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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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最終決戦の舞台上へ

 十分フレスの感触を味わい満足したのか、イルアリルマは服装を整えて、改めて皆と向き合った。


「あれ? そう言えばギルさんは来ていないのですか?」

「ああ、ギルはまだ来ていない」

「おかしいですね……。ルシカとの戦いを避けてもらうために先に逃げてもらったんですけど」


 イルアリルマが言うに、二人は行動を共にしていたのだが、『異端児』のルシカと遭遇したため、危険回避の為にギルパーニャを先に逃がしたという。

 だからイルアリルマはてっきりギルパーニャは先にここへ来ているものだと思っていたらしい。


「ギルさん、どこへ行ったのでしょう……?」

「……師匠、もしかしてギルは……!」

「……まさかな……」


 イルアリルマより先に逃げたはずのギルが、ここに来ていないと言うことは、つまり。


「どこかで敵に遭遇したということか……?」

「そうだとまずいよね。君の妹弟子さんは異端児に勝てるほど強くはないよね」


 テメレイアの指摘通り、ギルパーニャはギャンブルの才能はあれど戦闘能力は高くない。

 イルアリルマの言う通り、彼女より先にここへ辿り着いていないとおかしいのだ。

 最悪のケースが皆の脳裏を過ぎる。


「ウェイル! ボク、ギルを探しに行くよ!!」

「待て、闇雲に探し回る気か!? 敵がどこに潜んでいるかも判らんのだぞ!?」

「でも、ギルが、ギルが!!」


 ギルパーニャはフレスの親友だ。

 もしものことを考えるだけで、フレスの心は押しつぶされそうになる。

 もう我慢できないと言わんばかりにフレスが翼を広げた、その時であった。


「み~ん~な~、お~待~た~せ~…………お、重い…………」


 遠くから聞こえてくる、のんびりとした叫び声に、一同声のする方を見た。

 なにやらサイドストリートの方から、のっそのっそと動くものがこちらへ近づいてきている。


「ちょ、ちょっとみんな~、手伝ってよー!! 重いー!!」

「……えっと、ひょっとしてあれ、ギルなんじゃない!?」


 そのシルエットは、よくよく見てみればギルパーニャ本人のよう。

 聞き慣れた声からして間違いなさそうだ。


「ギルに間違いないな……。しかし何か背負っている……? 人?」


 のっそりとやってくる彼女は背中に、誰であろうか、人を背負っている。

 この都市にこっそりと住まう者が、先程のゾンビ達によって負傷したのだろうか。


「フレス、とりあえず手伝いに行くぞ」

「うん!」


 皆もウェイル達に続き、ギルパーニャへと駆け寄る。

 そして気づいた、彼女の背負った者の正体。


「あ、アムステリア!? しかも裸!?」


 ギルパーニャが背負っていたのは、何故か一糸まとわぬ姿のアムステリアであった。


「な、何があったんだ!?」


 戦闘能力で言えば最強クラスのアムステリアがこのような状況になっている。

 確か彼女はスメラギという女と戦っていたはず。果たして無事なのだろうか。


「アムステリア! 起きろ!」


 アムステリアの身体を揺さぶろうとウェイルが近づいた時、テメレイアがウェイルを遮りように手を上げた。


「ウェイル、あまりレディーの身体をジロジロ見てはいけないよ? いくらアムステリアが君に好意を抱いているとはいえ、無断で身体を触られることを手放しに喜ぶと思うかい? 大丈夫、呼吸はしているようだから生きてはいるさ。ここは僕達に任せてもらいたい」


「あ、ああ、すまなかった」


 この場にいる男――ウェイルとシュラディンはバツの悪い顔でアムステリアから視線を逸らした。


「妹弟子さん? 彼女を一体どこで見つけたの?」

「えっと、私が見つけた時はすでに裸だったんだ。裸で倒れているところを倒れていたところを発見したってわけだよ。頬っぺたつねっても目を覚まさないから、背負って連れてきたの」

