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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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三種の神器『異次元反響砲フェルタクス』


「まあレプリカがあるから鑑定は可能だと思う。……思う」

「だ、大丈夫だってば! 私はセルク作品のトレースだけは上手いんだからさ!」

「まさか贋作士の腕を信頼しなければならない日が来るとはな……」

「たぶん盗み出したのはイドゥ達だと思うよ? 欲しがってたしさ」


 フロリア曰く、『異端児』は『セルク・ラグナロク』も求めていたそうで、フロリアに持ってくるように命令していたという。

 正直なところ、アレスの元へ一度戻った時から、フロリアは『異端児』を裏切るつもりだったようで、その命令を聞くことはなかったのだが、いつまで経っても持ってこないフロリアの様子にしびれを切らしたのか、結局彼らは直接奪いに来たようだった。

 そんなわけで話は全てこのフロリアが作った贋作の『セルク・ラグナロク』を用いて解析を行わなければならない。


「『異端児』も欲していた。ということは、やはりこの絵には何か秘密があると見て間違いなさそうだ」

「だね。ならフロリアの腕を信用するとして、この絵画に描かれた謎を一つ一つ解いていこうか」


 テメレイアは独自の鑑定結果をまとめ始めた。


「まずこの絵画に描かれているのは、五体の龍。そして剣と大砲と、女神だ。これらの要素について、おそらく僕達はおおよその解答に近い想像が立てられる」

「五体の龍っていうのは、間違いなくボクらのことだよね」


 絵画の中央に向かって集まる五体の龍。

 色もそれぞれ赤、青、緑、黄、紫。


「青がボクでミルが緑、サラーが赤でニーズヘッグが紫。そしてティアが黄色。全て一致するよ」

「そして剣や女神、大砲はおそらく三種の神器の事だ」


 三種の神器の一つ、『創世楽器アテナ』は、女神アテナを象った巨大な像型の神器だ。

 それを女神と当てはめると、同じく三種の神器の一つ『心破剣ケルキューレ』も、この剣ということになる。


「余った最後の一つ。大砲は『異次元反響砲フェルタクス』のことだ。間違いないよ」


 過去の記憶の戻ったフレスが、そう断言した。

 実際にフレスはこの神器を見たことはないが、そういう気がしたのだ。

 見れば後ろでニーズヘッグが頷いている。

 彼女は見たことがあるだろうし、間違いはないだろう。


「この絵画についてセルクは何も解答をしていない。ブログの中にも書いてはいない。だけど、ヒントだけは残されている。カラーコインもといサウンドコインの事も、ここには書かれているね」


 『セルク・ブログ』には色についての暗示がある。

 これがカラーコインについての事だと当てはめると、今度はカラーコインに記されている詩が意味を持ってくる。


「『セルク・ブログ』の『序』はセルクの想いが書かれているだけだった。次の『破』は三種の神器の在処が書かれている」


 『序』はまさしくテメレイアの言う通りで、実際には何の意味もない。


 『破』については具体的な地名まで書かれていた。

 事実ケルキューレはラインレピアにあったし、アテナはハンダウクルクスにあった(ハンダウクルクスが存在する土地は、昔ルクソンマテアという地名だった)。

 そして最後のフェルタクスは、ウェイルの故郷フェルタリアに存在した。

 つまり『破』は三種の神器の在処を完全に言い当てたということになる。

「問題は次の『急』だ」


 ――セルク・ブログ 『急』――


 女は愛を、聖は鍵に、神たる龍を糧として。


 邪は動き出す。

 邪の操作には七色と、鍵たる一色を用いる。

 邪は楽器に近い。

 その音色の根源は、世界を彩る七色と、この世を覆う闇である。


 我はその七色と一色を盗み出して、この大陸の各地へ隠した。

 七色の音色には歌がある。

 至る終焉への讃美歌だ。

 フェルタリアに伝わるその歌が、全てのプロローグになるはずだ。


 女は地下に、邪は城に隠してある。

 女は女神の姿にて、魔力の全てを司る。


 邪は大砲。

 世界に破滅をもたらすだろう。


 聖の剣は、ラインレピアの五つの鐘が、同時に、強烈に響き渡る時、現れる。


 邪を動かすために、龍が犠牲となるだろう。

 時計の鐘を必要以上に鳴らしてはならない。


 邪の者が、目覚めてしまうだろうから。



「セルクっていう天才は、思いの外素直な性格だったのかも知れないね。だってこの詩は、今の僕らが見ればほとんどそのまま理解出来るものなのだから」

「邪の操作には七色と鍵たる一色がいる。これはつまり7+1では8枚のカラーコインが必要ということだな。これがあれば邪を制御できる。そして邪というのはフェルタクスのことだ」

「最初にある女は愛、聖は鍵って、これアテナとケルキューレのことだよね。後半に聖の剣ってあるから、間違いないと思う。三種の神器であるという暗示だろうな」

「まとめよう。ここまでの情報から察するに、最後の三種の神器『フェルタクス』ってのは世界を滅ぼす力を持つ大砲ということ。そしてそれを制御するためには、鍵たるケルキューレとアテナ、そしてカラーコインが必要不可欠ということだね」

