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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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二十年振りの再会


 テメレイアの鑑定結果に、一同息を飲み沈黙している中、能天気な声と共にギルパーニャとシュラディンがやっていた。

 流石にこれ以上の人数が一部屋には厳しいということで、あの場をテメレイアに任せて、今来た二人はフレスの部屋へと案内する。


「お前がワシに電信を送ってくる時は大抵面倒事な時だ。今回もそうなのだろう?」


 スキンヘッドの頭を撫でながら、シュラディンがやれやれと聞いてくる。


「実に申し訳ないが、その通りなんだ。協力して欲しいことがある」

「判ったよ。可愛い弟子の為だ。そうだ、ギル、あれを」

「はーい! はい、ウェイル兄! これが欲しかったんでしょ?」


 ギルパーニャは小さい巾着袋から、コロンとカラーコインのレプリカを取り出すと、ウェイルに手渡した。


「ねぇ、フレス。どうして急にこれが要ることになったの?」

「う~ん、説明すれば長いんだけどね。後で話すよ……」

「絶対だよ? 約束だよ?」

「うん、約束。…………」


 そうは言うものの、なんだかフレスの反応は上の空。


「フレス?」


 ギルパーニャは「何かあったの?」とフレスの視線を追ってみると、どうしてかそこには我が師匠、シュラディンの姿が。


「師匠がどうかしたの?」

「え!? えっと、……うん」


 困ったように、もじもじと指をくねらせるフレスの態度に、事情を知らぬ二人は不審そうな顔を浮かべていた。


「フレス」


 ウェイルは彼女の名前だけを言う。

 それだけでウェイルが何を言いたいか、フレスは理解出来ていた。

 意を決して、フレスは口を開いた。


「あのね、……お久しぶりだね。…………――オジサン」

「――――ッ!?」


 そのフレスの一言で、シュラディンはおおよその事が理解出来ていた。


「ふ、フレス……!! その呼び方は……!! お前さん、まさか……!!」

「オジサン、ボク、思い出したよ。全部、思い出したんだ……!!」


 ジワリとフレスの瞳に涙が浮かぶ。


「オジサン、会いたかったんだよ……!! ずっとずっと……!! そしてお礼を言いたかったんだ。ありがとうって……!!」

「フレス嬢ちゃん……!! ワシの方こそ……! ずっと謝りたいと思っていた……!! 嬢ちゃんを、そしてライラを守れなくてすまないと……!!」

「オジサンは悪くないよ! ボクが、ボクに力が足りなかったんだ……!! オジサン、オジサン……!!」


 もう我慢できぬと、感極まったフレスはシュラディンに思いっきり抱きついた。

 流れ出す涙も鼻水も拭うことをせず、ただひたすらにシュラディンへと抱きつき、そして「ありがとう」と呟き続けていたのだった。

 そんなフレスを、シュラディンはとても優しい顔を浮かべて、頭を撫でてやっていた。


「ええええ!?!?!? 一体何事!? どうしたの!? フレス!? 師匠!?」

「ギル、今はそっとしておいてやれ」

「でもウェイル兄!? 私意味が判らな――うぐ!?」

「いいから静かにしてろ」

「うぐぐぐぐ……」


 こうしてフレスは、二十年振りに、シュラディンと再会を果たすことが出来た。

 シュラディンの瞳に浮かんだ涙を、弟子二人は見ないように配慮して、こっそりと互いに窓からの景色を楽しんだのだった。







 ――○●○●○●――







「実はフレスの封印はワシが行ったのだ。まさか我が弟子がその封印を解いてしまうとは思わなんだが」

「そうなの!? オジサンが封印したの!?」

「お前はライラを失った悲しみで我を忘れて、己の限界を超えた魔力を放出したんだ。あのままでは死は避けられんかった。助けるには封印を施して、傷を癒すしかなかった。あの黒い龍が教えてくれたことだ」

「ニーズへッグが……!?」


 ニーズヘッグが、フレスを助けた……?

 あの時、明確に自分の前に敵として立ち塞がった彼女が、一体何故?


「そうだ。その子の指示がなければ、おそらくフレスも今ここでこうして笑ってはおれんかっただろう。封印の後遺症として、記憶の一部が欠けると、その子は言っておった」

「……ボク、全然記憶にないよ」


 記憶の破損。

 今までも何度か大切なことを思い出してきた。

 つまりそれが破損場所。

 ニーズヘッグに助けられたことも、破損している記憶だ。


「あまり良い記憶じゃない。忘れたままいた方が幸せだったかも知れん。ワシのことを含めてな。だがフレスはこうして思い出してくれた。ワシはそのことがとても嬉しいぞ」

「オジサン……!! うん、ボクも思い出せてよかったよ! ……あんまり実感は沸かないけど、二十年振りなんだよね」

「そうさ。二十年振りだ。長かったよ」


「に、二十年……!? フレスと師匠って、そんなに昔からの知り合いだったの!?」


 フレスが龍であることは、すでにギルパーニャも知っている。

 故にフレスが見かけ以上に年齢を取っていることも十分承知であったのだが、まさかシュラディンと接点があるとは想像すらしておらず、かなり動揺し驚いていた。


「シュラディンオジサンはね、ずっとボクと、そしてライラって子の為に頑張ってくれてたんだよ。オジサンが師匠だなんて、ギルは本当に幸せ者だね」

「えっと、そうかなぁ、エヘヘ……」


 自分の師匠が褒められるのは何とも気分が良い。

 思わずウェイルも頬が緩む。


「まあボクにはオジサンよりもっといい師匠がいるからね!」

「褒めすぎだ」


 ひしっと腕に抱きついてくるフレス。

 これまた不思議と気分が良い。


「ウェイルよ。礼を言う。よくぞフレス嬢ちゃんをしっかりと面倒見てくれた。まさかプロにまでしてしまうとは思わなんだが」

「俺の大切な弟子だからな。当然だよ。それに俺は師匠のやり方を真似しただけだ。俺の師匠が良かった。そういうことさ」

「ふん、言うようになりおったな」


 拳と拳をコツンとぶつけて、互いにニヤリと笑いあった。


「ウェイルよ。用事と言うのは、この事だけか? ワシにとっては非常に年甲斐もなく心湧き上がった嬉しい用事だったが、お前さんのこと、これだけではなかろうて」

「ご明察。実は俺もある程度の記憶を辿ることが出来てな。師匠に訊きたいことがある」

「……それはフェルタリアの事だな?」

「ああ」


 ――ついにこの時が来たか。


 ――と、シュラディンの顔はそう言っているような気がした。


「よかろう。全てを話そう。ワシが耳にし目にしたこと、全てをだ」

「少し待ってくれ。その話を聞かせなければならない奴を連れてくる」


 ギルパーニャをウェイルの部屋へと移して、代わりにテメレイアを呼び出した。


「光栄だね。ウェイルのお師匠様と会えるだなんて。……実は会うのは二度目だけどね。婚約するときは、この方に挨拶しに行けば良いのかい?」


 開口一番、テメレイアはとんでもないことを言う。


「変な冗談は寄せ。凍るぞ。これは変な冗談じゃなくな」

「むぅ……!!」


 妙に背中に寒気がするのは、おそらく気のせいではない。



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