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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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復活のアイリーン、フェルタクス超動

 この部屋に、今全てが出揃った。


 三種の神器にサウンドコイン、そして龍。


 全てに呼応するかのように、フェルタクスが震えだす。


「さあ、起動しようか! まあ龍が一体くらい足りなくても、後から送れば問題ないよね! ついにケルキューレを鍵として使う時が来た!」


 メルフィナはタクトを振る様にケルキューレを振り始めた。

 ニーズヘッグとミルの身体が宙に浮かび、サラー達の隣に張り付けられる。

 フェルタクスと繋がりを求めるように、ケルキューレから光が発せられ、その光はフェルタクスへと集まっていく。


「君達の怒り、悲しみ。それらは全て無に帰す。このフェルタクスの神なる演奏が、この大陸を終焉へと向かわせてくれるだろうから!」


 ゴオオォォンと音が響く。

 鍵たるケルキューレが、フェルタクスを起動させたのだ。


 また、メルフィナがケルキューレと共に取り出していたのは。


「――『無限地獄の風穴コキュートス・ホールゲート』……!? 何に使う気だ!?」


 またゾンビを操ってくるかもしれない。

 そう考え、一同武器を構えて身構える。


 だがメルフィナは『無限地獄の風穴』を、想定外の方へ――フェルタクスの方へと向け、そして叫んだ。


「さあ、最高の演奏会を始めよう! 注目するは舞台上! 演奏者は僕のお嫁さん! 二十年の時から、今こそ目を覚まして! そして僕に再び微笑んで! アイリーンお姉ちゃん!!」





「――僕に再び微笑んで! アイリーンお姉ちゃん!!」





 ――うごおごおおごおおおおおおおお……ッ!!





