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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編 『戦争勃発、陰謀の末路』
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世界競売協会

 ――フロア 屋上――



 ウェイルとアムステリアの二人は、異次元窓を通り、プロ鑑定士協会本部と隣接する世界競売協会本部の屋上へと降り立った。


「目的地は重役会議室よ」

「おそらくそこに奴らの手先がいるはず」

「ウェイル、場所は判るの?」

「ああ、確信は持てないが、大体の位置は理解できている」


 プロ鑑定士協会と世界競売協会の内部構造は、実はほとんど同じなのだ。

 と言うのも、この二つの建物は、はるか昔栄えていた文明の遺跡を元に、それを増築する形で建設されたものだからだ。

 元は左右対称の一つの古城だった建物を、無理やり二つに分割したというわけである。

 ウェイルはプロ鑑定士協会本部の構造全てを知っているわけではないが、良く用いられる重要な場所と言うのは熟知している。


「内部構造が同じなら、重役会議室もプロ鑑定士協会と同じはずだ」

「そうね。とすれば――」

「丁度五十階か」


 この建物は百階建である。したがって会議室はほぼ中央に存在することになる。

 

「結構遠いわね……」

「まあな。それに迷わずに行けるかどうか……」


 問題は、そこに行くまでに迷うかどうか。

 何せ建物の端から端までが見通せないほどの広さを持った建物なのだ。

 例え鑑定士協会と構造が同じとはいえ、迷わずに進めるという自信はない。


「……いくぞ」

「ええ。迷わないでよ? ウェイル」

「……まあ大丈夫さ」


 二人はさっとフードで顔を隠し、下のフロアへと潜入を開始した。


 


 ――フロア 92――



 屋上から潜入した二人は、誰の目に触れることもなく、92階までたどり着いた。

 世界競売協会内はプロ鑑定士協会と同様に、建物内では重力杖(グラビティック)を用いて移動する。

 建物の中央には大きく開かれた吹き抜けがある。

 そこで重力杖を用いれば、吹き抜け内を飛ぶことによって長距離移動をすることが可能なのだ。

 しかし、この中央吹き抜けは八十階までしか通じていない。

 したがって、それより上の階へ行くには、階段を使うか、中央吹き抜けとは別にある、小さな吹き抜けを通っていくしかない。


「吹き抜けは使えそうにないな……」

「予想以上に使用者が多いわね……」


 巨大な建物内の移動ということで、移動に労力や手間が掛からない吹き抜けが使用されている。

 つまり吹き抜けは人の出入りが多いのだ。

 そんな場所に潜入している二人が赴くことは自殺行為に等しい。

 その逆に、多くの人間がこの吹き抜けを利用するため、階段の使用者は非常に少ない。

 潜入する二人にとっては格好の通路になりえるのだ。

 

