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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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サグマールの申し出

 ――二十分後。


 ここ第十二会議室に、大陸きっての天才鑑定士達が集まった。

 サグマールとナムルには、大方の事情をテメレイアが伝えていてくれて、ここではウェイルを主導で、更なる詳細を二人に説明した。


「……ふぅ、三種の神器絡みか……」

「アルクエティアマインの時といい、ウェイルは本当に三種の神器に縁があるな。また巻き込まれたのか」

「だから好きで巻き込まれているんじゃねーよ……」

「しかしその為にエリクまで解放するとはな」


 サグマールの視線は先程からずっとエリクの方ばかり向いている。

 少し気まずいのか、エリクは視線を逸らしていたが。


「話は分かった。それで、お前達は一体これからどうするつもりだ?」

「…………」


 サグマールは単刀直入にウェイルに尋ねた。

 サグマールの問いに、少しばかり時間が空く。

 固唾を呑んで周囲が見守る中、ウェイルが口を開く。


「――フェルタリアに行く。そこで『異端児』を止める」

「フェルタクスとやらの起動を防ぐ方法は、完璧なんだな?」

「完璧とはいえない。だがシュラディンが直接的な起動方法を知っているし、俺達もそのヒントを掴んでいる。テメレイアの推測が正しければ、すでに起動を阻止する方法を判明していると言ってもいい」


 フェルタクスに必要なパーツは全て出揃っている。

 ケルキューレやアテナ、カラーコイン、ピアノ奏者に、そして龍。

 だが、これらは未だ『異端児』とウェイル達が半ば分け合っている状況だ。

 逆に言えばこれら全てが揃わぬ限り、完全なる起動は出来ない。

 とはいえこのまま何もしなければ、敵はイレイズにしでかしたことと同じようなことを、テメレイアを始め他のメンツにしてくるのは明らかである。

 中途半端な起動でも非常に危険なフェルタクスを、このまま野放しにする選択肢など、フェルタリア王の意思を引き継ぐウェイルには到底出来ない。


「実はな。先日プロ鑑定士協会にこんなものが届いたのだ。ただの悪戯だと思っていたが、今の話を聞けばこれは真実なのかも知れん」


 電信ではなく、それは封書であった。

 すでに開けられており、そこには紙が一枚だけ入っている。

 ウェイル達は恐る恐るその紙を覗き込んだ。


『これから一週間後、この大陸は死者の楽園と化すだろう。我が影が、この光の元へ来なければ。全ての鍵を持ち、凱旋せよ』


「……脅迫文だな。しかも完全に俺達に対してのものだ」

「死者の楽園って、多分ゾンビ達が大量に出てくるってことだよね。『無限地獄の風穴』を考えれば、それしかないよ」

「影に光、か。……ますます急がないといけないな……!!」


 一週間。

 とはいえこれが届いたのは先日であるから、猶予は後六日。

 それまでにウェイル達がフェルタリアに行かなければ、この大陸はゾンビで溢れ、大混乱になるだろう。


「サグマール、すぐにフェルタリアに行く。手配してくれないか」

「……今フェルタリアは治安局の管轄内にある。いくらプロ鑑定士と言えど、勝手に入ることは出来ん。あそこは特別管理都市指定を受けている為に、許可も早々下りんだろう。それはお前も知っているはずだ」

「無論だ。だからこそ、その辺については一切心配していない。治安局には、心強い仲間がいるからな」


 そう、最近最高幹部へと出世したと噂される、心強い仲間が。


「フェルタリアは二十年以上もある意味では放置された場所だ。常に危険が伴う」

「承知の上だ。三種の神器の驚異の前では、その危険すらも薄く感じているほどだ」

「確かにそうだな……」


 サグマールの口調は、決してウェイル達の行動に肯定的ではなかった。

 もちろん、ウェイル達のことを嫌ってではない。

 ただ心配だという色である。


「心配しないでください、サグマールさん。ウェイルの面倒は僕が見ますから」


 任せてくれと、胸を叩くテメレイア。


「そうだな。テメレイア氏がいれば幾許か心配も薄らぐというもの」

「そうです! それにこれだけの天才鑑定士がいるんですから。問題なんてないですよ」


 ウェイルの後ろに佇む皆も一様に頷いた。


「判った。治安局の方へはワシから手を回しておく」

「ステイリィに繋いで、俺の名前を出してくれ。多分、何とかなるだろう」

「お前には便利な仲間がいたものだな。判った。それとナムル殿」

「判っておる。フェルタリアまでの鉄道の手配はワシがしておこう。あそこへは旧通路を使わねばいけないのでな」

「助かる、ありがとう、二人とも」

「礼などいらんさ。お前達は大陸を代表して事件を解決に行ってくれるんだ。これくらいはお安い御用だ。……だが一つだけ注文がある。お前達のような有能鑑定士が一気に減れば、その間はプロ鑑定士協会の業務に差支えが出る。したがって、人員を一人ほど回して欲しいのだが――」


