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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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フェルタクス、暴走

 アイリーンの演奏が中断され、『異端児』の目的は完全に潰えた。

 フェルタクスは今もまだ輝きを放ち続けているが、今はまだ魔力の暴走等は発生していない。


「皆、無事だったか?」

「ええ、そっちも無事で何よりだわ」

「ウェイル兄、フロリアさん、何とか無事だよ」

「そっか、よくやってくれた」

「演奏も無事中断されたみたいでよかったです」

「うん。フレスベルグのおかげなんだ」

「そうだな……」

「お二人とも、余り無理をなさらないでくださいね。もう全てが終わったのですから。後はサラー達を助けるだけです」

「だな。そういえば師匠はどこにいった?」

「ワシならここだ」


 声の方を振り向くと、シュラディンは何かを背中に背負ってやってくる。

 急いで駆け寄ると、それが何か判り、皆驚いた。


「サラー!? ど、どうして!?」


 フェルタクスの上方を見上げてみると、確かに貼り付けになっていたサラー達がいない。


「フェルタクスを調べているうちにメルフィナが死んだのを見てな。そしたら落ちてきたのよ」

「落ちてきたの!? 怪我はないの!?」

「フレス嬢ちゃん、心配しなさんな。誰も怪我などしておらん。流石は龍と言うところかのう?」

「よ、良かった……!」


 皆無事と聞いて、一同胸を撫で下ろす。


「……ん……。ここは……?」

「サラー、目を覚ましたの!?」

「……ふう、なんとかなったようじゃな」

「ミル! 本当に良かったよ!」


 思わずガバリと抱きつくフレス。


「イデデデデデ! 馬鹿フレス! まだ傷は痛むのじゃ!! 離れんか!!」

「あ、ごめん……」


「サラー! 本当に無事で良かったです!!」

「い、イレイズ、何人前で抱きついている! 離れろ、恥ずかしい!!」

「離れるもんですか! 君を失ってしまうと思って、ずっと気が気でなかったんですよ!?」

「う……、それは心配かけたな……」

「いいえ、此方こそ貴方に助けてもらわなければ今頃どうなっていたことか! ありがとう、サラー、愛していますよ!!」

「だからそんな恥ずかしいことを人前で言うなって!!」


 無事を喜び合うイレイズとサラー。

 それと少し違うが、その横でも似たようなことがあった。


「ニーちゃん、無事!? 何処も痛いところない!?」

「うん、なの……」


 ニーズヘッグの身体を好き勝手お構いなしに調べるフロリアの姿があった。


「確かケルキューレで刺されたんだよね!? どうして心が無事なの!?」

「一応、龍は神器に耐性があるの……。いや、心は破壊されてるの」

「そ、そうなの!?」

「うん。……ニーズヘッグの、悪い心が、なの……」


 理屈としてはフレスとフレスベルグの関係のようなもの。

 ニーズヘッグはケルキューレに刺されたあの時、心の一部を身代わりとしていた。

 それがニーズヘッグのいう悪い心の部分なのだろう。

 目を覚ましたニーズヘッグからは、確かに邪気が感じ取れない。

 表情も以前よりは明るいし、目にも優しい光が宿っている。


「よかったぁ……。じゃあ昔のニーちゃんよりもいいニーちゃんになったってことなのかな!?」

「たぶん、そうなの……」


 そんなニーズヘッグの元へ、フレスがやってきた。


「……良かった。ニーちゃんが無事で……!!」

「フレス……!!」


 フレスの姿を見た瞬間、ニーズヘッグの瞳には大粒の涙が浮かぶ。


「ごめんね、ごめんね……!! フレスの大切な人を、死に追いやった……!! 許されないことなの……!! ごめんなさい、ごめんなさい……!!」


 頭を抱えて泣きじゃくるニーズヘッグ。

 それを見たフレスは、ウェイル達から見れば驚きの行動に出た。


「……もう、いいよ」

「――え……?」


 なんと、フレスはあれだけ憎んでいたニーズヘッグを、優しく抱きしめていたのだから。


「もう、いいよ。許してあげる。ニーちゃん」

「フレス……!!」

「ニーちゃんも、あの時は人間に不信感を持っていたんだよね。判るよ。ボクだってライラと出会う前まではそうだったから。でも今のニーちゃんは気づけたんでしょ?」

「……気づけた……?」


 ニーズヘッグは、ふいにフロリアの方を見た。

 ニーズヘッグの視線が照れ臭かったのか、フロリアは顔を少し赤らめて、鼻の頭を掻いている。


「気づけたの。フレスと同じ、気づけた……!!」

「だからいいんだ。多分、ライラも許してくれると思うんだ。だから、もう謝らなくていいよ」

「フレス、フレス……! うわあああああああああああああっ!!」



「フレスってば成長したわね」

「……ああ。俺の弟子ってのが勿体無いと思えるくらいにな」

「あら、あの子をあそこまで変えたのは貴方でしょ? 師匠として自信を持ちなさいよ」

「そうだな。一応俺も師匠だからな。でも――」


 これは口には出さなかったが、ウェイルはこう思った。


(俺を変えてくれたのも、フレスなんだよ)


