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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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フロリアの秘策

 イドゥの槍で、正面から貫かれたフロリア。


「馬鹿娘め、自ら死を選ぶとは」


 フロリアはピクリとも動かない。

 絶命したのだと、そう判断し、イドゥが槍を引き抜こうとした時。


 とある違和感が、イドゥを襲う。


「や、槍が重い……!? どういうことだ!? 槍が抜けん……!?」


 フロリアに突き立てた槍を回収しようと力を入れて踏ん張ってみるも、どうしてか槍はピクリとも動かない。


「な、何故だ!? どうして抜けん!?」


「――こういうことだからだよ」


 その声にハッと驚かされたイドゥは、すぐさまフロリアの顔を見た。

 そして槍が抜けない理由を理解する。


「お前、どうして槍を掴んでいる……!! いや、その前にどうして生きている!? 確かにこの槍に貫かれていたはずだ。普通なら絶命ものだぞ!?」


 転移した槍の矛先を、どうしてかフロリアが握りしめていた。

 どこにそんな力があったのか、いつの間に槍を抜いたのか。

 そもそもどうして彼女は生きているのか。


「老いぼれ爺さんよりは、メイドとして鍛えられた私の方が力はあるみたいだね……!!」


 ふうっと一息ついて、そして。


「うらあああああああああああああ!!」


 フロリアは叫びながらイドゥから槍を奪わんと力一杯引っ張った。


「砕け散れえええええええええええええええええ!!」


 槍を奪うと同時に右手で握りしめた斧を大きく振りかぶる。

 そのまま斧を槍の矛先へ振り下ろした。

 その一撃でイドゥの槍は音を立てて砕け、真っ二つとなる。

 先端の槍先はひん曲がり、見るも無惨な形となった。


「ぱ、パラレル・グングニルを、砕いただと……!?」


 驚きの余り、腰が抜けそうになるイドゥ。

 目を見開き、どうして今の出来事に至ったのか、その理由を探す。


 ――そして見つけた。


 フロリアのとっていた、本当の秘策を。


「はぁはぁ……、し、死ぬかと思った……!! でも予定通りだね、ニーちゃん……!」

「うん、予定通り、なの!!」


 フロリアの背後より現れたのは、フレス達の方へ向かったはずのニーズヘッグだった。

 彼女の右手からは魔力光が漏れ、その光は揺蕩うようにしてフロリアの身体へと流れていた。


「き、貴様、まさか龍の生命力を……!?」

「あ、やっぱりイドゥも知っていたんだね? 龍は人間に生命力を分け与えることが出来るんだよね。だから実はニーちゃんには戦闘中ずっと私に生命力を送ってもらい続けていてさ。イドゥの槍を完全に避けることは無理だから、もう止めるには身体で受けるしかないと思ったんだ。多少の傷ならニーちゃんの力で治っちゃう。勿論心臓にズドンと刺されちゃったら死んじゃっていたけどね。命を賭けてイドゥ、アンタの神器を封じさせてもらったよ! ニーちゃんに命を預けて良かったよ」

「……お、お前が、他人を信頼したということか!? ニーズヘッグを信頼して命を預けたと!?」

「えへへ、自分でも驚いているけどね。でも、こんな自分も嫌いじゃないかな」


 龍の生命力は、フロリアの傷を元通りに戻してくれる。

 無論尽きた命を戻すことはできないが、幸いにして槍はフロリアの心臓や喉元等の急所には当たらなかった。

 イドゥの槍を受け止めた時、死ぬほどの痛みはあったが、即死には至らなかったのだ。

 そのおかげで、ニーズヘッグの力はフロリアを再生させてくれたのである。


「よっこいしょっと」


 ひょいと、今度は軽々と斧を背負うフロリア。


「実はこれ、そんなに重くはないんだよね。重そうに見せたのも演技なんだ。騙されちゃったでしょ?」


 フロリアはしれっとそう言うが、実際この斧はそれほど軽い代物じゃない。

 普通の女の子であれば両手で持ち上げるのがやっとのはず。


「私はヴェクトルビアでメイド長をしていたんだけど、そこまで上り詰めるには結構大変だったんだよ? 下っ端時代は毎日薪割りなんてさせられていてさ。一日に二百本のノルマがあったんだ。こうやって割っていたんだよね!!」


 斧をゆっくりと掲げて、フロリアは思いっきり振り下ろす。

 綺麗なフォームから繰り出される斧の一撃は、いとも簡単にドゴンと床を砕いた。


「メイドというよりは農家の娘みたいでしょ? アハハ、ここ笑うとこだよ~」


 斧を担ぎ直して、イドゥへと詰め寄っていく。


「さてイドゥ、もう次の手はないのかな?」

「次の手、か。無論あるに決まっておろう?」

「だよね~。だって準備していたんでしょ?」

「うむ。そしてすでに、それは起動しておるぞ? 向こう側も結構ピンチそうなんでなぁ」


 イドゥは何か憑き物が取れたかのように晴れ晴れとした顔で、フレス達が戦っている方を見た。


 何事かとフロリアが釣られてそちらを見た、その時である。

 

 巨大な爆発音が生じるともに、城全体が揺れ始めた。


「な、何事!?」


 光り輝く三人の少女の姿を目で捉えたと同時に発生した爆発。


「フレス達が爆発を……、いや、爆発の影響だけじゃない……!!」


 異変はすぐに気づけた。

 爆発によって生じたと思われる揺れは、爆発が終わった後も揺れ続けていたからだ。


「な、何この光!? これがイドゥの奥の手……?」


 自分の足元も光り輝いていることに気づく。

 光は何も不規則に上がってきているわけじゃない。

 何らかの模様を描いているようだった。

 そしてフロリアには、この模様に見覚えがある。


「なるほど……!! 龍には確かにこれが一番だね……!!」

「……ふ、フロリア……!!」

「ニーちゃん!!」


 ニーズヘッグの膝が折れる。

 いよいよ持って、こいつはまずい。


「フレス達にも伝えないと……!!」

「伝えたところでどうにかなるならいいがな。もうニーズヘッグの様になっているかも知れんぞ?」


 クククと笑うイドゥの背後に、のっそりとした黒い影が現れる。


 影の正体、それは――


「やっぱり『龍殺し』だね……!! そりゃここに龍が集まるって情報があるなら、これが一番効果的だもんね……!!」   


 ――龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)


 上級デーモンの中でも、とりわけ強力とされる種類の一つ。

 何より龍殺しには、その名の通り、龍の魔力を封じ奪うという特殊能力が備わっている。

 かつて自分も龍殺しを用いてフレスやサラーを追い詰めたことがある。彼らの強大さはいやというほど知っている。

 そんな龍殺しの姿は、最初の一体だけには留まらず、二体、三体と増殖を続け、床の光が消え去る頃には、合計十二体がこの場に召喚されていた。


「さて、ワシが知るのはここまでだ。これから先は自分自身の目で見させてもらおう」


 よっこいせと、年齢相応な台詞を吐きながらイドゥは玉座に腰を下ろした。


「……どうしよう、このデーモンの数……!!」


 赤く染まった牙を剥き、腐臭を漂わせる翼を携えた龍殺しが、この謁見の間を支配した。



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