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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編 『戦争勃発、陰謀の末路』
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世界競売協会 ―オークション会場―

『………9…………、らく……つ、おめで……ご……ます!!』


 幸いなことに廊下で誰かと出くわすことはなかった。

 しかし、問題はこの先である。


「……アムステリア。今の声、聞こえたか?」

「……ええ、明らかにオークションしていた声よね」


 二人の前に立ちふさがる巨大な扉。

 今まさに聞こえてきた声から察するに、中は広大なオークション会場になっているのだろう。

 問題は、このオークション会場を通らなければ、次の階段へ辿り着く道がないことだ。


「……どうする? どうもこの中を通らなければ階段はないみたいだ」

「……突っ切るしかないんじゃない?」

「それしかないか……。しかし今は競売禁止措置が発令されているんだぞ? どうして競売が行われているんだ?」


 競売禁止措置が発令されているのだ。まさか世界競売協会内で禁止措置を無視しているとは、とても考えられない。

 ともすれば、考えられることは一つ。


「もしかしたら、すでに禁止措置が解除されているのかも。ほら、フロア79で治安局員がいたでしょ?」

「……確かにいたな。あれは禁止措置解除の通達だったのかもしれない」


 そう考えるのが当然だ。

 サグマールが禁止措置解除要請を行ったのは、ほんの数時間前。

 当初の予定より大幅に早く解除されたということだ。


「やるな、サグマール……」

「でも、こうなればますます時間がないわね」

「……確かにな」


 競売禁止措置が解除されたことにより、プロ鑑定士協会は、本腰を入れてクルパーカーへと向かう体制を整えているだろう。

 それは願ってもないことだし、望んでいたことだ。

 だが、今のウェイル達から言わせると、少しばかりタイミングが悪い。


「急がないと、ここに残っている『不完全』の連中が逃げてしまうかもしれない」


 『不完全』がここに忍び込んだ理由は、治安局やプロ鑑定士協会の注目を禁止措置の件に集めるためだ。

 その禁止措置が解除された今、『不完全』がこの場に残る理由はない。

 急がねば貴重な証拠、証言を失う可能性があるのだ。


「となると、下手に変装したり潜入したりして時間を食うわけにはいかないわね」

「……そうだな……。ここは多少無理してでも突っ切る他ない」

「そうね。だからこれを使いましょう」


 アムステリアが何やらポケットから取り出した。

 それは小さな小瓶。中には何やら透明な液体が入っていた。


「……瓶……!? それって、まさか……!」

「そのまさかよ。これを割れば小規模な爆発が起きるわ。混乱に乗じて、ここを抜けましょう」

「……ホント、過激だな、お前は……」


 爆発が起これば、必ず逃げ惑うものが出てくる。人間と言うのは他者に影響されやすいもので、一人逃げようとする人間が出てくれば、それに乗ずる人間が大量に出てくる。

 オークション会場は大混乱に陥るだろう。

 さすれば部外者の一人や二人、見咎める者は皆無となる。

 混乱に乗じてここを突破する。

 だが、作戦としては悪くないが、一つだけ問題がある。


「だが、逃げ惑う人が邪魔で、かえって時間を食うんじゃないか?」


 多くの人間が逃げ惑う会場だ。道を封じられる可能性もある。


「心配いらないわ。私たちは舞台上を走るもの。わざわざ舞台上に上って逃げる人なんていないから」


 なるほど。それは名案だ。

 確かに舞台上には、司会のオークショニアと、それをサポートする役が数人いる程度だ。安全に通ることが出来るだろう。


「判った。爆弾を投げ込むタイミングは任せるよ」

「任せて♪ いくわよ!」

「おう……!!」


「――うらぁああああああっ!!!!」


 ウェイルの相槌と共に、アムステリアはオークション会場の扉を蹴り飛ばした。




 ― オークション会場内 ―




『続いては競売番号32番! これはなんと!! 大音楽家、ゴルディアが戯れに書いたとされる、たった8小節からなる曲『ドラゴンズ・ララバイ』の原楽譜です! 音楽マニアならば是非とも欲しい一品です!! それでは競売に移ります! 使用通貨ですが、ハクロアなら九百万、レギオンなら千五百万、リベルテでは千八百万からお願いします!!』


『おっと、18番、一千万!!』


『54番、一千六百万レギオン!!』


『17番、千五百万ハクロア!!』


『おおーっと、6番、なんと四千五百万リベルテ!! これ以上はございませんか!?』


『ハンマープライス!! 6番、四千五百万リベルテで落札! おめでとうございます!!』


 オークショニアがハンマーを叩き、落札を宣言。

 周囲が6番に惜しみない拍手を送り、6番もそれに応える。


 ――その時だった。



「――うらぁああああああっ!!!!」


 響き渡る叫び声と共に、扉が吹っ飛び宙を舞った。


「な、なんなんだ!?」


 手を振って拍手に応じていた6番が驚いて尻込みする。

 彼の目の前に破壊された扉の残骸が落ちてくるとともに、もう一つ煌めく物が空を切る。


 アムステリアが小瓶を、会場中央へ投げ入れたのだ。


 その小瓶が地面に接したその瞬間、激しい閃光と共に大きな爆発音が会場に轟いた。


『な、なんです!? ば、爆弾!?』


 オークショニアが焦る。

 彼の驚く声に連鎖するが如く、客が反応。


『ば、爆弾だっ……!!』


『テロだ!! 逃げろっ!!!』


 恐怖に駆られた客達は一つの大きな流れとなって、出入口に殺到。

 

『み、みなさん、落ち着いて下さい!!』


 オークショニアの声など、もはや彼らに届くはずもない。

 誰もが我先にと逃げ惑い、会場は混乱の極みに達していた。

 それを待っていたのがこの二人。


「今よ、ウェイル!」

「……誰か怪我とかしてないだろうな……?」

「あれは音と光は凄いけど、威力自体は大したことないの。せいぜい近くにいたら鼓膜が破れる程度よ?」

「……それはまずいと思うけどな」


 ぶつくさ言いつつも、計画通りウェイル達は舞台壇上へと上がり、対方向へと足を急がせた。


 会場の出入り口は未だ人で密集していた。

 本来であれば困る場面だが、そんなこと問題ないとばかりにアムステリアは不敵に笑みを浮かべる。


「小瓶はまだあるからね……!!」


 アムステリアが密集する人ごみの頭上に、もう一つ用意していた瓶を投げ込んだ。

 壁にぶつかった小瓶は爆発。

 悲鳴が飛び交い、逃げる人々を戦慄させる。


『こっちも爆発したぞ!!?』


『やばいぞ……。俺達、殺されるのか……!?』


「急いで反対へ逃げろ! まだ爆弾があるかもしれない!」


 最後に叫んだのは投げ込んだ張本人のアムステリア。

 これが実に効果的。

 とっさのことで頭が真っ白になった人間は、突然入ってきた情報をすぐ鵜呑みにする。


 アムステリアの声を聴いた人々は、一目散に爆発した出入口から離れて行った。



「すっきりしたわね♪ さぁ、行きましょう」

「……ああ」


 普段なら小言の一つや二つ言うところだが、あいにく今は時間がない。

 それに今のアムステリアの過激な行動については、それなりの配慮がとられていた。


「助かったよ、アムステリア」

「もう、ウェイルったら♪ 褒めるならベッドの上でね♪」

「…………」



 もはやウェイルに言葉もなかった。

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