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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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因縁のミラーマッチ ルシカvsイルアリルマ

「テリアさん、大丈夫ですかね……?」

「多分大丈夫だよ。あの人、めっちゃ強いんでしょ? それよりリルさんこそ、足下気をつけてね!」 

     

 スメラギによって、アムステリアと分断されたイルアリルマとギルパーニャの二人は、メインストリートから街の裏路地へと移り、隠れるように歩みを進めていた。

 物心ついた時から裏路地で暮らしていたギルパーニャにとっては、こういうジメジメとした暗い道の方が歩きやすく居心地も良い。

 逆にイルアリルマにとって裏路地は狭く、物が乱雑に置かれている為、察する必要が多すぎる為に気疲れしやすい。

 だからギルパーニャがイルアリルマの手を引きながら、周囲を警戒しつつ進んでいた。


「……ギルさん、右です!」

「え? ……あっ! ゾンビがいる!!」

「数は……三体です。気を付けてください!」


 フレス達の攻撃によりその大半は消滅していたが、元々数えきれないほどの数がいたのだ。その全てが全て屠られたわけではなく、このように裏路地にいて攻撃から逃れ、助かっていたゾンビ達もいる。

 腐臭をまき散らしながら、命ある者を貪らんとゾンビ達が近づいてくる。


「え、えっと、師匠から借りた神器は――っと、これだ!」


 胸から下げた小さな巾着袋に、師匠から借りた指輪型の神器を入れていた。

 名前は『狐火の揺らめき』(フォックス・ライター)

 割と庶民にも扱いやすいポピュラーな神器だ。


「指に嵌めて、魔力を込めて……!!」


 教えてもらったとおりの手順を行うと、ブワッと炎が手のひらに纏わり付いた。


「よし、これで!!」   


 手のひらをゾンビの方へ向けると、手から炎を放出するようなイメージで魔力を紡ぐ。


「うりゃあ!」


 ギルパーニャの気合いと同時に中規模な業火が現れると、ゾンビの身体を炎が貫いた。 

 ゾンビはのた打ち回った後崩れて動かなくなり、その後灰へと帰っていく。


「よし! 残りも!」


 残った二体も同様に焼き尽くしてやった。


「やったね! ――って喜んでいる場合じゃないよね。フレスだったら一撃で何百体も同時に木っ端微塵なんだもん……。それなのに私ったら三体ぽっちで喜んじゃって……。やっぱり私ってば足手まといなのかな……?」

「そんなことないですって。ギルさんだって十分戦力になってますよ! それに、足手まといの話をすれば真っ先に名前が挙がるのは私です。目が不自由なのに無理を言ってついてきたのですから」

「リルさんは凄い才能を持っているじゃない! 今も真っ先にゾンビに気付いたし、その察覚や聴覚はいつも皆の役に立ってるじゃない!」

「皆の役に、ですか」


 ギルパーニャはそう言ってくれるが、イルマリルマにとって、その言葉は逆に耳に痛い。


「実は言うとですね。私、皆さんのお役に立つために来たわけではないんですよ」

「え? どういうこと?」


 下手をすれば自分のためにギルパーニャを戦闘に巻き込む恐れもある。

 だからイルアリルマはギルパーニャに対し、包み隠さず全てを話すことにした。


「今回の敵は『異端児』という組織なのですが、実はその中に私の親友がいるんです」

「敵に親友!? 本当なの!?」

「はい。もっとも向こうは私のことを友人とさえ思ってないかも知れませんけど。それでも私にとっては大切な親友なんです。たとえ私の視覚と触覚を奪った相手だとしても」

「……リルさんが盲目なのって、幼い頃に高熱を出したことが原因じゃなかったの……?」

「実はですね、私の親友、名前をルシカというんですが、その子が仕込んだことだったです。そして私を助けてくれた鑑定士というのも、実は敵の贋作士だったみたいで。私の目や肌なんですが、テリアさんが言うには正常に働いているそうなんです。ただ敵の神器の力で、脳がそれを感じることが出来なくなっているみたいなんです。私が二つの感覚を失う代わりに、ルシカがその感覚を手に入れた。私から盗み出した感覚を使って、今はこうして私達の前に立ち塞がっているんです」

