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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
490/500

二十年前の続き


「凄まじい魔力だね。これを手懐けるのは、ミルと初めて出会った時以上に難しそうだ」 


 『創世楽器アテナ』のコントローラーともなっている、テメレイアの持つ本『神器封書』(ギア・シールグリフ)


「『セルク・ブログ』と、そしてインペリアル手稿に記載された内容から考えても、こいつの動力は龍の魔力と、詩の魔力。今演奏している曲が、その魔力を生み出す曲なんだね」


 一瞬でも気を緩めれば呑み込まれてしまいそうな、狂わしいほどの甘い曲。

 この快楽すぎる音のシャワーに耐えながら、アテナを使って膨大なる魔力を制御せねばならない。


 集中を切らすことは刹那でも許されない。


 何せテメレイアの制御次第で、囚われている龍達、ミルの命を奪ってしまうことになりかねないのだから。

 無限の生命力を持つ龍とはいえ、命の根源たる魔力を全て失えば、その命は無と化す。

 それは以前超弩級戦艦『オライオン』と戦って負傷し、しばらく意識を失っていたフレスのことを思えば、容易に想像がつく。


「ミル達を魔力源としている状態を、徐々にアテナを魔力源にするように魔力回路を調整しなければならないってことか。……これは厳しい作業になりそうだね。時間もないし」


 演奏が始まり、すでに二分が経過した。

 となれば残された時間は八分もない。


「よし、行こうか」


 バッと本を開いて、テメレイアは目を閉じて、本全体に魔力を込めていく。

 自我をはっきりと保ちつつも、意識を『アテナ』へと流動させる感覚。

 ジグソーパズルのように複雑な意識を、ピタリとアテナへとはめ込んで一体化するように、テメレイアは意識を巡らせる。

 もう何度も経験した感覚だ。

 その瞬間はすぐにやってくる。


「                    」


 無意識に口が開き、意味も音も判らぬ詩を、口ずさんでいく。


 詩に呼応し魔力が溢れ、そして消え去った。


(フェルタクスの魔力を、呑み込んでしまう感覚で……!! ……よし! 後はミル達の魔力を探して、線を斬り、代わりにアテナと繋ぐだけ……!!)


