通じた想い
ウェイルに止めを刺そうとした、その刹那。
――ヒュンとメルフィナの頬をかすめる、氷のつぶて。
「何……!?」
「ウェイルに、なにするんだああああああああああああああああああ!!」
ヒュンヒュンと、氷のつぶてがメルフィナに向かって発射されていた。
「フレスだって!?」
メルフィナが状況を確認しようとフェルタクス側から飛んできたフレスの方を見上げた時、その瞬間こそがウェイル達にとって最後のチャンス。
メルフィナが垣間見せた大きな隙であった。
「隙ありですよ!!」
「――――!?」
一緒に吹き飛ばされていたイレイズが、この隙を見て、メルフィナに殴りかかった。
突然のことに一瞬反応の遅れたメルフィナ。
拳を何とか躱そうと体勢を崩した瞬間。
「おっと、目的はこっちです!!」
イレイズは殴った拳を不意に曲げ、メルフィナの左手へと手を伸ばす。
そしてついに『無限地獄の風穴』を掴み、メルフィナから力尽くで奪い取ったのだ。
「こいつを破壊すれば！」
「ダメだ！ イレイズさん、それをこっちに投げて！」
イレイズがそれを握りつぶそうとした時、それを叫んでフレスが制す。
「……判りました！」
どんな理由があるのかは判らない。
だがフレスがそう叫ぶということは、必ず納得のいく理由がある。
イレイズは何も考えず、ノータイムでフレスへとそれを投げようとした。
「させるわけがないでしょ！」
「こっちの台詞だ！」
「なに……くそっ！」
メルフィナは、イレイズがそれをフレスに投げるのをケルキューレで阻止しようとしたが、下半身に邪魔が入る。
ウェイルが、身体の疲労を押しのけて、メルフィナへと体当たりを喰らわせていたのだ。
「ありがとう、イレイズさん、ウェイル！」
無事『無限地獄の風穴』を入手したフレスは、そのままそれを握りしめ、そして魔力を込め始めた。
「一体、何をする気ですか……!?」
「ボクの大切な心を、取り戻すんだ……!!」
「まさか！」
『無限地獄の風穴』が怪しく光り、うめき声を上げる。
――そして次の瞬間。
「――なっ……!? ウェイルと王子様がいない!?」
メルフィナにしがみついていたはずのウェイルの姿が、そこから忽然と消え去っていた。
同様にイレイズの姿もない。
何処に行ったのかと、周囲を窺っていると――いた。
翼を六枚まで増やしたフレスが、二人を抱いて距離をとった場所で降ろしている。
「また邪魔を……!!」
何度も何度も邪魔をされて、流石のメルフィナもイラついていた。
白い刀身を震わせ、次こそは叩き斬らんと魔力を充満させる。
「すぐに殺す……！ このケルキューレで、魂ごとなぁ!!」
メルフィナの咆哮。
だが、それに対して、ウェイルとフレスは一切動じることはなかった。
「なるほど、考えたな」
「でしょ？ この神器の力を使うのは少し気が引けたんだけど、状況が状況だったからね……!! ウェイル、お願いしてもいいかな……？」
「ああ。むしろこちらからお願いしたいくらいかな」
えへへとフレスは笑い、ウェイルも同じように笑って返してやった。
「いつ振りになるのかな？」
「久しぶりな気がするな」
「うん。でもね、本当はボク、もっとしたかったんだよ？」
命を奪い合っているこの状況で、フレスは決心していた。
今、この想いを伝える時だって。
少し勢いに任せているところもあるけど、今ならきっと、どんな結果であれ、ボクは後悔しない。
「――だってさ、ボク、ウェイルの事、大好きなんだもん！ 愛してるんだもん！」
伝えられた。
本当に状況が状況であるのに、勢いに身を任せてしまったのに。
それでも、伝えることが出来た。
心からの気持ち。
こんな時だからこそ、言えたのかも知れない。
「……そっか」
ウェイルがフレスの肩に手を置く。
少し屈んで視線を合わせてきてくれる。
目と目があった。
照れて恥ずかしくて、視線を逸らしそうになったけど、ウェイルの視線に串刺しになって首も回らなかった。
ウェイルの顔が近づいてくる。
そして、ウェイルは呟いた。
「俺もだよ、フレス」
「ウェイル!!」
二人は、初めて互いを求めてキスをした。
戦闘で口が切れていたのか、少し血の味が混じるキスだった。
それでもフレスにとって、これ以上ないほど甘い味。
その瞬間、フレスの身体に龍の魔力が湧き上がってくる。
白い冷気と青白い光。
周囲の温度を一気に下げながら、光り輝いていく。
――そして。
『なかなかに恥ずかしいことをしているじゃないか、お二人さん』
「フレスベルグ!!」
白くてもふもふとした毛に包まれ、透明な氷で身を包み、背後に青白く光るリングを背負う、古の龍王。
氷を司る神龍『フレスベルグ』が、ここに復活を遂げたのだった。
