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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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氷の牢獄

 ――滅亡都市フェルタリア 上空――


「ギイガッギギッッギギギギギガアアアアアアアアアアアアア!!」

「う、うるさい奴じゃな……!!」


 耳を劈くドラゴン・ゾンビの大咆吼。

 金切り音の様な声を上げて、ドラゴン・ゾンビはフェルタリアの空をうねる。


「臭いのじゃ……! はよどうにかせんと鼻が壊れてしまうぞ!」


 ドラゴン・ゾンビの発する死の腐臭に、ミルは涙目になりながら鼻を摘まんでいた。


「あれをどうにかしない限り、王宮へは辿り着けないってことだよね」

「そうだ! しかもそれはイレイズも助けられないってことだ!!」


 灼眼と真紅の長髪を燃え盛らせて、三対の翼を出現させたサラーは、天高く舞い上がり、上空に陽炎を作り出してゆく。

 シュバンという炎の弾ける音が響き渡ったかと思うと、フェルタリアの空は、まるで夕焼けにでもなったかのように赤く染まっていった。

 見ればサラーの頭の上には、小さな太陽のような炎の塊が出来ていた。

 ドラゴン・ゾンビもその異変に気付いたのか、力の放出源であるサラーへと標的を定め、そのグズグズと朽ちた身体からは想像も出来ないほどの速さで向かっていった。


「サラー! 危ないよ!! 避けた方がいいんじゃないの!?」

「ふん、馬鹿言うな。向こうから突っ込んできてくれたんだ。逆に感謝したいくらいだ!!」


 空を赤く染めあげた小さな太陽のような灼熱の塊を、サラーは両手で投げるようにして放出する。

 スピードこそないものの、その炎の塊はゆっくりと動いている間ずっと、通過した軌道上にくっきりと見える陽炎を残していっている。

 それほどの灼熱の塊だということは、その威力だって桁外れだ。


「無駄に早いのが仇となったな! 避けれないだろう!!」

「ギガアッガアアガガアアアアアアアアアアア!!」


 サラーの狙い通り、炎の塊はドラゴン・ゾンビの頭部へ直撃した。


「よし!!」

「やったぁ! 流石サラーだね!」

「…………グ、ギギギ……」


 頭部が消飛び、ブスブスと音を立てるドラゴン・ゾンビ。

 後は浮力を失い、重力によって地面に叩きつけられるだけだ。


「……いや、フレス、サラー、まだの様じゃ!」


 サラーの一撃が直撃したはずのドラゴン・ゾンビだが、未だその体は宙に浮いたままだ。


「き、効いていないのか!?」

「そんな!? だって頭なくなっちゃってるんだよ!?」

「よく見るんじゃ、フレス! こやつ、再生しておるぞ……!!」


 消飛んだ頭部分をよく見ると、そこには黒い闇が佇んでいる。

 その闇は徐々にドラゴン・ゾンビの身体を、元の形へと修復していた。


「龍の生命力……! 敵に回すとこれほど厄介なんて……!!」


 腐っても龍。

 死んでいるはずなのに生命力があるとは矛盾にもほどがあるが、そんな矛盾さえも超越している神獣、それが龍なのである。


「また焼き飛ばせばいい! それだけだ!!」


 再びサラーは炎の塊を作り出すと、ドラゴン・ゾンビ目がけて放出した。

 再生中のドラゴン・ゾンビは浮遊するだけで精一杯なのか一切移動することはなく、またも攻撃は直撃。

 今度は右半身が吹き飛んでいた――のだが。


「やはり再生しておる!!」


 あれほどの攻撃を受けてなお、ドラゴン・ゾンビは宙から落ちない。

 全身を闇に包まれて、またもじっくりと身体を再生させていた。


「これは埒があきそうにないぞ……。どうにかしてあの再生を止めなければ……」

「サラーの炎でも再生を許すんだ。生半可な力では無理だよ!」

「だったら私が再生不可能になるまで炎を撃ち放ち続ければいいだけだ!!」

「ダメだよ、サラー!」


 三度炎を紡ぎだそうとしたサラーを、フレスが抱きついて止める。


「邪魔だフレス!」

「ちょっと落ち着いてよ、サラー!!」

「落ち着いてなんていられるか! こうしている間にも奴は身体を再生させているし、イレイズは命の危険が迫っているんだ! こんなゾンビ如きで時間を無駄にして堪るものか!」