 本の輝きが最高潮に達した時、テメレイアはフェルタクスの魔力回路に意識がリンクした。







 ――●○●○●○――






 蒼い翼をはためかせ、大きく飛翔したフレス。

 右手には青白い魔力と冷気が吹き荒び、今すぐにでも巨大ツララを出現させられる。

 狙うはフェルタクスのコントロールパネル。

 無数に伸びる金属管が集まった、ピアノ鍵盤のある場所。

 彼女の双眸に、ライラの死の原因が写り込んだ。


「アイリーン!! どうしてお前が今、ここにいるんだああああああああ!!」


 巨大なツララを出現さえ、それを大きく振りかぶる。

 だがアイリーンはそんな状況など一切お構いなしに、鍵盤を叩き続けた。


「無視するなああああああああああああ!!」


 ぶんとツララを思いっきり投げる。

 フェルタクス全体が揺れるほどの衝撃が走り、氷の塊が散乱していく。


 ――だが。


「……効いていない……!?」


 氷が崩れ落ちた後も、何事もなかったかのようにアイリーンは演奏を続けていた。

 見ればコントロールパネル周辺には、透明な結界のようなものが張られている。

 氷がそこだけを避けているので、それはすぐに判った。


「……カラーコインだ……!!」


 ピアノ鍵盤周辺に埋められていたのは、見覚えのあるコイン。

 ルーフィエから預かり、そしてダンケルクに盗まれたカラーコインが、そこにあって、魔力が充実しているのか光り輝いていた。


「結界があるなら、ぶっ壊すだけだよ!! うらああああああああああああっ!!」 


 次々とツララを精製し、結界に向かって放ち続けるフレス。

 だが、結界は一向に弱まる気配はない。


「はぁ、はぁ……!! くそっ……!!」


 結界の傍まで飛び、コントロールパネルのすぐ近くへ降りた。

 目の前にいるのは、この世界で最も憎ましい仇敵。


「アイリーン! こちらを向け! ボクの方を見ろ!!」


 ひたすらに鍵盤を叩き続けるアイリーンに、フレスは叫び続けた。


 ――すると。


「……あら? ……お前は……!!」


 演奏を続けながら、アイリーンがこちらへ視線を向けたのだ。


「私……また意識が飛んで……?」


 メルフィナと話したところまでは覚えていたが、鍵盤を一つ叩いた瞬間から、アイリーンの記憶は飛んでいる。

 どうして記憶がないのか、少し混乱したものの、自分のすべきことは理解している。

 だからこそとでも言うべきか、身体も無意識にこうして鍵盤を叩き続けている。

 アイリーンが自我を取り戻した理由。

 それは目の前に現れたフレスという存在に、アイリーンの感情が異常なまでに揺さぶられたからだ。


「……お前は氷の龍……!? 結局また私の邪魔をしに来たというの!? ほんと、嫉妬深い娘!」

「何言ってんだ! ボクはずっと、ずっとずっと、お前に復讐することを考えていたんだ!!」

「ずっと? さっき会っていたばかりじゃありませんこと?」


 アイリーンは外の世界が二十年という時が経過したことを知らない。

 フレスとは今の今まで交戦していたという記憶しかない。


「でも以外に冷静ですのね? さっきは凄まじく怒っていらっしゃいましたよ? 自我を失うほどにね」

「今だって、狂ってしまいたいくらい怒ってるよ……!! あの時は結局逃げられた。今回はそうは行かない!」

「平民の女一人殺したくらいで何だって言うんでしょうね? 私は誇り高きラグリーゼ家の娘! あの小娘はこの私に対して恥を掻かせてくれたのです。貴族として罰を与えるのは当然の事! もし貴方も私の演奏を邪魔するというのであれば容赦しませんわよ?」

「容赦しない? それはこっちの台詞なんだ!! ボクはもう、我慢の限界だ!!」

「――――!?」


 超至近距離からのフレスの氷の弾丸連射。

 氷の砕ける音と冷気が充満し、周囲を白く染めていく。


「……くそ、結界が……!! ゼロ距離から撃ったのに……!!」


 だがフレスの弾丸は一発もアイリーンにはヒットしない。

 全て結界によって弾かれてしまっていた。

 判っていたことではあるが、この結界の強度は凄まじいものがある。


(今のボクの力じゃ、フェルタクスの魔力には太刀打ちできない……!!)


 人の娘の姿で出せる魔力には限界がある。

 だがフレスの半身は、もうこの世にはいない。

 自分の力でこの結界を壊す手段は、もう無いのかも知れない。


「……あらあら、少し驚きましたけど、結局この様ですのね? 貴方の力は私には届かない。さっきと全く一緒ですこと。私も気兼ねなく演奏に集中できますわ?」

「演奏を止めろ! そうしないと大変なことになる!」

「止めるわけがないでしょう? メルフィナが用意したくれた、私だけの演奏会ですのよ? この曲も、もう私の曲みたいにしっくりと馴染みますわ」

「その曲を作り直したのはライラだ! お前のなんかじゃ決してない!!」

「ふん、死んだ人間には何も言う権利はないのです。まああの子がもし生き返って(・・・・・)私に文句を言ったところで、また同じことをしてあげるだけですけどね? 貴方も不満があるなら直接私を止めたらよろしいだけですわよ? ま、貴方にそれが出来たら、ですけど」

「く……!! ――――あれ……? ……生き返って……?」


 そう言えば、どうしてアイリーンは蘇っているのだろう。

 肉体はフェルタクスの魔力で保存されていたと考えれば納得いくが、どうして魂までがここにあるのか。


「そうか……!!」


 答えは本当に簡単だった。

 さっきメルフィナが使った神器『無限地獄の風穴コキュートス・ホールゲート』。


「あの神器があれば……!!」


 フレスは閃く。

 この結界を破壊する、ただ一つの方法を。

 ならばやることはこれしかない。


「早くウェイルの所に行かなくちゃ……!!」

「あら、諦めちゃいますの? 賢い選択です。負け犬は負け犬らしくしていなくてはね」

「アイリーン! ボクは君を許さない。必ず、ライラの仇を取る。待ってろ!」


 もしかしたら最初から、この方法しかなかったのかも知れない。

 そう、フレスは心の中にもう一人の存在がいて、初めて一人前であるのだ。

 フレスは翼をはためかせ飛翔する。


 目指すはウェイルの元。


 そして目的は――『無限地獄の風穴』と――フレスベルグの復活。



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