「確か相手は強酸使いだったよね、なるほど。ミル、連続で悪いけど、治癒をお願いできないだろうか?」

「お安い御用じゃ!」


 すでに用意していたのか、ミルの両手には緑色の目に優しそうな色の光が集まっていた。

 光は小さな粉となって、アムステリアの身体へと降り注いでいく。


「さて、僕はその辺の廃墟から何か着られるものを探してくるとするよ」

「私も行きます!」

「じゃああっちの家から行こうか」


 テメレイアとイルアリルマは急いで廃墟と化した住宅へと衣服を詮索しに行った。


「しかしアムステリアが意識を失うほどの戦いだったのか……」


 このメンバー内でも、龍達を除けばアムステリアの戦闘能力は断トツだ。

 そんな彼女が気を失うほどの戦いをしている。

 それは異端児一人ひとりがそれほどの実力を持っているということだ。

 ウェイルが戦ったダンケルクも、もしあの場にウェイル一人しかいなければ、殺されていたのはこちらだった。

 敵からしてもこのフェルタリアで全ての決着をつけるつもりでいるはず。

 もう力を出し惜しみする必要はない。全力で来るはずだ。

 見上げるはフェルタリア王宮。

 あそこにはメルフィナと、そして最後の龍ティアが待ち構えている。

 果たしてこの場にいる全員が無事で帰ることが出来るのだろうか。

 いや、もし自分達が失敗すれば、大陸全土が無事では済まない。


「…………絶対に、奴らは止める……!!」

「うん……!!」


 改めて二人はそう誓ったのだった。








 ――●○●○●○――








 数分後、テメレイアとイルアリルマが手に大量の衣服を持って戻ってきた。

 その頃にはミルの治療も終わり、アムステリアはケロリとした顔で意識を取り戻していた。


「なんか複雑よね。二十年も前の衣服が、これほど綺麗な状態で残っているだなんて。まるで時間が止まっていたみたい」


 気に入ったデザインのものがあったのか、アムステリアは持ってきてもらった衣服の中から、スリットの入ったドレスを選んで着た。


「ふぅ、落ち着いた。緑色の龍の娘、助かったわ。ありがとう」

「うむ。……しかしお主の身体は一体どうなっておるのじゃ? 魔力を送っても送っても、容量が一杯になる気がせなんだ。正直全然効いていないと思って焦ったぞ」

「私の身体は普通じゃないから。何せ心臓がないんだもの。代わりに神器が埋め込まれてあるのよ」


 アムステリアは心臓の代わりに神器『無限龍心』(ドラゴン・ハート)によって生かされている。


「『無限龍心』のおかげで私の肉体は老けることもなく傷つくこともない。どんな傷もすぐに治癒されてしまうの。まるで龍になったみたいでしょ?」


 自慢げにこう言っているが、ある意味それは悲しいことであるし、そしてそのことをアムステリアが密かに嘆いていることをウェイルは知っている。


「……スメラギはどうなった?」


「殺した」


 アムステリアはあっけらかんと答える。


「何故服がなかったんだい? まあスメラギって子の持つ神器から考えれば想像はつくけどさ」

「想像通りよ。全部溶かされちゃったの。私の身体ごと溶かそうとしたみたいだけど、生憎私は身体が如何にドロドロに溶けようともすぐに再生してしまうからね。攻撃を全身で受けつつ強引に蹴り殺してやったわ。おかげでかなり身体に負担が掛かったらしく、ちょっと寝ちゃったわ。ギルパーニャが連れてきてくれたんでしょ? ありがとうね」

