 アムステリアの見つけてきた重力杖(グラビティック)

 杖から出ている光の方向に重力の働くその杖の力は、もっぱら広範囲の移動手段に使われていた。


 二人はこの神器を用い、屋上まで飛翔、無事プロ鑑定士協会へと帰還する事に成功した。


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