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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編 『戦争勃発、陰謀の末路』
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世界競売協会 ―重役会議室―

 無事オークション会場を抜け、二人は目的のフロア50へと辿り着いていた。


「このフロアの会議室ね。探しましょう」

「そうだな」


 二人はこっそりと会議室を探しに出る。

 意外なことに会議室はすぐに見つかった。

 プロ鑑定士協会の会議室とほとんど同じ場所にあったからだ。


「ここね。ウェイル、人目もあるわ。急いで入りましょう」


 二人は一目散に、会議室中へと潜入する。

 会議室の内部は薄暗く、視界が悪かった。


「何とか見つからずに来れたな」

「そうね。でも本番はこれからでしょ?」


 その通りだ。

 何せここには『不完全』の残党がいる可能性がある。

 競売禁止措置が解除された今、その可能性は少し低くなったとはいえ、油断は禁物だ。



「……広い部屋だ」


 会議室は、先程のオークション会場と比べると小規模であるものの、それなりに大きな空間が用意されていた。

 もし『不完全』の残党が隠れてこちらを狙っているのであれば、こちらから見つけることは出来ないだろう。非常に厄介である。


 ウェイルは恐る恐る、部屋の状況を窺い始めた。


「まずは重役達を捜そう。もし彼らがいれば、話を聞けるかも知れない」

「……死んでるかもよ?」

「…………」


 その可能性は否定できない。

 重役達だって、競売禁止措置の影響力を知らぬはずはないからだ。

 常識的に考えたら、重役は措置に反対するはずだ。

 もし仮に『不完全』が無理やり禁止措置を発令させようとしたのならば、重役達は邪魔な存在となる。

 彼らが生きている保障はどこにもない。

 邪魔者は消せ。不利益になりそうなものは排除しろ。それが『不完全』の基本的理念だからだ。


 競売禁止措置の発令には彼らの認証と印、すなわち拇印が必要となる。

 だが拇印なんて殺した後でも取れるし、何より相手はあの『不完全』なのだ。

 指を切り取った後、それで型を取ることが出来れば――


 ――指の贋作なんて、いくらでも作ることが出来る。


「どこにいるんだ……?」


 徐々に慣れていく視界を頼りに、ウェイルは探索を続けた。

 そして――


「…………あれはっ!!」


 ウェイルの視界に飛び込んできた、その光景。

 それは元人間らしい残骸の山だった。

 周囲は血で染まり、辺りは腐臭に満ちていた。思わず吐き気を堪える。


「…………くそ……!!」


 この死体。おそらく世界競売協会の重役達と、そのボディーガード。

 "おそらく"と表現するのは、その死体が人の形をしていなかったからだ。

 切り刻まれた肉片となり、そこら中へ散乱していたのだ。


 アムステリアが一つの死体に近づき、散らばる肉片を一つ、その手に乗せてしげしげと分析し始める。


「……これはまずいわね……」


 アムステリアの行動の意味が、ウェイルには理解不能だった。

 だが、次の一言で、全てを理解することになる。



「指が、ないわね」


「なっ…………!!」


 ――見ると肉片となった死体からは、指が一つも見つからなかった。

 全ての指は、ひとつ残らず切り取られていた。


「……拇印の贋作を作る型にするつもりなのね」


 ――アムステリアの冷静な解析。


「…………ッッ!!!!!」


 ――かたやウェイルは、怒りでどうにかなりそうだった。


「……ゆ、ゆるさねぇ……!! どうしたら一体こんな惨いことが出来るんだ……!!」

「ウェイル。酷なこと言うようだけど、少し冷静になりなさい。これは一大事よ」

「な、何言ってんだ!! 当たり前だ!! こんなに人が殺されてるんだぞ!? 一大事に決まってるだろ!?」


 しかし、アムステリアの言う一大事の解釈と、ウェイルの解釈は大きく掛け離れていた。


「そういうことを言ってるんじゃないの。一大事なのは、世界競売協会重役の指が取られてしまったってこと。もし彼らの拇印が悪用されれば、この大陸は大変なことになるわ……!!」


 彼らの拇印は驚くほどに大きな力を持つ。

 何せ彼らが競売を仕切っているといっても過言ではないのだ。

 競売に関する条約の発案、協議、制定。

 それら全てに重役達は絡んでいる。

 本来であれば、その拇印の効力は、本人が死んでしまえば意味をなすものではない。

 だが、彼らが生存中に押したものなら効力があるのだ。

 『不完全』は贋作士集団だ。拇印を、彼らが生きているときに押したものだと細工するのは容易い。


「彼らの指を取り戻さないと……!!」


 アムステリアの指摘は正しすぎる。

 だが、感情に身を焦がすウェイルには、溜まらなく不快なものだったのだ。


「…………くそっ……!!」


 握る拳に爪が食い込む。


 実を言えば「そんなことどうでもいいだろ! 人が殺されたんだぞ!」とアムステリアに掴みかかったやりたい。

 だが、ウェイルにその権利がないことも、同時に理解していた、

 アムステリアのは冷静な分析からくる、いわば正論だ。

 一方、自分のはただ感情論。

 反論できる余地はない。

 頭では解っているだけに、下手に口出し出来ないウェイルだった。


「……奴らは、まだここにいるのか……?」


 気配を探り、腰に差した短剣に手を移すウェイル。


「さてね。でもねウェイル。この部屋に入った時からかしら。私、少し興奮しているのよ」


 その返答は、少しばかり語尾が強調されていた。

 アムステリアにしては珍しく息が荒い。


 すでに腰からナイフを抜いて臨戦態勢を取っていた。


「誰かいるのか!? アムステリア!!」


 アムステリアの様子が変だ。

 もし敵を見つけたのなら、どこにいるのか指示を仰ぎたい。


「本当に懐かしい匂い……」


「……匂い……だって……?」

 

 アムステリアから発せられた返答は、予想に反する物であった。


 死体の発する強烈な腐臭の中、懐かしいと漏らすその意味。

 

「香水よ」

「香水? どこにそんなのが――」


「――ウェイル!!」


 突如こちらへ振り向いたアムステリアは、言うが早いか、持っていたナイフをこともあろうかウェイルに向かって投げつけた。


「なっ――」


 ――その瞬間だった。


 目の前で金属音と火花が飛ぶ。

 ウェイルの足元に、ナイフが二本落ちた。


「――二本……!?」


 一本はアムステリアのナイフ。

 であれば二本目は――(アンパーフェクト)!!


「ウェイル、無事!?」

「……ああ。お前のナイフで助かったみたいだ。何かいる!」


 急いでウェイルの元へ来たアムステリア。

 落ちているナイフを拾い、再び臨戦態勢へ。


「九時の方向よ……!!」


 ナイフの飛んできた軌道先を注視する。

 暗闇に向かって、アムステリアが叫んだ。


「……出てきなさいよ――――ルミナステリア!!」



「あら♪ もう誰かまで判っちゃうなんて」


 アムステリアの呼びかけに答える者がいた。


 部屋の薄暗さに溶け込むようにしていた、敵。

 


 妖艶な笑みを浮かべる一人の美女が姿を現したのだった。


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