「いやぁ、どういたしまして~」


 アムステリアから礼を言われるのは初めてだったので、つい照れてしまう。

 そんなギルパーニャの元へやってきたのがイルアリルマ。


「私、ギルさんは先に行ったものとばかり思っていました」

「リルさんが戦っているのに、私だけ逃げるのもなんだかなーって思ってさ」

「あれは私の我が儘を聞いてもらっただけですから」

「必要は無いかも知れないけど、アムステリアさんを手伝おうと思って引き返したんだ。そしたら裸で倒れているんだもん、びっくりしちゃったよ」


 周囲にあった酸の壁は消滅していたので、メインストリートのド真ん中で裸の女性が倒れていたということであり、発見した時はさぞかし驚いた。


「それにいいものも手に入ったんだ」


 ニヒヒと笑うギルパーニャ。

 この笑いをするときは、何かをときめく品を拾ってきた時だ。


「ギル、何を拾ったんだ?」

「うーんとね、今は内緒にしておく。切り札は隠しておかなくちゃね」


 どうやら教えてはくれる気はないようだ。

 アムステリアも復活し、全員がこの場に揃った。


「とりあえず皆揃った――そういえばサラーはどうした?」

「サラーは先に王宮へ入ったよ。イレイズさんを助けるために」

「……無事ならいいが……」


 ウェイルはシュラディンの方を見ると、シュラディンも神妙の面持ちで頷いてきた。

 何せここから先は敵の本拠地。

 どんな罠を仕掛け、どんな手を打ってくるか判らない。

 これ以上先、誰の命の保証も出来ない。

 もし仮に誰かが倒れた時が来ても、それを助ける余裕はないだろう。

 皆の前に出たシュラディンは一度咳払いをして、そして語気を荒げ告げた。


「ここから先はワシが案内する。これだけは言っておく。ワシは老いぼれだ。出来るのは案内のみ。だから皆は全力でワシを守り、目的地であるフェルタクスのある場所へと向かってくれ。誰が倒れても、もう助けることは出来ん。敵が目の前に現れたら、自分の力だけで対処せねばならない。命の保証は一切ない。それでも行くと、そう思う者のみ、一歩前に出ろ!」


 シュラディンの喝に一同、目が鋭くなる。

 誰もが沈黙する中、最初に一歩踏み出したのはフレスだった。


「行くに決まってる。ボクは絶対に、奴らを許すことは出来ないんだ! ライラの為にも、ボクは戦う!!」


 続いて出たのはウェイル。


「故郷を救う。俺は影なる存在だったが、(メルフィナ)以上に故郷への気持ちはある。フェルタリア王の意思、セルクの意思、それらはこの俺が引き継ぐ」

「ウェイルが行くなら僕だって同じ気持ちさ。死ぬ時もウェイルと同じが良いとずっと願っていたのさ。もっとも死ぬつもりはないけどね」

「あら、テメレイア、中々言うじゃない? 腹は立つけど気に入ったわ。私の身体は死ぬことが出来ない。ならそれをウェイルの為に使ってあげたい。あの時私の心を救ってくれたウェイルの為にね」


 テメレイアとアムステリアは互いに拳をコツンとぶつけながら、二人で一歩前に出た。


「レイア行くとこ我ありじゃ!」

「ルシカをそそのかした贋作士、イドゥを私は何が何でも許しません。命をもって償ってもらいます……!!」

「わ、私だって、師匠やウェイル兄の力になりたい! そりゃ皆みたいに強くないし、めちゃくちゃ怖いけどさ……。……それでも残されるのだけは絶対に嫌だ!」


 ミル、イルアリルマが前に出たのを見て、ギルパーニャも決心して前に出る。


「ギル……」


 正直な話ウェイルもシュラディンも、これ以上ギルパーニャには付いて来て欲しくないと思っている。

 だからこそ、このようなある意味茶番を入れて、ギルパーニャにはここに残ってもらおうと考えていた。


 しかし、もしものことがあった時、ギルパーニャは独りぼっちになってしまう。

 それだけは絶対に嫌だというギルパーニャの気持ちも痛いほど判るので、二人はもう何も言わなかった。


「よし、皆の覚悟、伝わった。案内しよう。そして最初に言っておく。ワシのことは案内が終わり次第切り捨ててくれ。ワシは責任を持って最後まで役割を全うする。その後のことは、ワシが自分で責任を持つ。もしワシが襲われていても、放って自分の役割を遂行するのだ。いいな?」


 この言葉に、皆ゆっくりと頷いた。

 シュラディンが言ったことは、全員にも当てはまる事。

 生かすは個人ではなく皆。

 いざという時、皆を助けるために自分を捨てる覚悟。

 今この瞬間、その覚悟を持つことを心に誓った。


「行こう」


 シュラディンを先頭に王宮へと向かう。

 巨大な門の横にある用水路の小道から、王宮へと入っていく。


 ――フェルタリア王宮。


 その最終決戦の舞台上へ、ウェイル達は上がっていった。








 ――――――――


 ――――





「どう、ニーちゃん、フェルタリアの空は?」

「久しぶり、なの……。でも、あんまり良い思い出じゃ、ないけど……」


 フェルタリアの上空。

 そこにはあの二十年前の時の様に、紫色の闇の翼を携えた龍の姿があったという。


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