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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
455/500

分断

 強酸の壁を背景に、ドレスを纏う少女が現れる。


「あの子は――スメラギ!!」


 今までとは少し雰囲気の異なった純白のドレスを着込んだ少女、スメラギが一行の前に立ち塞がったのだ。


「見た目で油断しないでね。あの子の神器はヤバイから」

「……ああ、この目で見た。ラインレピアでな」

「肉弾戦も結構強いから困るのよ」


 華奢で小さな身体の彼女であるが、その見た目に反して彼女の動きは素早く、そして力強い。

 何よりスメラギには強酸を操る神器がある。

 これは運河都市『ラインレピア』に壊滅的な被害をもたらした神器であり、また『ファランクシア』の大監獄の機能も一部麻痺させたほどの力を持つ超強力な神器だ。

 見た目に惑わされて油断しては死を見る相手。


「アハハ、お久しぶり、泥棒猫! 二度とるーしゃの前に現れないように、骨まで溶かしてあげる!」

「勘違いも甚だしいわね……!! だからルシャブテになんて一切興味ないって言ってるでしょうに」

「嘘! るーしゃに興味を持たない女なんて、そんなの女じゃない!」

「あんな悪趣味な奴を好きになる奴なんて、この世界でアンタくらいなものよ」

「ゾンビを蹴散らしたと思ったら、もうすぐに『異端児』が出てくるか……!! 厄介だな」


 先程のメルフィナの話から、もうすでに死闘は始まっていると言っていい。

 ならば彼女はウェイル達を狙う刺客。


(他にもいるのか……!?)


