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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編 『セルク・オリジン・ストーリー』
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『セルクの起源(セルク・オリジン)』

 ――セルク・マルセーラ。


 アレクアテナの歴史上、最も有名な画家であり、その作品は大陸中で羨望視されている、芸術品の最高傑作だ。

 そんな彼が画家になりたての時に描いたとされる七枚の絵画。

 それらは総称して『セルクの起源(セルク・オリジン)』と呼ばれている。

 セルクは絵画を描く時、必ずその絵画に無作為に番号を付けている。

 それらはセルク・ナンバーと呼ばれ、その番号が被ることはない。

 無論セルク・オリジンにも例外なくそれぞれに無作為に番号が振られていた。

 そのため、少し前まではこれらの関連性を見つけられず、セルク・オリジンは連作ではなく個々の作品として扱われていた。

 それが最近の研究により、セルク・オリジンは、七作合わせて一つの作品であるとことが発見されたのである。

 近年までにセルク・オリジンは七枚中六枚まで発見されていた。

 正しく言えば七枚全ての存在は発見されてはいたのだが、長い歴史の中何度も盗難に遭い、一度足りとて全てが同時に出揃ったことはなかったのである。

 故にプロ鑑定士協会でさえもセルク・オリジンの詳しい情報は保存されておらず、新たに発見されることを待つばかりというのが実態だった。


 それが今、ウェイル達の目の前に最後の七枚目が現れたのである。


 セルク・オリジンで描かれる物語のタイトルは『革命』と言われている。

 それはセルク・オリジンを一つ一つ見ていけば、誰もが理解できるタイトルだった。



 ~~『セルクの起源 タイトル「革命」』~~



 ★セルク・オリジン 一作目 『王の乱心』 セルク・ナンバー 396


 赤を基調としたその絵画に描かれているのは、民を踏みつける王と、土下座する民。

 そしてその民に槍を突き刺さんとする兵士二名の、王宮での出来事である。

 赤が基調なのは、地面が血で染まっているからだ。

 また、王の足元には、四肢が切断されバラバラになっている人間の死体が散乱している。

 王の乱心を描いたとされる、物語の邂逅となった絵画である。


 ★セルク・オリジン 二作目 『兵の遊び』 セルク・ナンバー 016


 一作目とは背景が変わって、城下町。

 民を奴隷のように扱う兵士と、槍で民を突き刺している兵士。

 民の顔は苦痛と悲哀、憎悪で歪み、兵士の顔は狂気を孕み、笑っている。

 両者の圧倒的な立場の差、そして両者の表情が印象的な絵画である。


 ★セルク・オリジン 三作目 『毒』 セルク・ナンバー 604

 

 井戸の前で人々が苦しんでいる様子が、描き出された作品。

 白目をむき、泡と血を吐いて苦しむ人々が、実際に目の前にいるかのようにリアルに感じられる、そんな絵画である。


 ★セルク・オリジン 四作目 『燃え盛る都市』 セルク・ナンバー 883


 燃え盛る城下町を、王が王宮から眺めている様子を描いた作品である。

 町の至る所から煙と火の手が上がり、その様子を眺めながらほくそ笑む貴族の下劣な姿を描いた、セルクにしては珍しい風景画である。


 ★セルク・オリジン 五作目 『召喚』 セルク・ナンバー 743


 魔術師が悪魔を召喚している絵画である。

 この作品については発見当時から現在まで、様々な憶測が飛び交っている。

 「セルク・オリジンには関係ないのではないか」とか「いや、間違いなく物語に関係する」など。

 何故なら、この作品には物語の主人公である市民が一人も登場していないからだ。

 描かれているのは一人の魔術師と、七体の悪魔。

 暗くて冷たい、そう感じさせる、他の作品とは一風変わった絵画である。


 ★セルク・オリジン 六作目 『立ち向かう民』 セルク・ナンバー 227


 今回発見されウェイルが鑑定したのが、この絵画である。

 奮起した人々が王宮に攻め入っている様子を描いた作品で、勇ましい市民と、逃げ惑う兵士の姿を如実に描いた作品である。


 ★セルク・オリジン 七作目 『王の最後』 セルク・ナンバー 183


 物語の最後を飾るこの絵画には、革命に成功した市民が、王の首を手に掲げている様子が描かれている。

 王の首を持つ青年の足元には、兵士、市民、貴族の死体の山が出来ており、その上で勝利の喜びに浸る市民の表情が特徴的な、セルク・オリジンの締め括りである。


 王と民の身分の差、壁を自由に表現したこの作品群は、セルクを稀代の画家にのし上げたきっかけとなった作品なのである。





 ――●○●○●○――





「物語通りに事件が発生している……?」


 ウェイルは全てのセルク・オリジンを我が目で確認したことはない。

 だがシルグルは発見されている絵画、その全てを鑑定している。

 だからこそ気が付いたのだ。


「……はい。セルク・オリジン一作目『王の乱心』。王が王宮で民を殺している絵です。これは今回の最初の事件、王宮で発見された四肢切断された遺体の特徴に酷似しています」


