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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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神器『無限地獄の風穴』(コキュートス・ホールゲート)


 フレスの氷で、顔を残して全身を氷漬けにされたティア。


「フレスー、これ冷たいよー」

「知らないよ。しばらくそうしてて」


 あの氷はちょっとやそっとの熱では溶けることはない。

 相殺されたならまだしも、ティアは完全に直撃していた。

 ティアの本気の光でも、少なくとも三十分くらいは拘束できるはずだ。


「ウェイル! テリアさん! 聞いたよね!?」


 すぐさまウェイルの元へと駆け寄る。

 見るとウェイルが剣を投げて、牢屋に隠れていたダンケルクの肩を突き刺していた。


「ウェイル、敵の目的はやっぱり神器だよ。『こきゅーとすなんとかなんとか』だって」

「……もしかして『無限地獄の風穴』コキュートス・ホールゲートか!? 一体どうしてあれを?」

「――へぇ、ティア嬢ちゃんは喋っちゃったか。ま、仕方ないか」

「ダンケルク!?」


 いつの間にか肩に刺さっていた剣が抜かれている。


「痛いからな。いつまでも刺さったままではいられんさ」


 見ると彼の指輪が光っていた。

 どうやらダンケルクの指輪は、幻想を見せ、風を起こし、水を吹き上げ、火を操ることが出来るようだ。


「ダンケルク、まだやる気か?」

「いや、止めておこう。流石の俺も三対一は無理だ。龍もいることだしな」


 よっこいせ、と床に腰を下ろし、ふぅと一息つくと、ポケットから煙草を取り出し、指輪の力で火をつけた。


「ウェイル、ここは禁煙だ、なんて湿気たことを言うなよ?」

「ここは禁煙だ。消せ」

「ホント湿気てんな、お前さんは」


 床にタバコを押し付けて火を消すと、改めてダンケルクは向き直ってきた。


「どうせイドゥは既に目的を達しただろうし、今更何を俺が喋っても状況は変わらん。だから時間がある限り色々と教えてやるよ」

「やけに親切だな」

「可愛い後輩の為だからな」


 クックと笑って、ダンケルクは話し始めた。


「イドゥは『無限地獄の風穴』コキュートス・ホールゲートを狙っていた。理由はよく判らんがな。確かあの神器は死者を操るものだったろ? その能力が何かに必要なんだろうさ」

「……名前を聞くだけでも腹立たしい神器ね……! 私自ら粉々にしてやりたいわ……!!」


 アムステリアはこの神器に大切な幼馴染を冒涜され、妹の人生をぐちゃぐちゃにされた。

 心の底から、『無限地獄の風穴』を憎んでいる。

「治安局があれを処分せずに封印門に封印していたこともムカつくわ……!!」

「あれだけの神器だからな。破壊するのが勿体無いって思う奴が上部にいたんだろうさ」

「ウェイル、私今から封印門へ行ってあのクソッたれ神器をぶち壊してくる!」

「それは止めた方がいい」


 走りはじめようとしたアムステリアを、ダンケルクは制止させた。


「もう手遅れだ。おそらく後数分もしないうちに、『封印門』自体が無くなるはずだ」

「……!? どういうことだ!? 爆弾でも仕掛けたのか!?」

「うんや、うちには一人いるって知ってるだろ? 何もかも溶かしてしまう女がな」


 ダンケルクは立ち上がると、ティアの方へと向かう。

 フレスが魔力を腕に溜めて構えるが、ダンケルクは笑って止めてくれと言ってきた。


「もう俺達はここじゃ何もしない。ティア嬢ちゃんのこれ以上はやるつもりはないだろうさ」

「ぶー、フレスともっとお話ししたかったのに……」

「また今度ゆっくりしろ。どうせ龍達の同窓会がこれから開かれるのだから」

「そうなの!? 楽しみ!」

「おい、ダンケルク、それは一体どういう意味だ!?」

「そのまんまの意味だがな」


 そこまでダンケルクが言った瞬間である。

 ダンケルクの周囲の空間が、ゆらりと歪んだのが目に映った。


「忠告をしておいてやるよ、後輩。一つ目は、龍についてだ。お前さんの大切な弟子は、しっかりと守ってやりな。少しでも隙を見せたら、イドゥはその子を奪っていくぞ。必死で守れ」

「フレスを奪う……!?」

「二つ目。さっさとここから逃げろ。俺達はそろそろ退散する。後輩のドロドロに溶けた姿など見たくないからな。迎えも来たみたいだしな」

「退散……!? まさか、空間転移系の神器!?」

「正解だ。スメラギは容赦しない奴だからな。味方がいようと全力で強酸を打ち放ってくる。早く逃げな。また会おう」


 歪んだ空間はダンケルクとティアを包み込み、光り輝いた後、二人諸共消え去っていた。

 後に残されたウェイル達の耳には、ゴゴゴゴゴゴという何かが押し上がってくる音だけが聞こえてきていた。


「これ、もしかしなくても……!!」

「強酸だよ!?」


 そうこう言っているうちに、『封印門』へ続く階段側から、緑色の酸が、周囲を溶かしながら吹き上がってきていた。


「くそ、フレス、止められないか!?」

「この量、今のボクには厳しいかも……!!」

「なら――」


 ――龍の姿に戻れば。


 そう言おうとして、気が付いた。

 今のフレスの中に、フレスベルグはいない。

 すなわちフレスは龍の姿に戻ることは出来ないのだと。


「逃げるしかない!」

「同感!」

「一応氷で塞ぐことだけはやってみる!!」


 徐々に上がってくる強酸をどうにか止めるべく、フレスは封印門へと続く階段入口に、巨大な氷を精製し、とりあえず応急処置として蓋をした。


「フレス、ここ地下四階は俺達以外、すでに誰もいない! だからここを全て使おう! このフロア全てを凍らせるんだ!」

「判った!」


 じきに氷の蓋は溶かされてしまうはず。

 その前に、このフロア毎氷で封印してしまう必要がある。


「ウェイル、皆の避難は終わった?」

「ああ、やれ!」

「――はぁ!!」


 フレスは両手を床にぺたりとつけた。

 その瞬間である。

 フレスを中心として、ぴきぴきと音を立てながら氷が広がっていく。

 床からは巨大な霜、天井からは隆々としたツララ。

 全ての水分が氷となりて、このフロアを包んでいく。

 時間にして三十秒ほどだ。

 一面銀世界を通り越して、この地下四階全体は、一つの氷の塊となっていた。


「これでかなり時間を稼げる。万が一に備えて、上の人間も避難させないと!」

「急ぎましょう」

「うん!」


 結局、この応急処置が功を制し、大監獄が強酸によって全て溶けてしまうことは無かった。

 大量に湧いて出ていた酸も、フレスの氷が全て吸い込み、地下四階部分で食い止めることが出来ていたそうだ。

 この大事件の影響で、『懲罰門』地下四階部分および『封印門』については、復旧に多大な時間と費用が掛かる様で、しばらくはこのまま封印しておくことにしたらしい。

 大監獄コキュートスから無事脱出した三人は、その後の処理を全て治安局に任せ、後日の任意聴取に応じると約束書きをビャクヤに提出した後、監獄を去ったのだった。




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