 こうして皆各々無事と再会を喜び合っていたのだが。


「そう言えばティアはどこにいった?」

「……確かにいないですね」

「あ、レイアじゃ! おーい、レイアー!!」


 そう言えばテメレイアもこの場に来ていなかった。

 今ようやく遅れてやってくる。


「レイア、制御は無事上手くいったみたいだな!」

「…………いや、違う」

「違う? 何を言っている!? 今、フェルタクスは活動を停止しているじゃないか!」

「ウェイル、落ち着いて聞いてくれ。今のフェルタクスは活動を休止しているんじゃない! あれは――――最終段階に入ろうとしているんだ!!」

「何!?」


 テメレイアの言葉に、一同に戦慄が走る。


「アイリーンの演奏を止め、メルフィナ達も倒し、魔力の供給源たる龍達も救出したんだぞ!? それなのに何故!?」 

「確かに神の詩は完成せず、『異端児』の目論みは失敗に終わったよ。でもねウェイル。二十年前のことを考えてみなよ」

「二十年前……!!」


 あの時もメルフィナの手によって、フェルタクスは起動し、フェルタリアは音のない都市と変り果てた。


「あの時、メルフィナは失敗したんだろ? それは色々と必要なものが足りなかった。今回以上にね。でも失敗したというのに、フェルタクスはどうなった?」

「あ……!!」


 皆気づく。

 そう、二十年前、フェルタクスの起動は失敗した。

 だが、フェルタリアは崩壊したのだ。


「フェルタクスの発動は失敗したとしても、集めた魔力でフェルタクスは暴走した……!! 今回だって同じことなんだ!」

「そう。つまり今回もまた、同じことが起きる……!! それも二十年前の比ではないほどの膨大な被害が出る! フレス以外の龍の魔力にカラーコイン。ほぼ必要なものは揃っていたのだから! 下手をすると、このアレクアテナ大陸全土が巻き込まれるほどに!!」

「……クソッ!! そういうことか……!! ……な、なんだ!?」


 突如としてフェルタクスの全体が輝きを増していく。

 そしてフェルタクスは巨大な音を立てながら、その姿を変えていった。

 最終的に完成した姿は――


「やはり大砲の姿か!!」

「『セルク・ラグナロク』の通りだね……!!」


 フェルタクスは超巨大な砲身を携えた、大砲の形と変化した。

 そして誰が見ても目に見える形で、その砲身の魔力が充実していくのが判る。

 黒い砲身が、白く染まっていっているからだ。


「これ、一体どうすればいいんだ!?」

「……判らない。魔力回路を覗いても理解不能なことばかりだった。ただ発射までの時間は判る。魔力の充実度から考えて、おそらく後十分程度さ……!!」

「十分だと!?」


 あまりも時間が無さすぎる。

 これでは何か手を考えることすら出来ない。


 ――『諦めるしかない』。


 そんな考えすら脳裏にちらつき始めた時、イルアリルマが手を上げた。


「私、判ります」

「……判るだと!? 一体何故!?」

「これを使いましたから」


 イルアリルマが見せつけてきたのは、小さなペンダント。

 中央に輝くのはエルフの薄羽だろうか。

 つまりこれは神器なのだろう。


「これはルシカから手に入れた神器で、『絶対感覚(イマジン・イメージ)』といいます。人から感覚を奪うことも出来ますし、逆に与えることもできるんです。実はこれで、イドゥと戦った時に、彼から記憶と言う感覚を奪ったんです」

「記憶を……!?」

「ええ、その中にありましたよ。フェルタクスについての記憶が。でも私には何が何だか判らないことばかりですから、是非お二人に記憶を渡したいと思いまして」

「俺と、レイアにか?」

「はい。悔しいですが、多分他の皆さんでは鑑定することは出来ないと思います。大陸最高の鑑定士であるお二人にお任せしたいと思います」

「テメレイアについては同意だが、大陸最高でいえば師匠の方が」

「ウェイルよ、ワシはもうとっくにお前に追い抜かれておるぞ。自分をそこまで卑下に考えるな。お前は大陸最高の鑑定士だ。ワシが保証する」

「師匠……! 判った。リル、頼む」

「はい。お二人とも、私の手を握って下さい」


 イルアリルマがネックレスを身につけて、そして手を二人に差し出した。

 右手をウェイル、左手をテメレイアが掴む。


「行きますよ……!!」


 イルアリルマがネックレスに魔力を込めた瞬間、二人の頭に膨大な情報が流れ込んでくる。

 頭が破裂すると思えるほどの、情報の洪水に、一瞬意識が飛びそうになる。


「終了です。お二人とも、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、何とかな」

「あまり何度も体験したくないね、これは……」

「だな。だが……」

「うん。判ったね」


 イドゥは全てを知っていた。

 フェルタクスのこと、その全てを。


 だが、この方法はウェイル達にとって最も辛い方法に違いなかったのだった。

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