 サグマールの視線は、エリクの方へ向けられた。


「エリクをワシの秘書にしてはくれぬか?」

「……はぁ!? あ、アンタ何言ってんの!? 私はアンタを一度裏切っているのよ!?」


 この提案に、エリクは信じられないと素っ頓狂な声を上げた。


「また裏切るかも知れないわよ!?」

「そうだな。だが困ったことに、業務が忙しいのは事実であるのでな。背に腹は代えられん」

「な…………!!」


 言葉も出ないと目を丸くするエリク。


「正直に言わせてもらえば、エリクを百パーセント信頼は出来ぬ。だがお前さんは有能だ。秘書としては大陸トップクラスだろう。何せ前はスパイ活動をしながらも仕事はきっちりとこなしていたのだからな」

「結局バレたのだから有能とは言えないでしょうよ」

「まあお前さんがそう思うのならばそうなのだろうが、ワシはお前さんを評価しておる。それは変わりない。さあ、どうする? 再びワシの下で働いてはくれぬか?」

「…………」


 少し頭に手を置いて考えるエリク。


「私の命は今、ウェイルに握られている。ウェイルに任せるわ」

「そうだな」


 エリクの処遇は、監獄で交渉し契約したウェイルの手に委ねられている。

 エリクが勝手に自分自身のことを決めることは出来ない。


「サグマールには借りがたくさんあるからな。エリク、サグマールのことを助けてやってくれ」

「……判ったわ」


 渋々といった――とはいえなんだか嬉しげなエリクは、すっとサグマールの横へと移動した。


「秘書か、なんだか久々ね」

「ブランクはあるだろうが、関係なくこき使ってやる。ありがたく思え」

「はいはい、サグマールさん」

「話はまとまったね」


 パンと手を叩くテメレイアは、説明の為に広げていたカラーコインをしまう。


「後はいつフェルタリアに向かうかだ」

「出来る限り急いだ方がいいだろうな。奴らは欲しいものの大半を手に入れたのだろうし、何よりこの脅迫文のこともある」

「そうだね。でも逆に言えば、奴らは龍を欲しているんだから、僕らが行くというのは敵にとっては有難いことかも知れないのだけれど」

「だがこの大陸をゾンビで溢れさせるわけにはいかない。それに奴らのことだ、直接俺達を狙ってくる可能性もある」

「可能性じゃなくて、確実に、だろうけどね。特に僕は龍のパートナーであると同時にアテナのコントローラーでもある。パーティには必ず招待されるだろうさ」


 ハハッと乾いた声で笑うテメレイア。

 彼女だって、気丈に振る舞ってはいるけれど、ある意味切羽詰っているはずなのだ。

 大切な親友と、自分自身が狙われているという恐怖を自覚しているのだから。


「フェルタリアへの入場許可はステイリィ氏に依頼すればいいな?」

「ああ。頼む。ステイリィならきっとすぐに許可を出してくれるさ」

「汽車の手配は今すぐにすれば明日の朝には利用できるはずだ。何、ワシの鑑定士としての信頼と実力を賭けてやってみよう」


 ナムルが腕を叩いて、任せろと言ってくれる。


「ありがとう、ナムル、そしてサグマール」


 この二人には本当に頭が上がらない。

 今まで鑑定士を続けてきて、二人に世話にならない時は無かった。


「ウェイル、二人は本当に良い先輩だね!」

「だな」


 フレスの台詞に、微笑んで同意したウェイルであった。


 そんな時である。


「ちょ、ちょっとお待ちください! まだ入場許可は出ていませんよ!!」

「これ以上勝手な行動をとるのであれば治安局への通報もあります!」


「……何なんだ?」


 やけに廊下が騒がしい。

 何事かと、代表してギルパーニャが様子を見に、扉を開けて外に顔出すと。


「う、うぎゃああああ!!」


 ドンと思いっきり扉が開かれ、軽いギルパーニャは吹っ飛ばされてしまう。


「ギル、大丈夫!?」

「イテテテテ、うん、フレス、ありがと。でも一体なんなんだよ……」


 扉を開き、ギルパーニャを吹っ飛ばした張本人が、二人の横を通過する。


「ちょっと君! ギルに何する――――え…………ええええええ!?」


 その張本人の姿を見て、ウェイルやフレスは驚きを隠せなかった。


「な、なんで、どうして……!?」


 その者は赤く長い髪をたなびかせて。


「えっと……君は確か、フレスちゃんとミルのお仲間さん、だよね」

「お主、一体どうしてここへ!?」


 部屋に入るなり、赤い翼を出現させて、大きくはためかせた。


「――サラー!?」


 騒ぎを起こしながら現れたのは、赤い髪を携える炎の龍の少女――サラーであった。


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