 『異端児』は、おそらくスメラギ以外にも刺客を送り込んで来ているはずだ。

 周囲の様子をさっと窺ってみるも、敵の姿は見えないが、先程メルフィナの幻影を作り出していたダンケルクが近くにいるのは確実。

 目の前のスメラギだけでなく、姿の見えないダンケルクの襲撃も警戒せねばならない。


「泥棒猫! お願い、もう死んで! 私とるーしゃの仲に入ってこないで!」

「だから入る気なんてさらさらないんだってば……!!」


 なんて愚痴を垂れるアムステリアだが、スメラギの耳には一切入らないようだ。


「アハハハハ! もう顔を見るのもウンザリ! 死んで!」


 狂気に笑うスメラギが、その両手をさっと右手を横に上げた。

 その動きに呼応するように強酸も右手側へと移動していく。


「皆、あの緑の液体に触ったら一貫の終わりよ!! 絶対に何が何でも触らないで!!」


 アムステリアがそう叫ぶと、スメラギはニヤっと笑って頷いて、その酸を竜巻の様に渦巻かせる。


「アハハハハハハハ! みんな、み~んな、溶かしてあげる!!」

「一気に来るぞ!! 一カ所に固まるな! 散らばれ!」


 スメラギが右手を前に突き出す。

 それと同様の動きを見せた竜巻のような強酸の渦が、ウェイル達へ向かって突っ込んできた。


「フレス!」

「うん!」


 酸の渦を防ぐ為に、フレスが氷の壁を貼って受け止める。


「……ダメだ! 想像以上に威力が強いよ! 皆、逃げて!」

「う、うわ!」

「レイア!!」


 氷の壁を飲み込んで、酸の渦は襲いかかる。

 足がもたつき、転びそうになっていたテメレイアを拾い上げて、ウェイルは酸の当たらぬ場所へと転がり込む。


「レイア、無事か!?」

「う、うん。僕なら無事さ。でも――」


 フレスの氷の壁が一瞬時間を稼いでくれたおかげで、直撃は免れ、皆避けることが出来ていた。


 だが――


「――フフフ、計画通り」


「無事だったけど、ちょっと誤算が生じちゃったね……!!」


 スメラギはウェイル達が避けることを前提で攻撃してきていた。

 その結果がこの現状。


「ウェイル、どこにいるの!?」


 アムステリアの声がする。

 だが姿はどこにもない。

 周囲を見渡して、ウェイルは気づいた。

 どうやらスメラギの狙いはこれだったようだ。


「俺達は酸の壁で分断させられたようだ……!!」


 緑色の強酸は、巨大な壁のような形となってウェイル達をバラバラに分断していた。

 現れた酸の壁は想像以上に背が高い。

 これではウェイルやアムステリアとて乗り越えることは不可能だろう。


「フレスは!?」

「上だ、ウェイル!」


 テメレイアに言われて空を見ると、そこには翼を携えた少女三人の姿があった。


「フレス! 無事だったか!」

「ボクらは空を飛べるからね! 壁だって乗り越えられる! どうしようか、あのスメラギって子! ボク達三人が一斉に掛かれば楽に済むでしょ!?」


 龍三人が相手ならば、いくらスメラギが強かろうと楽勝に決まっている。

 だが、その当のスメラギはというと、龍達に狙われているというのに笑顔を崩さない。

 むしろ見上げて手を振ってくる程の余裕を見せている。

 その理由を知ったサラーが、フレスに服を引っ張った。


「フレス。どうやらそうそう簡単にはイレイズの所へ行かせてはくれないらしい」

「……嫌な予感がするのじゃ……」

「え? ……え、えええええ!? あれって!!」

「そう、龍の相手なんて、する気ない! お前らの相手は、あいつ!」


 スメラギが指さす方向。

 そこにいたのは巨大な影。


「……確かに、どうやらこっちを先に相手しないとまずそうだね!」


 腐臭をまき散らし、金切り声を上げながら、こちらへと近づいてくる巨大な空飛ぶ影。


 その正体は『ドラゴン・ゾンビ』。

 かつて部族都市『クルパーカー』にて、イングによって召喚された、おぞましき死の怪物。


「サラー、あの時のゾンビより、かなりスケールが大きいんだけど……!!」

「だろうな。よく見てみろ、あいつの身体。龍だけじゃないぞ」

「キメラなのじゃ。色々と混じっておる。汚らわしい姿よ……!!」

「うう、気持ち悪い……」

「見ているだけで気分が悪くなる。さっさと蹴りをつけるぞ」

「そうした方が良さそうじゃの」


「――キイェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」 


 フェルタリアの空に、キメラと化したドラゴン・ゾンビが出現したのであった。


 





 ――●○●○●○――







「『無限地獄の風穴』の力を悪用しまくっているな……!!」

「ウェイル、すぐにここを離れるべきだ。なんとしてもシュラディンさんを無事王宮まで連れて行かないといけない」

「判っている。だが、あいつらは残すのはどうなんだ!」


 空にはドラゴン・ゾンビ。

 陸にはスメラギ。


 この二つの脅威を無視して先に進むのは困難を極めるはずだ。


「ウェイル! ここは私達に任せて行きなさい!」

「テリア!? だが!」

「いいから行きなさい! なんとしてもシュラディンは王宮へ連れて行かないといけない。なら迷っている暇はないわ! それに私達なら心配しないで。こんな小娘程度には負けたりはしないわ。逆にこの先で私達を待ち構えている『異端児』の連中を掃除しておいてくれるかしら? 後から追いつくのが楽になるもの!」

「……判った。ここは任せる。フレス! お前達も頼むぞ!!」

「任せておいて! 龍は同じく龍のボク達がお相手しないとね!!」

「フェルタリア王宮の広場! そこに集合だ! 皆、無事に辿り着いてくれよ!!」

「おっけ。それで行きましょう!」

「ボクらも急いで向かうからね!」


 各々目の前に現れた脅威と対峙しながら、そう約束を交わした。


「行こう、レイア、師匠」

「あ、ああ。……だがウェイル、ギルと分かれてしまったぞ。心配だ……!!」

「ギルは師匠が心配するほど子供じゃない。それにあいつは死なないさ。あいつはあのリグラスラムを子供の時から生き抜いてきたんだからな」

「そうだな……」


 メインストリートから外れ、隣の地区にあるサイドストリートから王宮前の広場を目指す。

 敵がこのタイミングで皆を分断させたということは、おそらくこちらにも他の追手がいるのだろう。

 スメラギもこちらの事を敢えて見逃していることからも、それは明白だ。

 もっとも彼女の視界には、最初から恋敵(?)であるアムステリアしか映っていなかったのかも知れないが。

 裏路地を抜けて、サイドストリートへと抜け出たウェイル、テメレイア、シュラディンの三人は王宮へ向かって足を急がせた。



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