 その声に呼応して、ブルブルと『無限地獄の風穴コキュートス・ホールゲート』が振動し、呻き声のような音を発し始める。


 漆黒の闇の霧が発生し、異臭を漂わせていく。


「アイリーン……!?」


 その名前を聞いた瞬間、フレスの脳裏に電流が走ったような感覚があった。


「アイリーン……!! もしかして、その名前って……!!」


 フレスにとって、全ての元凶ともいえるその名前に、体中が冷たくなっていく感覚があった。


「――おはよう、アイリーンお姉ちゃん!」


 メルフィナがそう呟いた瞬間、『無限地獄の風穴』の振動は止み、そしてフェルタクス自身も、自ら輝くのを止めた。

 そして次にこの場に響き渡ったのは、ピアノの音。

 たった一つの単音ではあるが、その音はこの場にいる全員を戦慄させる禍々しさを放っていた。


「……める……ふぃな……?」


 少し擦れてはいるが、若い女性の声だった。

 その声はフレスの脳裏に、あの時の光景を思い出させるのには十分な声。


「そこにいるの……? メルフィナ……?」

「うん、いるよ、アイリーンお姉ちゃん! どうやらお姉ちゃんを生き返らせるのには成功したみたいだね」

「あ、あ、……アイリーンッ!!」


 フレスが怒りの余り翼を広げ、冷気を放出し始める。


「ふ、フレス……?」


 ウェイル達は何が起こったのかと、フレスの視線を追った。

 そして驚く。

 フェルタクスのピアノ鍵盤が見えたと思えば、その場所に全くの見知らぬ女性が佇んでいたのだから。


「フレス、あいつは一体……!?」

「あいつは! あいつは……!!」


 いつものフレスの様子じゃない。

 今落ち着けと言ったところで、全くの無意味だと判るほどに。


「あいつは! あいつは!! ライラを! ライラを殺した、張本人なんだ!!」


「ライラを……!?」


 フレスの大親友であったライラと言う少女。

 二十年前のフェルタリアでフレスと出会った、天才ピアノ少女だ。

 フレスが今までニーズヘッグと『不完全』を憎んでいた理由。

 それがライラの死であり、仇を討つと心に誓っていた。


「だがフレス、それは二十年前の話だろう!? あの娘はどう見てもまだ二十歳以下にしか見えない!」

「……『無限地獄の風穴』で復活させたということさ。あのメルフィナと言う男がね」

「……なるほど……!!」


 怒りで周りの見えなくなったフレスの代わりに、テメレイアが補足した。

 死者をもこの世界に呼び戻す、史上最凶ともいえる神器『無限地獄の風穴コキュートス・ホールゲート』。

 フレスの生きる理由すらも歪めた張本人が、メルフィナの使ったこの神器によって、今ここに存在せしめている。


「メルフィナ? 貴方メルフィナなの? どうしてそんなに大きくなっているの?」

「実はね、お姉ちゃんを愛するために、神器で身体を大きくしたんだ!」

「本当なの!? 何て嬉しい! 小さかった貴方も可愛かったけど、今の貴方もとっても素敵! 愛しているわ、メルフィナ!」

「あはは、ありがと。それでお姉ちゃん、早速で悪いけど、演奏の続きをお願いできるかな?」

「続き? ああ、そうですわね。そう言えば演奏を始めたところからの記憶がありません。……メルフィナ、いいかしら?」

「うん、お願い!」

「演奏が終わったらイイコトしましょうね?」

「え、えっと、う、うん、いいよ?」


 アイリーンは、二十年前そうした時と同じように、鍵盤をゆっくりと叩き始める。

 フェルタクスによって肉体を時間から剥離されていた彼女の身体は、魂さえ戻った今、当時のままとなっている。

 だからピアノ演奏の才能も当時となんら変わりはない。

 卓絶した演奏技術で、神の曲が始まった。


「この曲の全てが演奏し終わった時、このアレクアテナ大陸は異世界と融合する! 一体どんな世界になっているか、今から楽しみで堪らないね!」


 パアッと両手を上げて、メルフィナはケルキューレの切っ先を天に向ける。


「フェルタクスよ! 生贄は用意した! 彼女達を魔力源に、カラーコインを魔力回路として、この世界の最後の為に起動せよ!」


 貼り付けとなったサラー、ミル、ティア、ニーズヘッグの身体が、光り輝いていく。

 フェルタクスも光を取り戻し、先程以上に輝きを強くしていった。


「う~ん、やっぱりこの演奏だ。アイリーンお姉ちゃんは天才だよねぇ」


 魔力の含んだその戦慄は、聴く者の心を支配する。

 二十年前のフェルタリアの最後を直接見たシュラディンには、それがどういうことかよく理解している。

 皆無意識に、その音を必死に耳に詰め込もうと呆然と突っ立っていた。

 王城の方にあまりにも異様な光の柱が立っているというのにも関わらずだ。

 そしてその時の状況が、今まさにここで再現されようとしている。

 事実、響き渡る心地の良い音色に、皆、意識を失いかけていた。


「ウェイル! 皆、目を覚ませ、ワシの声をよく聞け!」

「……し、師匠!? ……!?」


 シュラディンが放った大声で、皆がハッと目覚めた。


「……今俺、意識が飛んでいたのか……!?」

「それがフェルタクスの持つ魔力だ。音楽による心の支配が、あの神器の力の一つなのだ!! 心をしっかりと持て! この曲に支配されるでないぞ!!」


 後少しで完全に音に飲まれるところだった。


 ――『異次元反響砲フェルタクス』。


 やはり三種の神器か、その力は生半可なものではない。


「皆、よく聞け! 今アイリーンが演奏している曲。あれが終わった瞬間、世界は崩壊を迎える! あの曲は約十分の曲だ! つまり我々に残された時間は、後十分もないということだ!!」

「それまでに演奏を止めさせなければならないということだな!?」

「そう言うことだ! だが制御だけでは、この集まった魔力を処理できずに、二十年前のフェルタリアの惨劇が繰り返される! つまりアイリーンを止め、フェルタクスをどうにかして制御せねばならない!」

「だがコントロールはピアノ鍵盤で行うのだろう!? 誰もピアノを演奏できないし、ましてやの膨大な魔力の制御だなんて――」

「――僕がやろう」


 神器『神器封書』を持ったテメレイアが、ウェイルを制し名乗り出た。


「僕なら出来る。いや、僕にしか出来ないだろう?」


 テメレイアはそう言ってウェイルにウィンクを飛ばしてきた。


「……『アテナ』を使うということだな……?」

「これでも僕は三種の神器の所有者の一人だからね。それに『創世楽器アテナ』にとっては、魔力制御なんてお手の物なのさ。だからあのくらいの魔力なら、多分何とかなると思う」


 三種の神器の一つ『創世楽器アテナ』は、魔力制御に長けた神器である。

 とはいえ、相手はこれまた三種の神器。

 いくら『アテナ』に魔力を抑える力があるとして、問題は術者の方だ。


「あれほどの魔力を、一人間のお前が出来るというのか!?」

「ウェイル、今は出来る出来ないの時じゃない。やるかやらないかだろう? 心配してくれるのは嬉しい。でも、僕なら出来るさ。何せ僕はアレクアテナ大陸最高の天才なんだからね」

「レイア……!! ……判ったよ。任せるな」

「任せておくれ」


 ウェイルはそう言って、何気なくテメレイアの肩を叩いた。

 そのことがテメレイアにとっては最高のご褒美であり、同時にやる気の起爆剤にもなってくれる。  


(……僕はね、ウェイル。正直この世界の命運どうこうより、君に期待されている、たったそれだけのことの方が、より本気になれるのさ。君の為なら、僕は命も掛けられる……!!)