 そんな理由から二人はここまで階段を用いて下に降りてきた。


 ただ一つ注意しなければならないのは、この階段は螺旋状にずっと下まで伸びているわけではないのだ。

 数フロア毎に、次の階段場所が変更されている。

 ここ、フロア92もそういうフロアだったのだ。

 無論、次の階段場所を探し、移動しなければならない。

 気を付けなければならないのは、次の階段場所まで移動する間である。


 必ず、人の目に触れる可能性のあるフロアを通らなければならないのだから。


「……この階は要注意ね……」

「人が多そうだ……」


 実はこの上のフロアにいた時から、すでにこのフロアから人の歓声が轟いてきていたほどなのだ。


「ウェイル。見つかったら、判ってるわよね?」

「気絶させるんだろ? 判ってるさ」


 フードをさらに深く被り、二人は歓声の止まない92階へ飛び出した。


 出来る限り体勢を低くし、一目の触れぬように駆け抜ける。

 しかしそれでも内部の人数は桁外れである。どんなに気を付けて進もうが、人を避けながら進もうが、偶然出会ってしまうことはどうにもならない。


「……ウェイル。ここはどうしようもなさそうね」 

「……ああ。悪いが、倒れてもらうしかないな」


 二人の進む方向の通路で、三人の男が談笑に興じていた。


「――はははは!! それで、どうなったの? ……って、あれ? 誰?」


 不運にもこちらと視線を交えてしまった眼鏡の男。


「……うらぁ!!」


 容赦ない蹴りが飛ぶ。


「え、ええ!? ……ぐぁっ!!」


 その男はほんの一瞬の隙に、アムステリアの蹴りの餌食と成り果てた。

 蹴りは後頭部を直撃、失神は確定である。


「お、お前ら、一体何者……!?」

「……に、逃げろ……!!」

 残った二人が逃げようと意識した直後。


「……すまん……」


 謝罪の言葉を述べながら、痩せた男の腹部に掌底を浴びせる。


「ぐほぁっ!!」


 ウェイルの拳に、男はたまらず体をくの時に曲げ、そのまま崩れ落ちた。


「よし、行くわよ!!」


 三人目の男は、ウェイルの気づく間もなくアムステリアに屠られていた。

 刹那過ぎて声すら上げられなかったようだ。


「……すまん」


 もう一度謝罪して、二人は次なる階段へと急いだ。



 ――フロア 79――



 このフロアで下に続く階段が途切れる。


「ここも階段を探さないといけないのか……。……よし、いくか……!」

「……ウェイル、少し待って。何か様子がおかしい」

「……どうした?」

「こっそりと、あれを見て……!!」

「……あれは……!?」


 アムステリアの勘にはいつもながら驚愕に値する。

 彼女の感じた気配、それは治安局員のものだった。


「どうして治安局員が……?」

「例の事件が絡んでいるのかもしれないわね。どっちにしたって、急がないと」

「だが、ここはどうする?」

「どうもこうも突っ切るしかないけど。……そうだ。私にいい考えがあるわ!」


 アムステリアがウェイルの耳元でこっそりと呟く。


「なになに……………………はぁ!? 何言ってんだ!?」

「これが一番早いから。それに私なら大丈夫。任せて♪」

「だがな……!!」

「良いのよ、ウェイル。私の体のこと、貴方は知ってるでしょ?」


 ささっとローブを脱ぎ、それをウェイルに預ける。

 これからアムステリアがしようとすることは、ウェイルにはおおよその見当がついていた。


「……ああ、知ってるさ」


 アムステリアの体には大きな秘密がある。

 ウェイルとアムステリアの過去では、それを巡って大きな事件があったほどだ。


「――なら、任せて♪」


 それは呪いと言うには生ぬるい、常人には耐えられぬ屈辱。

 ポケットから短剣を取り出したアムステリア。


「よし、じゃあ行くわよ……」


 アムステリアは一度深呼吸すると、一気にその短剣を、己の心臓目がけて振り下ろした。



 

 ――フロア79 廊下――




「道を開けろ!! 彼女を早く医務室へ!!」


 血だらけになったアムステリアを抱きながら、ウェイルは廊下を走り抜ける。

 通路にいた誰も、何事かと一斉に視線を集中させ、心配する声を掛けてくる。

 しかし引き留めようとする者は誰一人いない。

 誰もが下手に関与することを恐れているからだ。

 それほどまでに異様な光景だった。

 何せ胸にナイフを刺した女を抱いた男が、大声を張り上げながら走っているのだ。

 関わりたくはないのは至極当然である。


「どけ! 医務室へ急がないといけないんだ!!」



 声を荒げ、必死の形相で走るウェイルを邪魔をする者は皆無で、皆呆然とした表情で二人を見送ったのだった。



 ――フロア79 階段踊り場――



「……作戦成功ね♪」


 体の血を丁寧に拭き取るアムステリアが笑いながら言う。


「……大丈夫か? アムステリア」

「大丈夫に決まってるじゃない♪ それよりも必死に声を上げて走り回るウェイル、可愛かったわよ?」

「……こんな時に何言ってんだ……」


 アムステリアの無事にほっと胸を撫で下ろすウェイルと、それを見て嬉しそうに笑う対照的な二人だった。


「本当に傷は大丈夫なのか?」

「ええ。もう傷も閉じきったわ? 何なら見てみる?」


 予想通りの行動だったが、やはりというべきか胸元を開けて見せつけてきた。

 とはいえウェイルは中々に純情だ。こうしてくると判ってはいたのだが、思わず胸をチラリと見て、そして顔を背けた。


「……くそ……!! 本当に羞恥心のない奴だな!!」


 恥ずかしさから出てくるのはしょうもない皮肉。真っ赤に染まった顔では反撃にすらなっていない。


「……あははははは!! 本当に可愛いんだから!!」


 アムステリアから出てくるのは大笑い。真っ赤に染まるほど、笑い声を上げる。


「……こんなことより、次急ぐぞ!」

「そうね。ウェイルをおちょくるのはまた今度にするわ」


 勘弁してくれ、とぼそっと呟いたのだが、実はアムステリアには聞こえていた。




(――嫌よ!! もう何度もおちょくる機会はないのかも知れないのだから……!!)


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