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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編 『セルク・オリジン・ストーリー』
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「アレス王!!」


 フロリアが扉を開き、謁見の間へ出た。

 それに二人も続く。


「――おやおや……、まさか生きていましたか……?」


 そこには血まみれになったアレス王とその家臣。そして二体のデーモンを連れたハルマーチが玉座に座っていた。


「アレス様! 無事ですか!?」

「……無事だ、フロリア……! だが早く逃げろ……!! お前達まで殺されてしまう……!!」


 声を張り上げるフロリアに、アレスは心配させまいと痛みに堪えつつも笑顔を向ける。

 そんな痛々しい姿にフロリアは声を張り上げる。


「そんな! 出来ません! アレス様! このフロリアが何に変えてもお守りいたします!」


 涙ながらに訴えるフロリア。


「だめだ! フロリア! 落ち着け!」

「でも! ……でも!!」

「フロリア……!!」


 アレスは何度でもフロリアを呼んだ。

 まるで何かを伝えるかのように。


「……フロリア……!! こっちを向け……!!」


 アレスはフロリアに真っ直ぐ視線を向ける。


「あっ……!」


(あの目は……何かを狙っている目……?)


 そしてアレスは視線をとある方向へ向ける。


(……そうか……!! 相手がデーモンなら……!!)


 フロリアは理解した。アレスが何を伝えたいのかを。

 フロリアはアレスにしっかりと頷いた。

 アレスも苦笑を浮かべそれに答える。

 アレスの思惑を実行に移そうとフロリアが動こうとしたとき、


「――グゴオオオオオオオオッ!!!」


 彼女の前に一体のデーモンが立ち塞がった。


「いやぁ、主思いの良きメイドですな? アレス。そうですな、このメイドを私専属の奴隷にいたしましょう。見た目も素晴らしいですし、これは毎晩でも飽きないでしょうな!」


 ハルマーチの紡ぐ汚い言葉の羅列。

 後ろで見守っていたフレスがついに我慢の限界を超えた。


「……お前――殺す……!!」


 その声は聞くものを戦慄させるほどの静かな怒気が孕んでいた。


「許さない!! 喰らえ!!」


 言うが早いかフレスは両手に光を集中させ、大きく跳躍しその両手をハルマーチに向けた。

 次の瞬間、巨大な氷の塊がハルマーチ目掛けて打ち放たれた。

 しかしハルマーチに動じる様子はない。


「おお。これはまた珍しい女の子ですな? 手から氷とは。もしかして体内に神器でも隠しているのかな?」


 それどころかハルマーチは余裕そう唇を歪め、玉座にさらに深く腰を掛け直した。

 その仕草にウェイルは不気味さを感じた。


「フレス! 気をつけろ! こいつには何かある!!」


 氷が玉座に直撃する寸前デーモンが玉座の身代わりになるように氷塊の前に現れる。


「このままこいつもぶっ潰す!!」


 輝く腕をさらに強め、フレスはデーモンごと玉座を押しつぶそうとする。


「はああぁぁぁ!!!」


 轟音と共に氷塊が砕ける。衝撃音と共に冷気が部屋を包んだ。


「やった!?」


 しかしフレスの予想は大きく外れることになる。


「――なっ!? 効いていない……!?」


 デーモンには傷一つついていなかった。先程の衝撃音はデーモンが氷を粉砕した音だったのだ。


「……う~ん。やはり神器の力でもなさそうですねぇ……。あの氷をこいつらが止められる訳がない」


 額に指を当て、考える振りをするハルマーチ。


「しかしそうなると考えられることは一つですねぇ……」


 そしてハルマーチは衝撃の一言を口にした。


「――貴方、『龍』ですね……?」


「――!?」


 ウェイルは驚愕を隠しきれなかった。


 ――何故お前が龍を知っている!?


 ウェイルの疑問を察してか、ハルマーチは不気味な笑みを浮かべながら続けた。


「いや、実はですねぇ。セルクの文献を調べていくうちに、彼の作品には一定の間隔で龍の存在が出てくるのですよ。直接描かれていなくても紋章などでね。何でもセルクは生前、龍を使って何やら研究をしていたとか」

「セルクが龍の研究を……!?」

「ええ。詳しいことは私も知りませんがね。ただその文献に出てくる龍の特徴が、彼女にそっくりなんですよ。神龍『フレスベルグ』。青い髪に青い瞳。水を司る神龍だと。彼女の青い翼がその証なんですよね?」