「ああ、俺は昔フェルタリアが目の前で滅ぶのを見た。ショックが大きすぎて詳しくは思い出せないが、あれはフェルタクスのものだろう。師匠が来ればもっと判るんだけどな……!!」

「シュラディンさんはすでに呼んでいるのだろう? だったらすぐに来てくれるはずさ」


 そしてテメレイアは一つの封筒を取り出した。


「これを覚えているかい? ウェイル」

「『インペリアル手稿』の解読メモだな?」

「正解」

「え!? あのインペリアル手稿を解読したの!?!?」


 しれっと二人は流したが、これにはアムステリアやフロリア達、イルアリルマまでもが口をあんぐりとさせていた。


(このテメレイアって娘、一体何者なの!?)


(想像をはるか超えた天才がここにいるよ!?)


 まあ大陸最大の謎の一つと言われている代物が、こんなにあっさり解読されているのだ。

 ウェイルだって最初聞いた時は驚いたものだ。

 そんな皆の驚く反応など一切気にせず、テメレイアは続ける。


「セルクはインペリアルに全てを託すと最後に書いている。だからウェイル達がエリクさんを連れに行っている最中は、このメモとブログを照らし合わせていたんだ。そうしたら一つ判ったことがある」

「……何が判ったんだ?」

「……これはね、正直僕も解読していてショックだったんだけどね……。信じられなかったけど、エリクさんの証言を聞いて理解したよ。思えば『不完全』はこのことを知っていたんだね。彼らの解読力も凄まじいものがあるよ」

「レイア、もったいぶらずに早く言ってくれ」

「判った。フレスちゃん、『セルク・ブログ』にはこうあったね。神たる龍を糧にして、と」

「……うん」

「この意味わかるかい?」

「……なんとなく判る気がするよ」


 ――糧。


 以前これを読んだ時も妙に気になった一文字だ。


「インペリアル手稿にはこうあった。フェルタクスの操作にはカラーコインと、そして龍が必要不可欠だと。龍の持つ無限の生命力を、フェルタクスに用いた時、フェルタクスは初めて本当の姿を現すと。そしてこうもあった。フェルタクスを完全に制御するためには、龍を――永遠の眠りにつかせる必要があると」

「えい、えん……?」


 その意味を、一瞬ウェイルは理解出来ないでいた。


「つまりそれって……」

「判らない。これだけではね」

「だが最も判りやすく言えば、それって――死ってことだろう!?」

「判らない。直接的な表現でないから。もしかしたらとても長い封印ということかもしれない。無論、永遠というのだから、数百年どころの騒ぎではないかも知れないだろうけど……」

「……待てよ、『不完全』は龍を欲していたよな……。それにエリク、お前は噂で龍を集めるのは何かを制御する為と、そう聞いたんだな……?」

「……ええ、そうね」


 すでにこの場の皆は予想できている。

 どうして『不完全』が龍を集めていたのかを。


「『不完全』はフェルタクスを制御するつもりだったんだ……!! 龍を犠牲にしてでも……!!」 


 龍を犠牲に。

 それはすなわち、フレスを犠牲にするということ。

 チラリとフレスの方を見る。

 ほんの少しではあるが、フレスの顔には不安の色が差していた。

 フレスを犠牲になんてこと、絶対にさせない。


「『異端児』はフェルタクスを操るつもりなんだな、フロリア!?」

「わ、わからないよ! イドゥは全然何も教えてはくれないんだからさ!」

「だが、『異端児』とかいう連中がケルキューレを手に入れたということは、つまりそういうことなのだろうさ。……となると僕も結構危ないのかな……!!」


 テメレイアは今『アテナ』を操る鍵となる神器を持っている。

 もしフェルタクスの起動に『アテナ』が必要であるならば、テメレイアとて非常に危ない状況にある。

 明確に命を狙われるのは、初めての経験だ。

 いくらテメレイアが天才とはいえ、恐怖を超越しているわけではない。

 全てに気付き、自覚した時、彼女の身体は少し震えていた。


「大丈夫じゃ。レイアはわらわが守る」


 そんなテメレイアの身体を、ミルが後ろからギュッと抱いた。


「わらわはレイアに守ってもらった。次はわらわが守る番じゃ。命に代えても、必ず守り通す」

「…………」


 ――命に代えても。


 その一文に、妙な不安を覚えたテメレイアは、震えは止まったものの、素直に首を縦に振ることが出来なかった。


 そんな時。


 少し乱暴なノックがしたかと思うと、これまた乱暴に扉が開かれた。


「おい、ウェイル、いるか?」

「ウェイル兄! フレス、例のブツ持ってきたよーーーー!! ……あれ? なんだか人がたくさんいる」


 シンと緊張感に満ちた部屋に、呑気な声が響き渡ったのだった。


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