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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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魅力的な親友

 ギルパーニャが去り、静寂かつ張りつめた空気の支配下で、因縁の二人が向かい合う。


「あれ? リル、いいの? 二対一じゃなくてさ。眼が見えないんだもん。ハンデくらいあげたのに」

「結構です。逆にルシカこそいいんですか? ギルさんを見逃しても」

「結構で~す! 見た所あの子、リル達の中で一番弱そうだからさ。放っておいても何も障害にならないだろうから」

「あまり私のお友達を舐めない方がいいですよ?」


 ぐっとレイピアを握る力が強まる。

 張りつめていた空気が、ついに弾ける時が来た。


「こっちから行くよ、リル!!」


 先に動き始めたのはルシカの方。

 軽々とレイピアを掲げたかと思うと、目にも止まらぬ速さでイルアリルマを串刺しにせんと、連続して突きを放ってくる。


「さぁ、まずは準備運動! 目の見えない落ちこぼれエルフについてこれるかな!?」

「問題ないですよ」


 ヒュンヒュンという音が空を切り、時折剣が重なって火花が飛ぶ。


「へぇ、音で全部見切っているの?」

「視力が無くなった後、耳がとても良くなりましてね。これくらいわけないです」


 空気を切る音と、ぶつかる金属音。

 それにルシカの足音に、服の衣擦れの音。

 それだけ音を感じることが出来れば、イルアリルマにとっては見えているも同然だ。


「反撃です!」

「……クッ!?」


 早すぎる攻防の中、一瞬二人の剣が思いっきりぶつかる瞬間があった。

 その瞬間に、イルアリルマは剣からの反動を身体を翻すことに用いることで、身体を高速回転させてレイピアをルシカの右肩に斬りつけた。


「痛……ッ!!」


 鮮血が上がり、痛みに怯んだのか、ルシカの音が遠のいていく。


「……落ちこぼれの癖に、狡猾なことをするのね……!!」

「流石私達は親友ですね。そんなところも似ています」

「言ってくれるわね、この三流がぁああああああああああ!!」


 先に一本とられたことにプライドを傷つけられたのか、ルシカは顔を歪ませて怒号を上げた。


「イドゥさん、待っていてくださいね! 今すぐにこの腐れハーフエルフの首を持ち帰りますから!!」

「首なんか持って帰って喜ぶ人なんて、趣味が悪いんですね? そのイドゥって人、最低です」

「イドゥさんの悪口は許さないわ、リル!!」


 ルシカの剣撃が大振りになっていく。

 ただ、だからと言って隙が出来たわけではない。

 今までと同等、もしくはそれよりも速いスピードで、威力を上げて剣を突き出してきたのだ。


(早いですね……!! なら!!)


 イルアリルマはここで耳に頼り切ることを止める。

 その刹那。

 彼女は周囲の全てを感じ取った。


 ――察覚。


 エルフが持つと言われる第七感の内の一つ。

 常人の比較にならないほどの『気配』を捉え、把握する感覚。

 察覚を発動させたイルアリルマのスピードは、先程の倍以上に。

 ルシカの大振りな剣撃をも、難なく凌いでいく。


「さらに速く……!? このハーフエルフ風情が……!!」


 ギリリと歯ぎしりをしつつ、ルシカは剣を出し続ける。

 しかし、その剣撃はどうしてもイルアリルマまでは届かない。


「くそっ……!!」


 金属音と火花の飛び交う、止まない攻防の中、イルアリルマはルシカに問いかけた。


「質問してもいいですか?」

「……何よ……ッ!?」

「そのイドゥって人は、私の視力を奪う手助けをした贋作士ですよね?」

「そうよ! あの人は視力の弱い私を救ってくれた!」

「救ってくれた? 私には、ルシカを拘束しただけのように見えますけど」

「拘束!? 助けてくれたのに拘束!? 意味が判らない!」

「恩を着せ、自分に従うように誘導したのではないですか?」

「違う! そんなわけない! イドゥさんは善意で私を助けてくれたんだ!」

「他の誰かを不幸にする善意は、果たして善意なんでしょうか? 疑問です」

「み、見えない癖に判ったような口を!!」

「いいえ、見えますよ。貴方の弱い心を利用し、恩人と勘違いさせた詐欺師の姿がね」

「ぐぐ…………――――きゃああっ!?」


 察覚を最大限に利用したイルアリルマの方が、剣撃のスピードが速い。

 だからいつかは必ずこうなることは判っていた。


「嫌な感覚なんでしょうね。親友を突き刺すという感覚は。触覚も貴方に奪われたので想像でしかないですけど」


 今度は左肩を一刺し。

 真っ赤な鮮血が飛び、ルシカは痛みで悲鳴を上げて、ズズズと後ずさりした。


「ルシカ、決着はつきました。もう治安局へ自首してください」

「はぁ? 貴方何言ってんの!? 私はまだ負けちゃいないわ! 目の見えない貴方に負けるはずがないじゃない?」

「ルシカ。私は視力を失って、それをきっかけにして色々と一気に失いました。ですがそれ以上に得たものもあるんです。私はハーフエルフとして落ちこぼれと蔑まれていましたけど、視力を失ったおかげで、普通のエルフ以上にエルフらしい力を得ることが出来たんです」


 すぅっとレイピアを持ち上げ、ルシカの方へと向ける。


「察覚。一般的なエルフの皆さん以上に、私はこの感覚を鍛えることが出来ました。ルシカ、私には貴方の姿も感情も、手に取る様に判ります。そして貴方の奥の手というのも」


 レイピアが指していたのは、ルシカの持つ神器『絶対感覚』(イマジン・イメージ)