「サラー、魔力はもっと温存しないとダメだよ! 今無理して魔力を消費すぎたら、イレイズさんを助けるために使えないでしょ!? もっと重要な場面まで魔力は抑えた方がいい!!」

「魔力など無限に湧くだろう!」

「湧かないよ! 今のボク達は人間の姿なんだよ!? 現状、龍の姿に戻ることも出来ないんだ! 魔力は有限なんだ!!」


 そう、例えフレス達が膨大な魔力を持つ龍とはいえ、その量には当然限りがある。

 龍本来の姿であれば、その上限は無限と言っても差し支えはないが、人間の娘の姿では魔力を抑えている分、上限もそれなりのものでしかない。

 今サラーは比較的レベルの高い大技を二発も連続して放っている。

 今の技をさらに連発すればドラゴン・ゾンビを消し去ることはおそらく可能だろうが、そうすればサラーに残された力はかなり少なくなる。

 『異端児』だって、最初からドラゴン・ゾンビ程度の魔獣で、龍三体を倒せるなんて計算していないはずだ。

 ドラゴン・ゾンビを放ってきた目的は明白、龍を少しでも疲弊させること。


「敵の術中に嵌っちゃったらダメだよ! ボクらは今、一番効率のいい方法で危機を突破しないといけないんだから! 大丈夫、ボクが作戦を考えてみせる!!」

「フレス、お前……!!」


 ジッとドラゴン・ゾンビを睨みながら、頭でどうすれば効率が良いか計算するフレスの横顔を見て、サラーは少しばかり衝撃を受け、驚いていた。

 それはどうやらミルも同じ。

 サラーとミルは二人して目を丸くして顔を見合わせた。


(あのフレスが、逞しすぎるのじゃ……!?)

(甘えん坊だったフレスが、変わったな……!!)


 龍の姿ではなく少女の姿のフレスは、五龍の中で最も優しい心の持ち主であったが、それ故に弱虫で泣き虫な部分もあり、二人は随分と目を掛けていた時期がある。

 旧時代からは想像もつかぬ、頼もしいフレスの姿に、二人は彼女をここまで育てた人間の存在を改めて強く意識した。


(そう言えばフレスはプロの鑑定士になったんじゃったな……)

(ウェイル、やはり奴は底知れぬお人好しで――優れた師匠なんだな……!!)


「作戦、出来たよ!! ミル、ちょっと手伝って! サラーは休んで魔力を回復させて!」

「……判った。フレスの言う通り休んでおく」


 あのプライド高いサラーが、素直にフレスの言うことを聞いている。

 この時代になって、ようやく龍同士が対等になった。

 そうミルは感じていた。


「無論いくらでも手を貸してやる! お任せなのじゃ。だがフレス、その作戦とは一体なんなのじゃ?」

「あのね、ドラゴン・ゾンビを消し去ることはしなくていいんだ! だって、あれは敵の神器から出てきた代物。だから大元の神器を破壊すれば勝手に消えてくれる!」

「……! 確かにそうだな」


 そう、奴は生きている神獣ではない。

 敵の持つ神器の力で、無理やり生かされているだけだ。

 元凶を破壊すれば、ドラゴン・ゾンビはこの世に存在を許されないはず。


「でもそれじゃ神器を壊すまで、あいつは野放しにするのか?」

「うんや、それもダメだよ。下の皆に被害が出るかも知れないから」

「ならどうする!?」

「だからね、あいつをしばらく封印しておくんだ!」

「封印、じゃと!?」

「うん。ボクが奴を氷漬けにする。その後ミルは千切れにくい強い蔦を出して、あいつの身体をがんじがらめにしちゃうんだ!! その上でボクがもう一度氷漬けにする! これならしばらくの間は動けないはずだから!」

