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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編 『戦争勃発、陰謀の末路』
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Act.イレイズ 奇妙な組み合わせ

 ――とある汽車の一室で、私は治安局員に囲まれていました。


「もう逃げられんぞ!」

「観念しろ!!」


 面白いようにことが進み、私は笑みを隠しきれなかった。


「すみませんが、私は今逮捕されるわけにはいかないのです。ですから見逃していただけませんか?」


 私は親切気味に要求をいたしましたが、彼らには不服の様子。


「何ふざけたこと抜かしてんだ! おらぁ!!」


 男が一人、私に向かって突っ込んでまいりました。


「捕まえてやったぜ! これで逃げられん!!」


 彼は私の腕を掴み、そのか細い力で腕を締め上げている様子。


「……はぁ……」


 思惑通りにことが進み、確かに嬉しくはあるのですが、ここまでやりごたえのない相手だと逆にさびしくもなります。


「まだまだ修行不足ですよ? えいっ」

「――ぐおッ!?」


 私が腕を振り上げると、掴んでいた男は吹っ飛んでいきました。


「貴様、よくも上官を……」

「ゆ、ゆるさん……!!」


 彼の部下らしき二人が果敢にもナイフを取り出し、威嚇を始めました。

 その時のことでした。


「――お前ら、止めんかい!!」


「…………?」


 むさくるしい男ばかりの中、一輪の可憐な花が咲いていました。


「このイケメ……、じゃなかった。このクソ野郎の相手は私がする!!」


「ス、ステイリィ上官!!」

「相手は丸腰だ。ナイフで切り付けて、もし死なせもしたらどうする!?」

「は、はぁ……。しかしこやつは凶悪殺人犯。殺害も仕方のないことでは?」

「黙らっしゃい!! 上層部はこいつを拘束しろと言ったんだ!! それ以上のことをしようとするな!!」

「し、しかし……」

「私の命令が聞けねーのか!? ああ!?」

「す、すみません!!」


 彼女の鶴の一声で、二人はナイフを取り下げました。

 私は安堵しました。どうやら彼らを傷つけずに済むようです。


「ここは私がタイマンを申し込む! お前ら、少し下がってろ!!」


 どういうつもりなのか、彼女は治安局員を下がらせると私に向かって突っ込んできたのです。

 あまり女性に傷をつけたくはないので、軽く気絶させるように、彼女に向かって手刀を入れようとしたときでした。

 傍から見ると、私が彼女の攻撃を避けているように見えた、その瞬間。


「ウェイルさんから話は聞きました。貴方が――イレイズさん、ですね?」


「――――!?」


 彼女は、突如私の名前を呼んだのです。これには驚きました。


「心配しないでください。私は味方です」

「ど、どうして?」

「私にもよくは事情は判りませんが……。…………とにかくウェイルさんからの指示ですからね! 貴方を無事クルパーカーまで送って差し上げろと」

「……ウェイルさんが!?」


 彼女は一旦、身を翻すと、今度は私の顔面目がけて拳を振り上げます。


「そうです。だから私は貴方を守らなくてはなりません」

「どうしてそこまで!? 見ず知らずの私の為に?」


 私が拳を交わすと、今度は大胆に蹴りが飛んできました。

 振りかぶった蹴りをギリギリのところで躱し、会話を続けます。


「別に貴方を信じているわけではない。しかし、他ならぬウェイルさんからの頼みですからね。無下には出来ませんよ」

「そう、ですか……」


 この時、私の心には嫉妬心が生まれていました。

 これほどまでに他人の信頼を取り続ける一人の鑑定士に対して。

 それと同時に安心したことがあります。


(――サラーは無事、みたいですね)


 そしてそれらの感情は全て感謝へと変わります。


(また貸しが増えましたね。ならば同じ貸しはとことん利用しましょうか)


「ステイリィさん、でしたよね?」

「……そうです」

「人質になってはいただけませんか?」


 見たところ彼女は若い。しかし、頭は良いようです。


「……そういうことですか。判りました」


 この場から私を都合よく逃がすには、自分自身が人質になるのが一番だと、とっさに判断してくれましたから。


「――使ってください」


 ステイリィさんは、ポケットから素早くナイフを取り出すと、私に手渡してくれました。


 そして――


「うおおおおおっ!! 覚悟~~~~ッ!!」


 ――思いっきり、私に突っ込んできてくれたのです。


 難なく躱して、その華奢な腕をがっしりと掴み、首にナイフを当てつけます。


「この方の命が惜しかったら、後ろの車両に戻りなさい」

「ス、ステイリィ上官!!」

「わ、私は大丈夫だ。私に構わずこいつを捕えろ!!」


 彼女はとても上手でした。


 ――本人を目の前に、構わず突っ込んでくる部下などまずいませんから。


「私の要求は聞こえませんでしたか? 速やかに後ろの車両へと移って下さい」


「「……クッ…………!!」」


 悔しそうに、おずおずと下がり始めた彼らを監視しながら、私達は前の車両へと移りました。


「……気は乗りませんが、やるしかないですね」


 私は胸ポケットから小さな小瓶を取り出すと、後ろの車両へと投げつけました。

 小瓶は音を立てて割れ、そして――


「逃げろ!!」


「爆発するぞ――うわぁあ!!」


 巨大な爆発音と共に、私と治安局員を分断していた車両が吹き飛ばされました。


「じょ、上官!!」

「ステイリィ上官を返せ!!」


 徐々に失速して姿が小さくなってゆく後部車両を望みながら、彼女を解放します。


「……ふう。全く過激な撒き方をするんですね」

「あまり乗り気ではなかったのですよ?」

「どうだか。……どうしてウェイルさんはこんな人を……」


 ぶつくさふてくされるステイリィさんを見て、思わず苦笑してしまいました。


「な、何がおかしい!?」

「いや、今の今まで人質の演技をしていたのに、もう愚痴を垂れるほど余裕だなんて。貴方って大物なんですね」


 私の台詞に彼女は一度パチクリと瞬きをすると、顔を赤らめて睨んできました。


「うるさいやい! 本当に逮捕するぞ、てめぇ!!」

「すみません、ウェイルさんの友人には面白い方ばかりで」

「面白いだとう!? 可愛いの間違いだ!!」


 ムキーと拳を振り回す彼女を見ると、少しばかりフレスちゃんに似ているな、と思ってしまいました。


「さて、それではステイリィさん。詳しい話、お聞かせしましょう」

「当然だ!! いくらウェイルさんが信頼を置く人物であっても私が信頼するとは限らないからな!!」

「そうですね。それでは私の故郷、クルパーカーのことからお話しいたしましょう」





 緊張感あふれる旅路に、奇妙な仲間が加わったのでした。


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