フェルタリア王家の終幕
「フレスベルグ!!」
『久しぶりだな、お師匠様』
「こ、この為に神器を使ったんですね……!!」
三種の神器『心破剣ケルキューレ』により、フレスの心の中で死んだ龍神フレスベルグ。
それが今、『無限地獄の風穴』の力によって、復活を遂げていた。
「フレスの奴、よく考えたな!! 流石は俺の弟子だよ!!」
『はっは、我もフレスのことは誇り高い。折角戻してもらった命、全てをフレスの為に捧げよう。……しかしなんだ、お師匠様。我がいない間、いつの間にフレスとそんな仲に?』
「今だ」
『今!? この状況でか!? ……流石はお師匠様。やることが普通の人間ではないな』
これにはフレスベルグも口があんぐりである。
「フレスベルグ、おしゃべりは後だ。今はあいつをどうにかしないと。状況は理解出来ているか?」
『無論だ。我とフレスの記憶は繋がっているからな。我にとってもメルフィナには大きな借りがある。ここで返させてもらう……!!』
「……フレスが龍の姿に……!? 厄介な……!! だけどケルキューレの前では所詮龍も雑魚に過ぎない!」
『ふん、本当に雑魚かどうか、試してみるか?』
フレスベルグは背中のリングを輝かせていく。
メルフィナも、来るべき攻撃に備えて、ケルキューレに力を込めた。
『――無に帰れ!!』
フレスベルグの咆哮は、絶対零度の冷気となりて、メルフィナへ一直線に吹き荒んでいく。
「ケルキューレ! 龍の魔力程度、吹き飛ばしてしまえ!!」
先程ウェイル達に浴びせたように、メルフィナはケルキューレの魔力を光の爆発に変えて、絶対零度の冷気を打ち消そうと撃ち放った。
「龍如きに負けるはずがない!!」
『愚かな……!!』
壮絶なる魔力のぶつかり合い。
堪えきれず床の石畳は割れ始め、周囲の空気も歪んでいく。
そして、ついに力の均衡が崩れた。
「な……!? ケルキューレが押し負けている……!?」
『当たり前だ。貴様は我ら龍の力を甘く見過ぎている』
「何故だ!? 前の時はフレスだって簡単に倒せたし、そもそもお前はティアに勝てなかったじゃないか!!」
『そこのところがお前の勘違いしているところだ。我ら龍が少女の姿をしているとき、それは力を封印している状態だ。本来の力はこの姿でなければ発揮できん。それと今お前はティマイアがどうこう言っていたな。言っておくが、あいつの力は最強だ。ティマイアが本気を出せば、我とてただでは済まないだろう。ただあいつは本来の力を出せないだけだ。お前の持つその剣によって、太古の昔に心を壊されていたのだからな』
――光の神龍、ティマイア。
龍達の中で最も慈悲の心を持ったその龍は、その心優しさに付け込まれ騙され、裏切られ、そして最後は心まで破壊された。
『奴は本当に不憫よ。心が壊れてまで、人の愛を求め続けていたのに、奴につくパートナーはいつだってお前みたいな腐った連中だ。だからあいつは弱い。本当に大切なものを知らずに生きているのだから。本当に可哀そうだと思う』
「ティアが……可哀そう……!?」
そう言われ、またケルキューレ側の魔力が押し負けていく。
「ティアが可哀そう……? いや、違う! ティアは僕といて、とても楽しそうだった……!!」
ティアを最終目的を達するための駒だった。
だからティアをこの剣で突き刺すことになっても、別に構わないと思っていた。
でも、今ようやく気付いたことがある。
(ああ、僕、ティアを刺した時、後悔していたんだ)
ティアが傍にいて、この数か月とても楽しかった。
いつかいなくなる存在であるというのに、何故か親近感を覚えていた。
昔からずっとパートナーであったかのような。
出会った時からずっと、そう思っていた。
「そっか。僕……」
『ケルキューレの力の源は、それこそ心の強さ。人の心を喰らい、その力を我が物としている神器だ。だがお前は心の使い方を知らない。だからケルキューレも、貴様では100%の力を引き出すことが出来なかったのだ! だからこそ、この結果だ!』
ケルキューレの魔力は、もうフレスベルグの冷気を抑える力すら残っていない。
『――もう、無に帰れ』
もう一段階大きくなったフレスベルグの冷気は、ケルキューレの魔力全てを呑み込んで、メルフィナに直撃した。
「僕は…………!!」
メルフィナの身体は、その至るところが凍り付いていく。
もうケルキューレを握ってすらいられない。
カランと手から落ちたその剣は、魔力の消失と共に輝きを失っていく。
「お前は、心を知らなさすぎた。龍の心、人の心。だがな、フェルタリア王は、最後までお前のことを信じていたはずだ」
「お、お父様が……?」
「師匠から聞いたが、フェルタリア王は最後の最後まで、お前のことを信じていたって。だからこそ王は、全ての状況を知っていたにも関わらず、一人逃げることをしなかった。民を守るために残る、その気持ちもあっただろうが、一番はお前が自分自身の愚行に気付き、止めてくれるだろうと信じていたのではないかと、そう師匠は言っていた。俺もそう思う」
「……そっか。お父様は……」
フレスベルグの氷は、メルフィナの身体を完全に凍り付かせていく。
その最後の最後で、メルフィナは呟いた。
「本当に、馬鹿な人だったんだな……」
その直後、メルフィナの時は止まる。
全身が凍り付いて、そして。
「フェルタリアの歴史は、ここに幕を下ろした」
ウェイルが氷の剣を精製し、凍りついたメルフィナを一閃すると。
メルフィナという存在は、最初からこの世に存在していなかったかのように、無に帰っていった。