 ステイリィの資料にあった最初の事件のことである。


「次の事件。兵が民を殺した事件ですが、これについても同様にセルク・オリジンにて示されています」

「ちょっと待て。あれは犯人が逮捕されているだろ?」

「はい。王宮に仕える兵が逮捕されました。しかしその逮捕された兵なのですが普段はとても温厚な方でして、大変な人格者だったのです。正直に申しまして、彼が独断で行ったとは考えにくい」

「でも目撃証言だってあるんだろ?」

「そうです。ですから王宮は異議申し立てが出来なかったのですが……。目撃者の話だと、彼は事件の時、突然気が狂ったように奇声をあげながら犯行に及んだそうです」

「……突然気が狂って……? ……もしかして――神器が関係してるのか……?」


 ステイリィは言っていた。犯行に及んだ兵は拷問されても何も喋らなかったと。完全記憶喪失になっていたと。

 神器の影響だとすれば考えられないことではない。


「……そうかも知れませんね。しかし、その証拠がない。そしてこれはセルク・オリジンの二作目に状況がそっくりではないですか?」

「……言われてみれば確かにな……」


 兵が民を殺す。

 状況は違えど、結果だけを見れば、そっくりそのままなのだ。


「……そして三つ目の事件」


 シルグルが指を三つ折って続けた。


「井戸に毒を撒かれた事件。これは決定的です」

「セルク・オリジン三作目――『毒』か」


 この絵画に描かれたことが、ほとんどそのまま現実になっているのだ。


「これらをの事件を踏まえて考慮した結果、今回の事件、間違いなくセルク・オリジンを再現したものだと、私は確信しているのです。だからこそこの絵画が本物であって欲しくはなかった」


 確かにな、とウェイルは相槌を打った。

 もし何者かがセルク・オリジン通りに事件を起こしているのであれば、今本物のセルク・オリジンが見つかるのは非常に危険なことだ。次の事件の内容がそこに描かれているのだから。


「……だからこそ自分の鑑定を信じられなかったわけか……」


 シルグルの葛藤。それはウェイルにも重々理解出来た。

 本物であって欲しいという気持ちと、本物であってもらっては困るという気持ち。

 その二つの感情に板挟みになり、途方に暮れていたからこそ、自分は呼ばれたのだ。


「……もしセルクオリジン通りに事が進むなら、この事件、最終的に――」

「――王が殺される……!!」


 セルク・オリジンの最後は王の首が民に取られている。

 つまり、王は暗殺されるということだ。


「お願いです、ウェイルさん! どうか、王の命を守ってはいただけませんか!?」


 シルグルがウェイルに頭を下げた。


「……シルグル。俺は鑑定士であって治安局員じゃない。そういうことは治安局に頼めよ」

「それが出来たらやっています!」


 シルグルが凄まじい剣幕でウェイルを睨み付けた。


「しかし今、治安局は一連の事件を王の仕業ではないかと考えているんです! そんなところにもしセルク・オリジンが関わっていると伝えれば、治安局は真っ先に王を容疑者に仕立て上げるでしょう! 何故ならセルク・オリジンの大半は王が所持しているのですから!」


 シルグルの描く予想はおそらく当たる結果となるだろう。

 セルク・オリジンの存在は、それこそ鑑定士や競売に携わる者、そして一部の上流階級にしか知れ渡っていないし、セルク・オリジン通りに事が進んだとなれば、その詳細を詳しく知っている、つまりは所持しているものが真っ先に疑われる。

 また、ステイリィの話によると、今、王にとって悪い噂が回っているらしい。

 それらを考慮すれば、治安局に通報などという選択肢はあり得ない。


「……そうだな。治安局はまずいな。……判ったよ。引き受ける」

「本当ですか!?」

「ああ」


 別にシルグルには恩義も何もない。引き受ける理由もない。

 だが、肝心要、守護対象の王本人に、ウェイルは恩があった。


「そうですか! では早速王宮に電信を入れましょう! すぐに迎えが来るはずです!」


 シルグルは大急ぎで倉庫から出て行った。


「話はまとまったの?」


 退屈そうに話を聞いていたフレスが尋ねる。


「まあな。喜べ、フレス。お前が行きたがっていた王宮に、これから行くことになった」

「本当!? やったぁ~~!!」


 軽い皮肉で言ったつもりのウェイルだったが、心底喜んでいるフレスを見て、苦笑を浮かべたのだった。



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