     

「私が何をするのか、実は決めているの。勝手かも知れないけどね。リル、ついておいで。まだ厄介なのが残っているでしょ?」

「ええ。厄介なのが一人、ですね」

「アムステリア殿、どこへ行く!?」

「シュラディンさん、心配しないで。私達は私達の因縁に肩をつけに行くだけだから。それにおそらくだけど、奴はこの状況を打破する方法を知っている」


 アムステリアとイルアリルマの見据えた先。

 そこには後ろで手を組み、此方を鋭い目で睨む老人、イドゥの姿があった。


「承知した。頼みます」

「ええ。時間もないし、チャッチャと蹴りをつけてくるわ」


 アムステリアとイルアリルマの二人は互いに頷き合うと、歩いてイドゥの方へ向かった。


「アイリーンを止めるのはボクがやる」


 フレスはそう断言し、もうアイリーンの方ばかり睨み付けている。

 誰も止めることをしないし、止めることは出来ないのだと判っていた。


「フレス」

「……何、ウェイル?」

「覚えているだろ? 約束」

「…………うん!!」

「お前との約束。『関係ない者を死なせない』っていう奴な。プロ鑑定士と言う仕事柄、これは中々に難しいものだったが、俺達は守ってきたよな」

「……うん!!」

「いけ、フレス! 今この時の為の約束だったんだ! 因縁に蹴りをつけてこい!」

「うん!!」


 バサッと翼を展開し、フレスは飛翔した。

 狙うはコントロール席に座るアイリーン。

 二十年越しの、復讐を果たす時。


「ギル、お前はフロリアの手当てをしてやってくれ。あいつは俺達の為に負傷してくれた。もう仲間と言ってもいい存在だ。頼む」

「う、うん、任せておいてよ!」


 ギルパーニャも、この場において自分は戦力にならないことは重々承知している。

 だから本来ならば何も出来ない自分であるはずなのに、仕事を割り振ってくれた兄弟子には心から感謝した。


(私は私に出来ること。それをすればいいんだ!)


 ギルパーニャはこの場にいる誰より自分のことを知っている。

 だから、彼女はどこでも最高のパフォーマンスを発揮できるのだ。

 フロリアの元へ駆けつけたギルパーニャは、すぐさまフロリアの手当てに取り掛かった。


「師匠はフェルタクスのことを俺達の誰よりも知っている。師匠程の人物だ。この二十年、フェルタクスの研究を欠かしたことは無かったんだろ?」

「……よく判ったな。流石はワシの弟子。お前達の手に入れた情報のおかげで、これまでワシが手に入れてきた情報はより真実味を帯びた。おかげで、ある程度のことは判る。勿論この状態となったフェルタクスを止める方法は判らん。だが、多少の時間を稼ぐくらいならワシにもできそうだ。だがそれをするには邪魔な者がいる」

「……メルフィナ、だな」


 ニヤニヤとこちらを見てくる男、メルフィナ。

 奴は目的を完遂するためには、どんな手法でもとってくるはず。

 仲間の龍ですら生贄に捧げるほどの狂人だ。


「奴の相手は、当然俺がする。これは誰にも譲れない」

「……王の意思はメルフィナではなく、ウェイル、お前さんに託されている。討ってこい! 王の仇を! 故郷の仇を!」

「ああ!」


 氷の剣を腕と融合させ、ウェイルがメルフィナの方へ一歩進んだ時である。


「待ってくださいよ。私にもやらせてください」

「イレイズ? いや、奴は俺の因縁の――」

「私にとっても因縁ですよ、サラーのこともありますけど、特にあのクソッたれ神器は……!!」


 メルフィナの操る神器『無限地獄の風穴』。

 あの神器のせいで、イレイズの故郷『部族都市クルパーカー』は壊滅的な被害を受けている。

 何より故郷の仇である敵、イングの操っていた神器だ。

 イレイズにとっても因縁であるには違いない。


「あの神器は私自らが葬り去らなければ気が済みません。申し訳ないですが、私は私の私情でやらせてもらいます」

「……そうか。勝手にしたらいいさ」

「ええ。勝手にしますとも。貴方への借りも、ここで勝手に返させてもらいますね」

「それも勝手にしたらいい」


 演奏が終了するまでの残り時間、僅か八分。


 残されたその時間、皆はそれぞれの因縁に蹴りをつけるべく、最終決戦へと望んでいく。



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