 氷の冷気が収まり、フレスの姿が現れたとき、彼女の背中には光り輝く翼が出現していた。


「そうだよ。ボクは龍。貴方はその龍を怒らせたんだ。どうなっても知らないよ?」


 翼を隠そうともせず、またも光を両手に集めたフレス。


「――させませんよ。行きなさい」


 ハルマーチが命令したデーモンがフレスに襲い掛かる。

 フレスはそれにカウンターを合わせるかの如く、氷を打ち放った。

 フレスの狙いは的中、デーモンの体からは血飛沫があがる――はずだった。


「きゃあぁぁぁぁ!!!!」


 響いてきたのデーモンの断末魔ではない。

 フレスの悲鳴だった。

 フレスは弾き飛ばされていた。その小さな体から鮮血が飛ぶ。


「――フレス!!」


 それを見たウェイルは、無意識のうちに動いていた。

 短剣を取り出し、『ベルグファング』を覚醒させる。


「このデーモンが……!!!」


 ウェイルは渾身の力を込めて切り付けたが、デーモンはいとも簡単に受け止めそのまま刃を握り潰した。

 敵わないことは予想していたが、まさか刃を折られるとは予想外で、一瞬判断に迷いが生じる。

 デーモンはそこを見逃さない。


「――グオオオオオオオッ!!!」

「――ちっ……!! もう一度……!!」


 とっさにもう一度氷の剣を覚醒、間一髪で攻撃を受け止めた。


「クッ! やはり悪魔の力は強いか……!!」


 一旦デーモンとの戦闘を取りやめ、急いで飛ばされたフレスへと駆け寄る。


「大丈夫か!? フレス!!」

「……うん。大丈夫……だよ……!」


 口を切ったのか、血の滲むそう唇を吊り上げ笑顔を作るフレス。

 こうは言うものの誰がどう見たって重傷だ。説得力は皆無である。


「くっ……!! 無理するな、フレス!」

「……何……言ってんの……。今無理しないと……どこで無理すれば……いいんだよ……!」


 フレスの言うことはもっともだ。こんな状況で無理せねば命すら失いかねない。

 だが消耗の激しいフレスがこれ以上やられるのをウェイルは見ていられなかったのだ。

 悔しそうに視線を背けるウェイルにフレスが提案する。


「ねぇ……、ウェイル。もう最後の手段しかないよ……!!」


 ――最後の手段。

 それは神龍『フレスベルグ』の姿に戻ること――

 この状況ではこの方法しか思い浮かばない。


「ああ、判った……! いくぞ、フレス!」

「……うん……!!」


 ウェイルはフレスを優しく抱きかかえ、そっとキスをした。

 フレスの体が輝き、龍の姿へと――


 ――戻らなかった。


「……龍にならない!? 何故だ!?」

「うう……、やっぱりおかしいよ……。体に力が入らない……。今、奴と衝突したとき、力を吸われたみたいだったよ……」


(……力が吸われている……? もしや――!!)


 そうこうしているうちに、デーモンは二人の前に立ち塞がった。


「ハハハハハ!! いやはや、お熱いですねぇ? お二人とも!?」


 ハルマーチが汚い笑い声を上げる。

 そして腕を上げ、デーモンに指揮した。


「少しお待ちなさい、デーモン。その二人を殺してはいけませんよ? 一人は天才鑑定士、もう一人は貴重な龍なのですから! 私の良きコレクションになりそうですからね!! ですので……ほどよく痛めつけてください」


 そう言うハルマーチは今度はアレスの方へ向き直る。


「これこそがセルク・オリジンのテーマ『革命』ですよ! ついに私が王となるのです!!」


 デーモンの一体が傷だらけのアレスを摘み上げ、ハルマーチの前に晒す。


「さあ、アレス。あの鑑定士と龍。そしてメイドのことを想うなら、早く残りのセルク・オリジンの場所を吐きなさい。何、心配しなくても結構。貴方自身は最終的に殺しますから。私はセルク・オリジンのストーリー通りにするつもりですからね? ただ貴方の態度次第で三人への対応が変わるだけです」


 ハルマーチの脅迫にアレスはたじろぐ事は無かった。

 恐怖どころむしろ侮蔑を込めた視線を送る。


「……フン……。セルクは悲しんでいるよ。貴様のような馬鹿がファンを名乗っていることに」


 アレスの言葉にハルマーチの顔が露骨に歪む。


「あまりよろしくない態度ですね? 傷だらけの鑑定士に、そしてメイド、どうします?」

「そのメイド、今はどこにいるんだ……?」


 ハルマーチの指摘にアレスはしてやったりとにやけてやる。


「何!?」


 ハルマーチは部屋中を見回した。

 しかし、部屋のどこにもメイド姿はいなかった。


「……逃げたか……」

「そういうことだ。メイドを人質の取れなくて残念だったな」

「そうですか。私、いささか気分を害しましたぞ?」

「そうか。俺は気分が良いが――ガハッ!!」


 ハルマーチがアレスを殴りつける。


「自分の立場をお考えください。現国王。時期国王に向かってその態度はいただけません」


 ハルマーチは殴る手を止めない。

 だがアレスも意識を途切れさせること無く、耐えていた。


 ――そして信じていた。


「……頼むぞ、フロリア……!」


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