「……倒すのではなく、動きを止める、か」


 なまじ破壊ばかり考えていた自分には出来ぬ発想に、サラーはニヤリとフレスに笑みを送った。


「フレス、流石プロ鑑定士だ。いい作戦だと思う!」

「エヘヘ、サラーに褒められると照れちゃうよ……!」

「よし、行くぞい、フレス! 氷漬けにするのじゃ!!」

「うん!」


 再生中で身動きの取れないゾンビへと近づいたフレスとミル。

 ほぼ同時に魔力を溜め始め、そして両手に青い光が溜まりきったフレスが、まず先手を打って出た。


「凍っちゃえ!!」


 溜めていた光を少しだけ放出する。

 蒼い光は凍てつく吹雪となりて、ゾンビの身体の自由を奪っていった。

 ゾンビの身体全体に白い霜が蔓延り、動きが完全に停止した瞬間を見て、次はミルが動いた。


「不浄なる存在よ! この生命の溢れる自然の鎖にて、大地の繋ぎ止められるがよい!!」


 彼女の両手から発せられた緑の光は、その両手から巨大な樹木の蔦が召喚されていく。

 巨大な蔦はドラゴン・ゾンビの身体全体を這い、身体全体を樹木が締め付けるように包んでいく。


「奴の身体全体に張り巡らせたのじゃ! フレス、やれ!」

「まっかせて!」


 先程から溜めていた蒼い光を、今度は全て放出させた。


「しばらくここで封印されてなよ!!」


 ギュウギュウに締め上げた蔦の上に、白い霜が走りツララが立っていく。

 鋭いツララは蔦と蔦との隙間から、ドラゴン・ゾンビの身体に突き刺さった。

 まるで楔の様にツララは全身を貫いて、その上からさらに全体をカチカチに凍らせた。

 宙に浮かぶ氷の牢獄は、ドラゴン・ゾンビの動きを完全に封じたのだった。


「やったぁ! ミル、ありがと!」

「なんのこれしき! 楽勝じゃ!」

「フレス、この氷はどれほど奴を拘束していられる?」

「……もって今日一日かな。いくらミルの蔦が頑強でも、腐っても敵は龍。身体が再生し、全力を出せばあれくらいの拘束は解けると思う」

「そうか。なら関係ないか」

「じゃな。今日中に全てを終わらせばよいのじゃからな!」

「うん!」


 宙に浮かぶ三人が見据えるのは、遠くに見えるフェルタリア王宮。


「フレス、ミル。私は一足先に王宮へ行き、イレイズを助ける」

「一人で!? 危ないよ!」

「心配ない。無駄な戦闘は避けて、イレイズと合流する事だけを考える。勿論その後は皆と合流するさ。ティアは私達が止めなければならないからな」

「ティア……!! ……そうだね」


 最後の龍の少女、ティア。

 フェルタリア王宮には、間違いなく彼女もいる。

 すでに二度も戦闘をしたフレスだが、ことごとく敗北している。


(でも、今度こそ――)


 サラーやミル、それにたくさんの仲間がいるし、何よりも。


(……ボク、絶対に守るから……!! 今度こそ大切な人を、ティアから守って見せる……!!)


 フェルタリアで失った大切な親友に誓って、今度こそ。


「じゃあ、また後で」

「うん。気を付けてね!」

「そっちもな」


 翼を大きくはためかせて、サラーは一気に飛翔した。


(待ってろ、イレイズ! 絶対に助けてやる……!!)


 二人の見送りを受けながら、サラーは軽く手を上げて、王宮へと急いだのだった。


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