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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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光と影の最終決戦

 フレスの作りし神器『氷龍王の牙(ベルグファング)』。

 それを右手でゆっくりと握りしめ、そして魔力を込めた。

 ピシピシと音を立てて氷がウェイルの腕に巻きついていき、冷たく鋭利な氷の刃が姿を現した。


「イレイズ。奴の剣には触れるな。心が破壊されるぞ」

「また厄介な相手ですね。ウェイルさん、貴方が相手をしている敵はいつもいつも厄介すぎますよ」

「それはお互い様だろう。いいか、気をつけろ」

「はい。とはいえ私の狙いは奴と言うよりは神器の方。あれはこの世界に存在してはならぬ不浄なる神器。我が故郷でしでかしたこと、許す気はありません」


 硬質化した拳を握りしめる。

 二人は目の前に佇む、不気味な仮面をつけた男を見据えた。


 それに対し、その男――メルフィナは笑顔だった。


 三種の神器と言う絶対的な力を手にしているという安心感、優越感からか。

 いや、そのどちらでもない。

 メルフィナは生まれながらにして狂人。

 今この状況を、彼一人だけが心の底から楽しんでいるのだ。

 メルフィナは付けていた緑色の仮面を外して、その素顔を晒した。


「これはこれはクルパーカーと言う超二流都市の王子様と、僕の影君。二人が協力して僕を倒そうと考えているのかい? 残念だけど、そいつは不可能というものだよ。君らは遙かに僕の格下。剣を交わすこと自体が光栄だと思って欲しいね」

「お前みたいなイカれた奴にそんなことを言われても、まるで怒りも感じんぞ。挑発ならお前の手下たちの方が上手かった」

「君、ダンケルクを殺したんだよね?」

「ああ、殺した」

「かつての先輩を殺すだなんて、君も十分イカれてるさ。ま、フェルタリア王家は代々狂っていたということさ。お父様もこんなに面白い神器を持っていたというのに、やってることは周辺の掃除だけ。何が楽しくて管理していたんだろうね?」

「フェルタリア王は、フェルタクスを監視していたんだろう。お前みたいな馬鹿が悪用しないためにな」

「あはは、そうだね。でも結局こうなっちゃったんだから、お父様は無能だったのさ。王の程度が低かったんだ、フェルタリアは滅びて正解だったんだね。案外僕は良いことをしたのかも?」


 アハハハハと笑うメルフィナ。

 だがウェイルは、そんな彼を鼻で笑ってやった。


「フェルタリアが滅びて正解とは思わんが、フェルタリア王家が滅びるのは大正解だ。この俺がお前をここで殺して、フェルタリアの歴史に幕を閉じさせてやる」

「君に出来ると思う?」

「出来るさ。フェルタリア王はお前ではなく俺を選んだ。つまり俺の方が格上ってことさ」

「あはは、言うねぇ」


 そんな笑い声をあげつつも、メルフィナの目はギンと鋭くなっていく。

 そしてゆっくりと――ラインレピアで着けていた白と黒の傷の入った仮面を被る。


「ウェイル、僕はずっと君を生かしてあげていた。龍やカラーコイン、アテナといった欲しいものがたくさんあって、それを君がずっと近くに置いていたから。でもさ、今の君の周囲には、もう僕の欲しいものはない。全部手に入れちゃったからねぇ。つまり僕はもう君を生かす理由はなくなったってことさ」

「ほう、もう影武者としての役目も必要ないってことでいいのか?」

「あはは、そうだね。もう影すら役目御免さ。だから僕は君を殺す」

「ああ、いいぜ。俺としてもお前の影じゃなくなったってことでせいせいしたよ。これで俺は誰の贋作もない。俺自身、ウェイル・フェルタリアという俺自身の本物だと、そう心から思えるようになったよ」

「メルフィナ・フェルタリアとウェイル・フェルタリア。光と影、どちらがこの世界に必要か、はっきりさせよう!」

「望むところだ!」


 メルフィナがケルキューレの白い刀身を、まるでフェンシングをするかのように構えた瞬間。

 二人の闘気が爆発した。

 もう何も遠慮することはない。

 ウェイルも最初から魔力全開で剣を振るう。

 互いの最初の一撃が、ぶつかり合った。

 冷気と魔力が弾け飛ぶ。

 その威力は先程二人がぶつかった時の比ではない。

 一度離れて、様子を窺う。

 しかし、そこでウェイルは気づく。

 奴が『無限地獄の風穴』を左手でずっと持ちっぱなしになっていることを。


「おいおい、片手で俺とやるのか?」

「うん。楽勝だから」

「判りやすい嘘だな。手放せないのはそいつに時折魔力を供給しなければならないからだろ? この演奏を止めないためにな」

「ありゃ、ばれているのね。別にゾンビを動かしたりするだけなら魔力を供給しなくても問題ないんだけどねぇ。完全な魂ともなれば結構燃費が悪くてね。ちょくちょく魔力を注いであげないといけないんだよねぇ」