「貴方の持つ神器の力を踏まえても私の勝ちです。これ以上ルシカを傷つけたくはありません。自首してください」


 腰を地に落としたルシカに、イルアリルマは淡々とそう告げる。

 ルシカから帰ってきた見上げる視線は、ふざけるなと言わんばかりに殺意に溢れていた。


「あは、あはは、あははははは!! な、何ってんのかしら、このドサンピンエルフは!! 私の奥の手? それを踏まえても勝ち!? 本当、貴方って昔からずっと笑わせてくれるわね!」


 ルシカはゆっくりとペンダントを掴む。

 彼女自身の『エルフの薄羽』の入った神器『絶対感覚』。

 それにドンドンと惜しげもなく魔力を注ぎ込んでいく。


「視覚と触覚。貴方からは二つも奪ったけど、今から全部を奪ってあげる!!」


 光は激しく渦巻き、魔力が弾け、バチバチと音もなる。

 その光景を、ただイルアリルマは悲しげに感じていた。


「うっはああああああああああああ!! 全て感じる!! リルの全てを奪う感覚が!! 最高!! さいっこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!」


 光が消えた同時。

 イルアリルマの耳が機能を停止する。

 口の中からも感覚が消え去り、鼻も潰れた様に臭いを感じることが出来なくなった。


「どう? リル。深遠なる闇の世界は!! ……と言っても聞こえていないか!」


 ズルズルとレイピアを引きずり、闇に囚われているイルアリルマの前に立った。


「さようなら、リル。そしてありがとう。貴方から貰ったこの視力で、私はこれからも生きていくわ。イドゥさんやリーダーと新しい世界でね! 今まで本当にありがとう」


 ただ突っ立っているだけのイルアリルマに、ルシカはレイピアを正面から大きく振りかぶった。


「――バイバイ、リル!!」


「――ええ、バイバイ、です。ルシカ……!」


「――え……?」


 ルシカは震える身体を抑えながら、自分の身体を見る。

 自分のお腹には、何故か剣が突き刺さっていた。


「ど、どうして……!? どうして剣が……ゴブッ……!?」


 胃から血が逆流し、もはや喋る事すらままならなくなる。


「な、何故……!?」

「ルシカ。貴方の神器は、五感を司る神器ですよね。言ったでしょう? 私はエルフ以上のエルフの力を持ったハーフエルフになったって。私は察覚と、そしてもう一つ――魅覚を使った、それだけのことです」

「み、みかく……!?」


 察覚と魅覚。

 共にエルフが持つ感覚で、魅覚というのは、人や物の持つ魅力的な力を感じる力の事だ。


「貴方の神器は、人間の五感を奪うことが出来る。ですが私はエルフです。感覚は七つあります。ルシカは今までその神器をエルフ相手に使ったことがないんじゃないですか? だから七感を使う相手に慣れていなかった。私の察覚を奪うことは考えたのでしょうけど、魅覚については考えもしなかった。そうじゃないですか?」

「…………!!」


 本来魅覚はこういう場面で用いられる感覚じゃない。

 対象物に魅力を感じてこそ、その魅力を具体的に知り、語ることが出来るという力。


「ルシカは私の親友です。親友のことを魅力的に思わない人はいない。ルシカ、貴方は私に魅力を感じなかった。私は貴方に魅力を感じていた。それだけの違いが勝敗を決したのだと思います」

「……な、……なる、ほど……! 私は、貴方にとって、魅力的、って……事……!! ……ゴフ……!!」


 逆流する血に溺れそうになりながらも、ルシカは力強くイルアリルマの方を睨んだ。


「……親友、かぁ……」


 そして、その一言が最後となる。

 ルシカは座ったまま、イルアリルマの方を睨み、そして次の瞬間。

 イルアリルマは、彼女の身体から『命』を感じ取ることが出来なくなっていた。


 ルシカが絶命した瞬間、彼女の薄羽が壊れ、ペンダントは機能を失った。


「…………!!」


 ペンダントが壊れた瞬間、イルアリルマの瞼に光が宿る。


「これって……!? い、痛い!?」


 直後にやってくる、肌から感じる細かい切り傷の痛み。


「痛い!? もしかして、肌に感覚が……。あ……!!」


 瞼の裏に光が弾けて、そして。

 イルアリルマはゆっくりと瞼を開けた。


「……ま、眩しい!?」


 光が、彼女の目に飛び込んできて、世界が一気に広がっていく。


「目が、見えます……!! 私、目が……!!」


 涙が溢れ出し、世界が歪む。

 すぐに涙を拭って、求めるように世界を見る。

 そして見つけた。


「ルシカ!!」


 まさに今、自分が手に掛けた、大切な親友。

 地面を血に染めて、力なく突っ伏しているルシカの姿。


「ルシカぁ!!」


 その遺体の姿を目で捉えたイルアリルマは、すぐさま遺体に抱きつくと、溢れる涙をせき止めることなく、大声で泣きじゃくった。


「ルシカぁあああああああああ!!」


 未だ温もりの残るその遺体は。


「……ルシカ…………!!」


 思い出の中にある、あの優しかった昔のルシカの笑顔をしていたのだった。


「……私はあの贋作士を許しません。優しいルシカをそそのかした、イドゥという贋作士を……!!」


 涙を拭い、ルシカの遺体をそっと地面に置くと、イルアリルマはフェルタリア王宮に向かって、歩き始めた。



 ――自分の目でしっかりと、前だけを見据えて。



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