決戦! ウェイルvsダンケルク
サラーが王宮へと飛び立って、残された二人はこれからどうするか話し合っていた。
「わらわはレイアが心配なのじゃ……。急いで助けにいかないと……!」
「そう? 実はボク、あんまりウェイル達を心配していないんだ」
「なぬ!? お主、ウェイルの事が大切ではないのか!?」
「大切だよ。この世界の誰よりも、とびっきりにね。だけど心配はしてないよ。だって信頼してるもん。ウェイルなら絶対に大丈夫」
「……信頼……」
「うん。だからボクは今から闇雲にウェイルを探し回るより、今ボク達にしか出来ることを全力でした方がいいと思うんだ」
「わらわ達にしか出来ないこと?」
「そう。この都市を掃除してしまおうと思ってるんだ――」
そう言ってフレスは手をかざしたかと思うと、ツララを二本出現させて打ち放った。
「ギャガガ!?」
面白い鳴き声のする方を見ると、そこには角と羽の生えた黒い魔獣――デーモンの姿をしたゾンビがツララによって腹を貫かれていた。
「やつら、デーモンまでゾンビに……!!」
「というより『コキュートス・ホールゲート』は死者の身体に、無理やり魂をねじ込んで操る神器なんだと思う。神器内に死体をいくつも保存することが出来るんだよ」
クルパーカーで戦ったドラゴン・ゾンビも、まさにあの神器の穴から現れていた。
「神器内の死体が切れるまで、敵はゾンビを生み出し続けると思う。だからこそ、ボクらは皆をゾンビから守らないといけない。本当は神器の術者を倒したいけどね。多分フェルタリア王宮にいるだろうから」
「そうじゃな。わらわ達はこやつらの掃除をせねばならんな。手伝うぞ、フレス」
「うん!」
メインストリートを見ると、ゆらゆらと蠢くように動く小さな黒い点。
どこまでも見通せる龍の目によって、その点がゾンビであることを確認できた。
どうやらゾンビ達は再び数を増やし始めたようだ。
それらを一掃すべく、フレスとミルは上空へと舞い上がった。
「おお、上からならよく見えるぞ。メインストリートの奥の方は、アリの巣の周囲みたいじゃ」
「集合場所はメインストリートからも繋がっている王宮広間だからね。皆が集合する前に、掃除しておかなくちゃ!! じゃあ、始めるよ!」
フレスとミルは魔力を溜めて、そして。
「「うらあああああああ!!」」
氷のミサイルと化したツララの雨と、鉄をも切り裂く魔力を纏う葉の嵐が、この都市にはびこる残ったゾンビ達を一掃したのだった。
――●○●○●○――
「ドラゴン・ゾンビまで現れるとはね……!!」
空を仰げば、天を覆い隠すほどの巨体を持つドラゴン・ゾンビがうねり、それに対するは三体の龍の少女達。
「ミル達なら問題ない相手だろうけど……」
「問題はドラゴン・ゾンビではなく、何故あれが出現したか、だな。といっても原因は判りきっているが」
敵の操る神器『無限地獄の風穴』の力であることは明白。
だがあれほどのゾンビの数と、そしてドラゴン・ゾンビを操作するほどの魔力を持つ術者となると、かなりの手練れであるに違いはない。
「メルフィナかイドゥか……もしかしたらダンケルクかも……!!」
そうウェイルが推測を立てたときである。
「――いや、それは違うぞ、ウェイル」
「ダンケルク!?」
物音一つ、気配すら立てずに、突然目の前に現れたのは、ウェイルの先輩、ダンケルクであった。
ただ、このダンケルクの雰囲気はおそらく――
「また幻影か」
「ご明察。といっても、実は俺自身はこの周辺にいるぞ」
「判っているさ。何の神器かは知らんが、今までの戦いから察するに有効範囲は比較的狭いのだろう」
「探してみるか?」
「いや、別に良いさ。俺からはお前に用はないからな」
「つれないねぇ」
「そっちに用があるから幻影を使って話しかけてきたんだろうに。俺達は先を急いでいるからな。用がないなら無視したいところだ」
