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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
450/500

この世界を面白く

「さーて、全員揃ったね!」


 滅亡都市フェルタリア王宮。

 その玉座の間にて、埃と蜘蛛の巣が被った風化した玉座に、お構いなしに腰を下ろして満足げに周囲を見渡した、元フェルタリア王子、メルフィナ。


「玉座って中々に座り心地が良いものなんだねぇ。あの時僕が何もしなければ、僕はもっとここに座れていたんだろうけど」

「それはどうかな。遅かれ早かれ、お前さんはこちら側に来ていたさ」

「それもそうだねぇ。毎日ここに座るのは腰を壊しそうで嫌だしさ」


 イドゥと、そして集まった異端児メンバー全員と顔を見合わせる。


「みんな、ついに念願の時がやってきたよ! この面白くない世界をぶち壊して、もっと不完全な世界に旅立つ時がさ!」

「おい、リーダー、そろそろお前さんが一体何をしたいのか、聞かせてはくれないのか? もう目的達成は間近なんだろ?」

「そうですよー、教えてください」


 そのダンケルクの疑問に、イドゥ以外の皆は、おもむろに頷いていた。

 実の所、『異端児』メンバーのメルフィナとイドゥ以外は、計画の最終目的を一切聞かされていない。

 それなのに何故皆がメルフィナに従っていたかというと、単に彼の為すことはおそらく面白いことなのだろうと長年の付き合いで知っていたからだ。


「三種の神器まで手に入れて、お前さんは一体何をしたい?」


 皆の疑問と視線が、一斉にメルフィナに集まる。

 メルフィナは、そんな彼らの期待に応えるように椅子から立ち上がると、高らかに叫んだ。


「――この世界を、より面白くするのさ!」


 天を仰ぎ、胸に手を当て、椅子に足を置いてポーズをとるメルフィナ。

 それに対し周囲からの反応は冷たい。


「……いや、そういう抽象的なことを聞きたいんじゃなくてだな」

「リーダー、カッコつけても意味ない。るーしゃの方が千倍カッコいい」

「当たり前だ。比べるな」

「ルシャブテ酷くない!? 今のポーズ、すっごく悪のボスっぽかったよね!? ねぇ、カッコいいよね、アノエ?」

「今のがカッコいいなんて、リーダー、趣味悪い。ルシャブテくらい趣味悪い」

「それはかなりショックだね!?」

「あ、あの、リーダー、私達はもっと具体的なことが知りたいんですけど……。後そのポーズはないです」

「ふぐっ!? ルシカに言われると一番傷つくね……。判ったよ。詳しく答えるよ」


 皆から一斉にカッコ悪いと指摘され、中々に落ち込みながら、メルフィナは半ば投げやり気味に答えた。


「三種の神器『異次元反響砲フェルタクス』を起動させる。あれが正しく起動すれば、この世界には大きな穴が開くことになる」

「……穴、ですか?」

「これは何も抽象的な表現じゃないよ。直接的な表現だ。ねぇ、ルシカ、一つ質問するよ。この世界に神獣を呼ぶには一体どうすればいいと思う?」

「神獣、ですか?」


 この世界に住む、人間や動物とは非なる存在。

 ルシカ自身もエルフであり、エルフは神獣の代表格だ。


「う~ん、私達エルフはいつからいるんだろうなぁ。でも、一番一般的なのは召喚術ですよね」

「正解! 召喚系神器を用いての召喚術。これが一番手っ取り早いよね」

「リーダー、何が言いたいんだ? 召喚術とフェルタクスと、一体何の関係がある?」

「まあまあダンケルク、そう焦らないで? じゃあ、ダンケルクに聞くけど、召喚された神獣って、一体どこから来たのかな?」

「神獣がどこから来るかだと? ……そう言えば全然気にしたことが無かったな。神器を使えば彼らは呼ばれる。そう言うものだと思い込んでいたからな」


 召喚術を行えば、その術の為に払った代価の代わりに、神獣を呼ぶことが出来る。

 ただその行為自体が当たり前のことだと皆思い込んでいて、その原理自体を考える者は少ない。


「答えを言うと、召喚術というのは、転移術の応用なんだよ。ただし転移範囲はこの世界じゃない―――この世界とは何もかもが全く異なる、異世界だ」


「「「異世界!?」」」」


 唐突に出てきたメルヘンチックな言葉に、一同言葉を失っている。


「そう、神獣は異世界の生物なんだ。エルフもデーモンも、そして――ドラゴンもね」


 メルフィナはとある丸めた紙を取り出すと、皆の前に乱雑に広げた。


「これ、ヴェクトルビアから盗み出した『セルク・ラグナロク』なんだけど」

