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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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蛇にダイヤ ルシャブテvsイレイズ


「おい、アノエ。俺もいるんだ、階段を壊すのなら一言言え」

「知らない。別にルシャブテがどうなろうとどうでもいいから」

「愛想のない女だな」

「私は愛想のあるスメラギじゃないから」

「一々あの女を引き合いに出すな」


 アノエの魔力を込めた一撃は、簡単に階段を粉々に崩壊させた。

 階段が破壊されたので、全員一階に降り立ち、向かい合う格好になる。


「あらら、お久しぶりね、王子様?」

「ええ、お久しぶりです。いつもながらお美しいですね、アムステリアさんは」

「そんな当たり前のことを、それもウェイル以外の人間に言われても嬉しくもなんともないわよ」

「大丈夫です。ただの社交辞令ですから」

「……あら、以前より少しは言うようになったじゃない」


 いつ振りかの再開だろうか。

 にしてもこの二人、いつもいつも出合うのは戦闘時ばかりな気がする。

 階段崩壊直前にギルパーニャを背負ったイレイズは、一階に降り立つと同時に彼女を床へと下ろした。


「立てますか?」

「う、うん……、何とか立てるよ」


 抜けていた腰も元に戻り、よろよろとだがとりあえずは立てる。

 だけど、このままでは皆の足手まといになるのは判っていた。


(なんとか邪魔にならないようにしないと……!! 後はこれを使うタイミングが来れば……!!)


 アムステリアを助けた時に拾ったギルパーニャの奥の手。

 ポケットに突っ込んであるそれは、ギルパーニャにとっては最後の切り札だ。

 一度手の内を見せたら二度と通じない。使用するタイミングはよく図らねば。

 今はとにかく逃げることにのみ集中する方が良さそうだ。

 ありがたいことに、敵二人の意識はギルパーニャ以外に向かっているようだ。


「私、あの女の魔力を根こそぎ奪いたい」


 アノエは剣の切っ先をアムステリアへと向ける。


「あの女は俺の獲物だ。……と言いたいところだが、先に手を付けていたのはお前だもんな。いいぜ、譲ってやる。その代わり、俺はこっちの不細工男をもらう」

「不細工とは酷いですねぇ。こんな美男子を捕まえて」

「は、自惚れが過ぎるな」

「それはお互い様です。それに顔の事を語るならば貴方には言われたくありませんよ?」


 最初に動いたのはルシャブテ。

 羽織っていた黒いマントを、その身を隠すように掲げた。


「アムステリアさん、あのマントは神器です」

「性質は?」

「――左方向にキックを!!」

「――!!」


 イレイズの声に反応し、すぐさま左方向へ蹴りを繰り出す。

 するとそのスルリと伸びる美しい足に、何かを砕く手応えがあった。


「これ、ルシャブテの爪ね。……なるほど、判ったわ」


 床に砕け落ちた物体。

 それはルシャブテの神器の放った爪の破片。


「次は上です!!」


 一歩後方ステップすると、目の前を数十本以上もある長い爪が鞭のようにしなって落ちてきて、床を砕いていた。


「ルシャブテの持つ神器は二つ、マント型の転移系神器『透明世界の黒羽インビジブル・フェザー』と装備武器系神器『蛇龍の爪(スメイル・ネイル)』。どちらも強力な旧神器です!」

「強力? 使い手がルシャブテだもの。爪の方は大したことはなかったけどね。問題はマントの方か」

「また上です!!」

「しつこいわね!! 毎度毎度私達の話の腰を折に来て! 狙ってるのかしら? 同じ手は食らわないわよ!」

「果たして本当に同じ手かな?」


 時空が歪み、先ほど同じように爪が降って来たが、今度はルシャブテの声まで入っている。

 だがそれに気づいたときにはもう遅い。


「先手はいただいた!!」

「ああッ!!」


 降り注ぐ爪を避けるために、一歩下がったアムステリアの背後に転移していたルシャブテが、彼女の胸に爪を突き立てた。

「懐かしいな、アムステリア。以前マリアステルでも同じことをした。その時はお前に心臓がないことに焦って負けたが、今回は違う。身体のどこかにあるんだろ? 心臓の代わりの神器が!!」

「……く、物覚えはいいのね……!! お姉さん、褒めてあげる」

「黙って神器が抜かれるのを感じてろ!!」

「あ、あああああッ!!」


 深く突き刺さったルシャブテの手がアムステリアの体内をかき回していく。


「ルシャブテ!! 私が相手します!!」


 助けに入るためにダイヤの拳をルシャブテに振り下ろしたが、その拳は空を切る。


「転移しましたか……!!」

「はぁ、はぁ……!! で、でも、た、助かったわ……!!」


 転移したことで何とかアムステリアは無事だったようだ。


「ちっ、なかなか見つからない。まあ次見つければいいか」

「アムステリアさん、お体は!?」

「大丈夫。もう体の傷は癒えてるから。しかし厄介ね!! ――ふん!!」

「――!?」


 完全に傷の修復が終わった瞬間、アムステリアはイレイズを抱えて横へ飛ぶ。

 瞬時、今の今までたっていた場所から巨大な爆発が起きた。


「厄介なのはもう一人いたわね……!!」


 爆発による埃の中から、巨大な剣を軽々と持ち上げて、アノエがこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。