「いやぁ、流石俺の後輩という所か、痛いところを突いてくるよ。あー、判った判った。俺の方がお前らに用があるんだよ。特にお前のお連れさんにな。ちょっと待ってくれよ」
「僕に……? ……なるほど。ウェイル。無視して先に行くよ」
「二人して冷たいねぇ。……ふう、なら無理にでも付き合ってもらおうか!」
ダンケルクの幻影が消え去った同時に、ウェイル達の周囲には熱が立ちこめた。
熱は炎の壁へと変わり、ウェイル達の周囲を取り囲む。
「ウェイル! 火がまわっている!!」
「どうやらこの火は本物のようだな! 逃がす気はないということか……!!」
「ま、そういうことだ」
逆巻く炎が避けるように開き、その中から現れたのはダンケルク。
軽く手をあげ、再開を喜ぶかのようにこちらへとやってくる。
「言っておくが俺は幻影じゃないぞ?」
「どうだかな」
周囲を取り囲む炎の壁は、フェルタリアの建物を勢いよく飲み込み、より高く燃えていく。
「レイア、師匠、下がっていろ。こいつの相手は俺がする!」
「でもウェイル!」
「いいから下がっていろ。おそらく敵の狙いはお前だ、レイア!!」
三種の神器『アテナ』を操る術者を、敵が逃すはずはない。
敵は明確にテメレイアが術者だと知って、ダンケルクを送り込んできたはず。
「ご明察。イドゥ達からの命令でな。お前のお連れさんを連れて行かなければならないんだ。でもウェイル、お前さんにも用はあるんだぜ?」
「そうだろうな。俺の存在は邪魔だろうから」
「やっぱり判っているよな。だったら、俺達はもうぶつかるしかないな」
「最初からそのつもりの癖によく言う」
「ウェイル! 僕も戦おう、援護する!」
「ダメだ。万が一にでもお前に傷は負わせられん」
「僕なら大丈夫さ! 自分の身は自分で守れる!」
「くどいぞ、レイア! ダンケルクの相手はこの俺だ!」
「ウェイル……?」
「レイア譲ちゃん、下がろう。ウェイルは何も勝算なく一人で戦う奴じゃない」
「それは判っているさ! でも、だとしても一人より二人の方が良い!」
「……ウェイルはおそらく一人で方を付ける気なんだ。ダンケルクはウェイルにとって大切な先輩だったんだからな……」
プロ鑑定士になり初めて出来た兄貴分。
いつも頼りにしていた先輩と今、ウェイルは命を懸けて対峙している。
「それに今のウェイルは、なんだか少し楽しげだ……!!」
「……クッ……!! ウェイル……!!」
そう、シュラディンの指摘のとおりだった。
ウェイルは不謹慎にも、ダンケルクの姿が見えたときから、少し心が騒いでいたのだ。
どこか懐かしいと、そんな気持ちさえ抱くほどに。
(もしかしてウェイル、勝算とか一切考えてないのかも知れない……!! ただ、ダンケルクと戦いたい。そんな純粋な願いだけで……? だとしたら僕はいざとなったら……!!)
「狙いはテメレイアなんだろ? 俺を無視して奪いにはいかないのか?」
「そうしてもいいんだけどな。久々に俺の心が高鳴っているのよ。ウェイル、お前と本気でぶつかり合いたいと」
「奇遇だな。俺も同じ気持ちだ。やっぱり俺はダンケルクの後輩なんだなと実感させられるよ」
「優秀な後輩に育ってくれて嬉しいぜ、俺はよ」
ダンケルクが背中に手を回す。
今回は本気だ。本気でお前を殺しにいく。感謝するぜ、一対一に持ち込んでくれてな! 互いに楽しむとしようぜ」
スッと背負っていた双剣――『相思相愛剣』を抜いて、一気に距離をつめてくる。
対するウェイルも、氷の剣を抜き放ち、防御姿勢をとった。
「一対一で、決着をつけようか、ウェイル!!」
「望むところだ、ダンケルク!!」
――キンッと、剣と剣がぶつかり合った、冷たい金属音が響き渡る。
ウェイルとダンケルク、後輩と先輩の決戦が、今始まった。