不吉な急報
次の日、ウェイル達はステイリィのいる治安局へやってきていた。
今回の事件の詳しい報告をするためだ。またプロ鑑定士協会への詳しい報告のための情報収集が目的だ。
ウェイルは今回起こったことを、こと細かくステイリィに話し、報告書をまとめていた。
「――ということがあったんだ」
ウェイルは事の顛末を全て話した。
アレスのこと、セルク・オリジンのこと。
そして――――フロリアのこと。
「……それにしても複雑ですね。まさかフロリアさんが……」
ステイリィも信じられないといった顔を浮かべていた。
「まさか今回の事件に『不完全』が絡んでるなんて……。一体何が目的だったのでしょうか……」
「セルク・ラグナロクが持ち去られた。だが奴らなら美術館から盗むことだって可能だろう。それにあいつは言っていた。今回の事件は準備だと。これから何が起こるか想像も出来ない」
「不安、ですね……」
「ああ……」
二人が深く顔を落とした、その時。
「むにゅ~ん。そんなこと言わないでよ~、ライラ~」
背中から間抜けな寝言が聞こえてくる。
「ぐー……すぴーー……zzzz……」
フレスはウェイルの背中にがっしりと掴まって眠っていた。
安らかな顔で眠りこけるフレスに思わず笑みが漏れる。
「今回は本当にフレスに助けられたな……」
「はい。フレスさんが消火活動に当たってくれなければこの都市は今頃焼野原になっていましたよ」
「そうだな」
今回の一番の功労者は間違いなくこいつだ。
龍殺しの能力で力が出せない中、懸命に働いてくれた。
「それにしてもウェイルさん。この娘、一体何者なんですか? 手から大量の水を放出していましたけど……」
「…………それは、だな……」
言葉に詰まる。
言えないわけじゃない。ステイリィなら話しても秘密を守ってくれるに違いない。
おそらくステイリィもフレスが只者ではないと気付いているはずだ。だからこそ敢えてウェイルに真相を問うているのだろう。
「……神器だよ。体の中に神器を仕込んでいるんだと」
嘘をついた。
「そうなんですか」
納得はしていないだろう。表情からもそれが読み取れる。
しかしステイリィは深く追及してこない。
むしろウェイルが嘘をついた理由を推測して、ウェイルに優しい笑みを投げかけてきてくれた。
「すまんな……」
「何故謝るんですか?」
「……判っているだろう?」
「……ウェイルさんは私を信頼していないわけじゃないんですよね? だから、これ以上は聞きません」
「……すまんな」
「ここはありがとうって聞きたいですよ」
再び向けられた優しい笑みに、ウェイルは感謝した。
「すやすや……すぴーーーーー。クマーーーー、ガブッ」
「いてぇ!! フレス! 放せ!!」
寝ぼけたフレスに肩を噛み付かれた。
龍殺しと戦うときにウェイルの背中に乗ったのが、思いの他心地が良かったようで、あの後ずっとおんぶしてくれとせがまれていたのだ。
当然断り続けたウェイルだったが、フレスは図々しくも強引に自分から乗ってくるようになったのだ。
「……くま~~。もぐもぐ」
「首を噛み付くな!! 死ぬ!!」
「うう~~~、やっぱりこの娘、何者なんだ~~!?」
二人のやり取りに嫉妬の眼差しを送るステイリィ。
そんなとき、彼女の元に一人の部下が走ってきた。
「上官、電信が届きました!」
「ん? どれどれ? ……あれ? ウェイルさん宛て!? どうしてここに……? ウェイルさん、これ見てください」
「いてててて、……これは!?!?」
ウェイルの目が丸くなる。
「誰ですか? ――サラマンドラって――……って、ウェイルさん!?」
「すまん、ステイリィ! 今回は色々と助かったよ。俺達はもう行くから!!」
血相を変えてフレスを背負い出て行くウェイル。ステイリィはその様子をただただ呆然と見守っていた。
「……あ、また逃げられた……」
――●○●○●○――
「おい、起きろ! フレス!!」
「……むにゃ? どうしたの? ウェイル?」
「電信だ! サラーから連絡があったんだよ!!」
半分寝ているフレスに電信の内容を伝えた。
「ええ!?」
すると寝ていたのが嘘だったかのように声を上げるフレス。
「……サラーが!? 一体、なんで!?」
「俺にも判らない。だが、サラーは今マリアステルにいるみたいだ。とにかく、一度マリアステルに戻るぞ!!」
「うん、急ごう! ウェイル!!」
突如届いたサラマンドラからの電信。
内容はこう書かれていた。
『話がある。マリアステルの一番高いところにて待つ』と。
二人は急いでマリアステル行きの汽車へ飛び乗ったのだった。
――●○●○●○――
「あれ? 電信がもう一つ……、こ、これって、まさか!?!?」
ステイリィが受け取った電信の内容。
それはこれから起こる一大事件の開始を知らせる狼煙であった。
『治安局最高責任者 レイリゴア氏が――暗殺されました――』
次話から第四章となります。