「貴様の魔力、貰い受ける!!」


 床にひびが入るほど床を蹴り上げて、アノエが一直線に飛び掛ってきた。


「イレイズ、貴方はルシャブテの神器をどうにかして。私はこいつをどうにかする。互いに目の前の敵に集中しましょう」


 そう言ってアムステリアは掴んでいたイレイズをルシャブテ目掛けてぶん投げた。


「……そうですね、それだけですね……!!」


 敵を同時に相手するのは無理だし、逆にそれは相手側にも言えること。

 ルシャブテが自分を倒すことに必死になってくれるように、こちらも必死に攻撃を繰り出していかねば、一対一という状況は作り出すことは出来ない。


「全力でいきますよ……!!」


 飛ばされながらイレイズは、ダイヤ化した拳を握り締めたのだった。








 ――●○●○●○――







 ――イレイズにとって、ルシャブテはかつての仲間であった。


 イレイズが『不完全』に属することになって以降、ことあるごとに二人はタッグを組まされていた。

 特に仲が良かったわけでも、能力の相性が良かったわけでも決してない。

 ただ単に偶然、偶然一緒になって行動することが多かっただけだ。

 とはいえタッグを組むことが多かった以上、二人の話す機会は多かった。


 ルシャブテは『不完全』内でも、その趣味の悪さから気味悪がられ、同時に恐れられてもいた。

 故にルシャブテの近づく物好きは、イレイズと、そしてスメラギくらいなものであった。

 だからルシャブテとしても普通に話をすることが出来るイレイズという存在は貴重で、仲が良いとまでは行かないにしても、本音を吐くことの出来る数少ない人間であった。

 二人はタッグを組むことがさらに増えた。

 正直言えばイレイズはいつもいつもルシャブテと組む事を嫌がってはいた。

 彼の近くにいれば、血を見る回数が必ず増える。

 パートナーであるサラーも、ルシャブテのことを嫌っていたし、出来ることならばタッグを組みたくはなかった。

 しかしながら、二人がタッグを組めば、作戦はいつも成功してしまっていたので、その成功は更なる上からの期待とともに、次のタッグも内定されてしまっていたのである。




 ――――――――


 ――――



 そういうわけでイレイズはいつも任務の度にルシャブテの力を間近で見てきていた。


 彼の持つ神器は二つ。

 装備系武器型神器『蛇龍の爪(スメイル・ネイル)』。

 転移系マント型神器『透明世界の黒羽インビジブル・フェザー』。

 前者の『蛇龍の爪』自体はどうにかなる。

 それが無限に吐き出し伸ばす爪は、鋭利なナイフ以上の切れ味を持つものの、その強度は高いとは言えない。

 アムステリアのキックでも、イレイズのダイヤでも十分に砕ける程度の強度だ。


 厄介なのは、後者の方。

 この神器について、イレイズはあまり詳しくはない。

 ただ知っているのは自分自身を移動させることが出来る事、そして何かモノを転移させることが出来ること。

 転移する際は少しの間自由が歪んで見え、また転移先にも同様な現象が起こる。

 故に注意深く観察していれば、どのタイミングでどこに移動するかは明白だ。

 判らないのはその範囲と、そして転移の条件。

 どこまで転移可能範囲なのかは判らないし、転移は膨大な魔力を使う以上、その使用には何らかの制限があるはず。

 それらを突き止めることが、ルシャブテを倒す近道となる。


「とりあえず転移させましょうか!!」


 アムステリアの投げた勢いのまま、イレイズはダイヤで出来た隕石にでもなった気分でルシャブテへと突っ込んでみる。

 当然、ルシャブテがこのままやられるわけも無く、彼の姿の背後に歪みが生まれ、そして姿を消した。


(どこへ……?)


「え、えっと、イレイズさんだっけ、上、上!!」

 ギルパーニャが天井に指差し叫び、イレイズもそれを確認する。


 空間の歪みが消えたと同時にルシャブテの姿が現れ、彼はそのまま『蛇龍の爪』を発動させた。


「なんの!!」


 低空飛行移動中のイレイズが次にとった行動は、己の拳を床に叩きつけることだった。

 ズゴンという音とともに床が砕け、火花を上げて床を砕きながら減速していく。


「今です!!」


 今にも壁に衝突しそうという、その瞬間、イレイズはダイヤとなった指に力を込め、床を砕きながら握り締めた。

 減速しているとはいえそれなりのスピードが出た身体に、突如急ブレーキが掛かったのだから、一瞬身体がふわりと浮かぶ。

 そこでイレイズは身体を回転させて、壁の方へ足を向けた。

 壁にぶつかった瞬間、宙に浮かぶルシャブテの方へ身体を調整すると、壁キックの要領で再びルシャブテへと突っ込んでいく。


「その程度の爪であれば私のダイヤは砕けませんよ!!」


 飛び掛ってくる爪を、イレイズのダイヤの拳は全て叩き砕いていく。

 何本か叩き落せず身体を貫いたが、幸いそこは肩や腿を少しだけであったため、大事には至っていない。


「今度はこっちの番です!!」


 壁キックによるスピードは思いの他速くて、ルシャブテの爪を発射した二秒後には、もう二人は互いの拳の届く距離まで接近していた。


「何……!? ――――ぐぼぉおおッ!!」


 驚くルシャブテの顔に、イレイズ渾身の一発がクリーンヒット。


「このまま落ちてしまいなさい!!」


 ダイヤの拳を顔にめり込ませたまま、イレイズはルシャブテを殴り飛ばして床に叩きつけた。



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