「……あのセルクの作品を、こうも適当に扱うことが出来るのはリーダーだけだな……。一応元プロ鑑定士の俺からすれば正気の沙汰じゃないぞ……」

「リーダーは正気じゃない。元から壊れてる」

「それは間違いないな。スメラギ、たまには的を射たことを言うじゃないか」

「エヘヘ、るーしゃに褒められちゃった。嬉しい」

「いや、僕は全然嬉しくないんだけど……。まあいいや、これ見てよ」


 メルフィナは『セルク・ラグナロク』の絵画の意味を説明し始める。


「この絵の中央へ龍が向かっているでしょ? その下には大砲のイラストもある。実はこの絵画は、フェルタクスの起動に必要なものが書かれているんだ」

「それらは全て集めたんだろ? カラーコイン、もといサウンドコインも含めて」

「そうだね。でさ、この絵画に描かれている龍って、皆中央に向かって飛んでいるように見えるじゃない? でも、ちょっと考え方を変えたらさ、大砲から龍が飛び出しているようにも見えない?」


 龍達のすぐ下に、大砲は描かれている。

 指摘されれば、確かにそう見えなくも無いかも知れない。


「ま、この絵画はセルクが色々と予想して描いただけだから、あんまり信頼性は無いのかも知れないけど。でも、僕は間違いないと思っているんだ。少なくとも、今から扱うフェルタクスは、召喚系と転移系の最高峰に属する、時空間転移系神器なんだからね」

「二十年前のフェルタリアで起きた事件はまさに時空転移だったわけだな……」


 二十年前、フェルタリアから音が消えた。

 この都市に住まう者は、一人残らず消え去った事件だ。


「僕の愛すべき民達は、皆異世界へ飛んでいっちゃったってことだね! アハハハハ!」

「リーダー、じゃあその穴っていうのは……!」

「そうだよ。フェルタクスは空間と次元を超越する神器。フェルタクスが正しく起動すれば、この世界は異世界と繋がるということ! 異世界と繋がる巨大な穴が出来て、最後は異世界と融合するんだ!! とっても楽しいと思わない!? だって、外の次元には、デーモンやドラゴンを始め、もっと強力な神獣がウヨウヨしているんだよ!? この不完全な世界は、更なる混沌に包まれる! こんな退屈で平凡な世界が、一瞬にして楽しい世界には早変わりだ!」

「そんなことをすれば、この世界にどんな影響が出るか判らんぞ!? それに二十年前、フェルタリアでは住民が全て消え去った事件が起きたな! つまりフェルタクスが起動し、この世界が異世界と融合するということは、フェルタリアで起きた現象が、この大陸、いや、この世界全体で起こるということだろう!? 飲みこまれた後、俺達の命がある保証はどこにもない!! 危険すぎるぞ!!」


 落ち着いた雰囲気のダンケルクが、珍しくリーダーに熱く突っかかる。

 そんなダンケルクの様子に、リーダーは唇を歪めて笑った。


「おや、ダンケルク。怖いの?」


 そんなリーダーの問いに対し、ダンケルクは。


「……馬鹿言え。面白そうだと、そう思っただけだ」


 同じく唇を釣り上げ、笑って返したのだった。

 やはり、彼らは異端だった。

 この世界の全てが異世界に飲まれ、全ての命が消え去る危険があったとしても、彼らは貪欲に面白さのみを追求していた。


「るーしゃ! 異世界! 楽しそう!」

「だな」

「異世界にカッコいい剣はあるのか?」

「あるんじゃないですか? もしかしたら神器っていうのも異世界から来たのかも」

「命の危険性はあるが、溢れ出る興味には勝てん。リーダー、やろう」


 こんなに面白いことは他にないと言わんばかりに、皆はメルフィナへと顔を向け、そして頷いてきた。


「皆賛成だね! よし、じゃあ一気にやっちゃおう! イドゥ、例のモノは?」

「ティア嬢ちゃんが遊んでいる」

「おーい、ティアー、おいでー」


 玉座の間から少し離れた、大きな窓のある通路にて、ティアはとある神器を不思議そうに眺めていた。


「ティアってばー!」

「わかったー」


 その神器を持って、トコトコとティアがやってくる。


「気に入ったの? それ」

「うん。大きい穴があって、面白いの! 穴に手を突っ込んだら、なんか変な感触がするんだー! アハハ!」


 ティアの持つ神器。


 それは『無限地獄の風穴』コキュートス・ホールゲートという神器であった。



最終章は、完結まで毎日更新いたします。


是非最後までお付き合い頂ければ幸いです。


よろしくお願いします。

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