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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編 『戦争勃発、陰謀の末路』
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Act.サラー ちっぽけな存在

 私とフレスは、一足早くクルパーカーへと向かっていた。

 フレスベルグの上に跨り、景色を流し空を翔け抜け、イレイズの故郷へと急いだ。

 吹き荒ぶ風が私の体を冷やしたが、私の頭だけは冷えることはなかった。


(……イレイズ、無事でいて……)


 そう願わずにはいられなかった。

 イレイズのことだ。簡単に掴まったりはしないだろう。

 だがあの治安局員の数だ。さすがのイレイズでも下手をすれば危ないかもしれない。


『サラマンドラ。あの男のことを考えているのか?』


 私を運んでくれているフレスベルグが不意に声掛けてくる。


「……うん」


 私にしては意外に素直に、返答していた。


『――そうか』


 一度言葉を区切る。

 下に広がる、アレクアテナ大陸の景色を眺めながら、しばし無言を続けた。

 その沈黙を破ったのは、やっぱりフレスベルグだった。


『……フフッ……ハハハハハッ!! これは全く、長い間生きていると面白いこともあるもんだ……!』


 大きな口を開け、牙をむき出して笑うフレスベルグに、私はむっとくる。


「何故笑う、フレスベルグ!」

『ハハハハハ……!! いや、気にするな』


 その笑い方はどこかフレスに似ていて、そして自虐さえ含んでるような笑い。


「気にするなと言う方が無理だ! 何故笑ったんだ?」


 私の問いに、フレスベルグはもう一度だけ笑うと、今度は返答してくれた。


『いやな、まさか我々古の神龍族エンシェント・ドラゴンともあろうものが、たかだか人間一人の命を憂いているとはな。何故だか変に思えただけだ』

「…………」


 そう言われたら返す言葉もなかった。

 考えてみればそうだ。

 我々神龍族は、元々は人間と敵対する立場にあった。

 神々を信仰する人間との戦争は、アレクアテナ大陸の誕生より前から続けられてきたものだ。

 イレイズに話したことはないが、彼と出会うその遙か昔から、私は人間を殺し続けてきた。

 それこそ数えきれるものではない。


『覚えているか? サラマンドラ』

「……何をだ?」

『ラグナロクだ。我ら神龍が初めて封印された、あの戦いを――』

「…………覚えている」


 はるか昔。アレクアテナ大陸が、まだその名で呼ばれていないほどの太古。


『我らは神々と相打ちになったが、本来であれば負けている戦いだった。それが相打ちにまで持ち込めたのは、お前と、ミルドガルズオルムの功績だった』

「……ミルか。久々にその名を聞いたよ」

『ミルは確かに強かった。最強の神龍族の一角に間違いない。だが、お前だって負けちゃいない』

「……どうだか」


 何故、フレスは急に昔話をし始めたのだろう。

 その理由にサラーはとっくに気づいていた。


『お前は中々に残虐だったよな? 逃げ惑う人間を、ちりちりと少しずつ焦がしてゆくやり方ばかりとっていた。神龍族で一番の非道だった』

「…………」


 嬉々として人間を殺し、弄び、退屈しのぎにしていた時期もあった。


『そんなお前が、今はたかが人間一人の命に一喜一憂しているのだ。これを笑わずにはおれまい?』


「…………私だって、そういう時もある……」


 かろうじて出てきたのは、言い訳がましい言葉だけだった。

 それを聞いて、またもフレスベルグは笑い出す。


『ハハハハハハッ…………。そう、そんな時もあるんだ。それは我にとっても変わらない』


 フレスベルグの笑いが止まる。

 すると今度は打って変わって優しい声になる。


『だから我もお前を笑うことは出来ない。我だって、たかが人間一人の挙動に心揺さぶられているのだからな』


 フレスの言うたかが人間とは、間違いなくウェイルのことだろう。


『全く、二人して面白いな』

「本当だな……」

 

 人間というちっぽけな存在が、これほどまでに大きな存在になっていることを改めて感じた二つの龍は、互いに苦笑を浮かべながら、空を切り続けたのだった。





 ――●○●○●○――





 どれくらい空を飛んでいたのだろう。

 イレイズと出会ってから今までしてきたことが、回想となってサラーの脳内に上映されていた。


「…………すまない」


 無意識に出てきた映画の感想は、謝罪だった。

『不完全』に属していた頃に、二人で犯した罪を今、改めて悔いる。

 そして、私は腹をくくる。


(これ以上、奴らの犠牲を出してはいけない)


 下を見ると、懐かしい匂いのする景色があった。


「……クルパーカー都市内だ……!!」


 ついに辿り着いたクルパーカー都市内上空。

 一際目につくのは、焼け果てた大きな城。

 イレイズの居城だったその廃墟。そして私とイレイズが初めて出会った場所。


「イレイズ……。約束は守る……!!」


 フレスベルグの頭を叩き、指示を送った。


「フレスベルグ! クルパーカーに入った。降りるぞ!!」

『承知した。しかしサラマンドラよ。我が一度娘の姿に戻ると、もうウェイルなしには元には戻れん。戦うのであれば気を付けることだ』

「判ってるさ! お前は私の指示に従えばいい! そうウェイルから聞いているだろう?」

『その通りだ。よし、しっかり掴まってろ! 急降下するぞ!!』

「おっしゃぁ!!」


 私に似合わず、大きな声を上げて気合を入れた。


(もしイレイズなら、まず最初にやることは――)


 自分をイレイズに置き換えて、これから何をなすか。


 私は必至で作戦を練り始めたのだった。


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