「つまりお前を殺すか、そいつを破壊すれば、演奏は止まるということだな?」

「さてね。ま、どっちにしたってこいつが壊されるのはまずいよね。もし壊れたらどうなっちゃうか、それは自分で確かめなよ」

「確かめてやるさ」


 とりあえずの明確な目標は出来たといったところだ。


「イレイズ! 隙を見て奴から『無限地獄の風穴』を奪え! 俺が援護する!」

「了解です! お任せください!」

「隙なんてありはしないよ?」

「ちっ……!!」


 ほんの一瞬イレイズの方を一瞥した隙に、もうメルフィナはウェイルの目の前まで迫っていた。

 すぐさま剣で対応、七つほど斬撃を交わして、三つ反撃し、互いに距離を取り合う。

 その際、氷の剣の様子を見てみる。

 先程限界を迎えたからか、今回もかなりガタがきている。

 さっきはテメレイアのおかげで助かったが、正直なところで言えば、度重なる連戦にウェイルの魔力もそろそろ限界に近い。

 早めに片をつけねば、先にやられるのはこちら側だ。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 そんな中、イレイズが打って出ていた。

 ダイヤと化した拳を、メルフィナ目がけて何発も打ち込んでいた。

 無論、メルフィナが簡単にヒットするわけもなく、ササッと避けてはいたが、避ける最中にバランスを崩したようで、一瞬体が浮く。


「――あれ?」

「ウェイルさん! 今です!」

「ああ! 任せろ!!」


 バランスを崩して空いた脇腹に、ウェイルが氷の剣を伸ばした。


「――ケルキューレの力、甘く見ない方がいいよ!!」


 ウェイルの剣がメルフィナに突き刺さろうとした瞬間。

 メルフィナはケルキューレを逆手に持ち、それを思いっきり床に突き立てた。


「三種の神器の魔力、甘く見たら死ぬよ!!」

「なっ……!!」


 ケルキューレが突き立てた床が一瞬の内に輝き、そして。


「――うわああああああああああああああ!!」


 一気に魔力が炸裂すると、爆発が起きる。

 その爆風でウェイルもイレイズも弾き飛ばされた。


「ぐはっ!?」


 飛ばされた時に壁で背中を強打。

 呼吸すら難しい状態に陥ってしまう。

 それから腕に走る激しい痛み。

 どうやら利き腕も強く打ちつけたらしい。

 感覚こそあれ、自由に動かすことが出来ない。

 また氷の剣もぽっきりと折れてしまっている。


「馬鹿な男だね。だから言ったのに」


 そんな絶望的な状況の中、突如として降り注ぐウェイルを侮蔑するかのような声。


「くそ……!!」

「もう終わりかい?」


 メルフィナの行動は迅速だ。

 すでにケルキューレを構えて、ウェイルの目の前に立っているのだから。


「ああ、腕が動かないのかい? やけに変な色になっているし、氷の剣も折れているじゃないか。なんだ、あれだけ大口叩いておいて、君もお父様と同じ、大したことのない人間だったということだね。実にがっかりだよ」


(くそ……! 腕が動かん……!!)


 ウェイルの目には、嫌というほどケルキューレの刀身が映り込む。

 白い刀身から発せられる生半可ではない魔力は、見る者を戦慄させるほどの迫力がある。

 何度もケルキューレとは衝突したが、その度に命が削れていく感覚があり、恐怖すら覚えていた。

 フレスの剣を信じ、己の使命を胸に刻み込んで覚悟を決めていたからこそ、ケルキューレの恐怖に打ち勝ち、対等に渡り合っていた。

 だが今はすで目の前に剣がこちらを突き刺さんと切っ先を向けられている。

 身体が震えることこそないが、心についた恐怖という傷は誤魔化しきれない。


 ――恐怖と、そして動かぬ腕。


 この状況に、ウェイルの身体には芯が冷たくなっていく感覚があった。


(……くそ……、まさか、ここで死ぬのか……!?)


 ――死。


 ウェイルの脳裏に強烈に浮かび上がる、その一文字。


「反撃も出来ないか。ならこのケルキューレで止めを刺してあげるよ!」


 振り上げられたケルキューレを前に、ウェイルは死を覚悟した。


 ――視界に映り込んだ、大切な愛弟子の姿を見るまでは。


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