「酷い話だね……!! フレスはこの事を?」

「勿論知っています。フレスちゃんは私のために心の底から怒ってくれたんです。それがとても嬉しくて」

「当たり前だよ! 私だって怒り心頭だよ! よーし! そのルシカって子を倒して感覚を取り戻そうね!」


 グッとガッツポーズをとるギルパーニャ。

 それに対し、ルシカは少し申し訳なさそうな笑みを浮かべた。


「えっと、実は私、感覚を取り戻すことについてはさほど重点を置いてはいないんです。正直な話、視覚を取り戻さなくてもいいと思っているんですよ。感覚がなかったおかげで、こうしてプロ鑑定士になることが出来ましたし、皆さんとも仲良くさせてもらっていると思っていますから」

「じゃあルシカって子は放っておくの!? それって――」

「――いえ」


 これまで穏やかに淡々と話し続けていたイルアリルマの雰囲気が、ここに来てガラリ変わる。

 その静かな迫力にギルパーニャも思わず息を呑んだ。


「ルシカは私が倒します。必ずね。それが私達の因縁へのけじめですから」

「リルさん……」

「それにルシカは必ず私の前に現れるはずです。彼女だって、私とは決着をつけたいでしょうから」


 ――イルアリルマの瞳。


 その瞳は、今は何も映してはいないのだろうが、ギルパーニャに確かに見えた。

 瞳の奥には、イルアリルマの底知れぬ覚悟があるということを。


「…………ッ!! ギルさん! 避けて!!」

「――――ッ!?」


 イルアリルマの忠告と同時に、ギルパーニャは身体を翻した。

 トストスッとギルパーニャの足元に突き刺さる二本のナイフ。

 ナイフが投げられた先を見ると、そこには一人の小柄なエルフの女が立っていた。

 ナイフをクルクルと指先で回しながら、ニヤニヤと見下してくる。


「やっほー、また会ったね、リル」

「何言ってるんですか、ルシカ。どうせここで待ち伏せしていたのでしょう?」

「あ、ばれちゃった?」

「ええ。貴方の気配を感じていましたからね」

「本当に便利だね、その察覚。本物のエルフみたい! もう視力はいらないでしょ?」

「どうですかね。視力が戻ってみないと判らないと思います」


 二人の間に交わされる、目には見えぬ因縁の火花。

 ルシカの顔は、見えなくても判る。

 幼き日の優しかった彼女の面影を、瞼の裏に思い出す。

 あの優しい時間に戻る為、彼女の心の邪悪を断たんと、ルシカは腰に据えていたレイピアを抜き放った。


「もう一度、自分の目でルシカに会いたい。その為に、私は戦います!」

「残念。私としては二度と貴方の顔を見たくないの。だから私はリルを殺す。この視力を永遠に私のものとするために!!」


 不敵に笑い、ルシカは弄んでいたナイフを投げ捨てると腰のレイピアを抜く。

 同じような容姿、エルフとハーフエルフの対峙する姿は、まさに鏡か、山を写す湖畔の様。

 糸一本切れる音すら許されないような緊張感が、周囲を支配していく。


「……ギルさん、私を置いて先に進んでください。ルシカは私の担当です」

「でも一人じゃ危ないよ!」

「お願いします。正直に言わせてもらうと、彼女とのこの時間を誰にも邪魔されたくないんです。私はこの瞬間を、ずっとずっと待ち焦がれていたのですから……!!」


 ――邪魔だ、どこかへ行け。

 イルアリルマの背中は、ただそれだけを伝え、それ以上の会話を受け付けることを拒否していた。


「……わ、判ったよ。私、行くね」


 イルアリルマの気迫に押され、ギルパーニャは素直に頷き、音も立てず逃げるように走っていった。


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