暗躍
薄暗い古城の中で一人の男が笑っていた。
「……フフフ、なるほど……あの男がねぇ……」
埃の被る玉座に、躊躇いなく腰を下ろしたその男は、手に持った杯に口をつけた。
「久々に愉快だなぁ……」
嬉しそうに顔を歪めた男はそのまま杯の中の酒を一気に煽る。
「……良い酒だね。ハングスチン産のブドウ酒かな……?」
男は虚空に尋ねる。
人気のない玉座の間に男の声だけが響き渡ると、その刹那、男の前に一人のフードを被るものが現れた。
「……はい。ハングスチン産の最高級のブドウ酒でございます」
フードを被るものは、中性的な声で問いに答える。
玉座の男は満足げに頷く。
「なんて良い酒なんだ。でもこうも美味しく感じるのは、この酒本来の味だけが要因ではないのだろうなぁ。やっぱり酒というのは良いタイミングで、良い知らせを肴にするのが一番美味しいよね」
「『穏健派』の者達の最近の失敗っぷりは見ているだけで愉快でございますな」
フードの者も玉座の男に同調する。
「そうだね。でもこれでようやく『ダイヤモンドヘッド』の入手、そして『龍』が一体手に入るよ。目的に一歩前進しそうかな?」
男は空になった杯を投げ捨て、立ち上がった。
それに対応してフードの男は、玉座の男の前で跪く。
「準備の方、お願いね? 龍相手だと多少戦力不足だから」
「承知いたしました」
男の問いに一瞬たりとも間をおかず即答したフードの者は、そのまま闇へと姿をくらました。
「フフフ、楽しくなってきたね……。さあ、それでは始めようか」
軽い口調で手を上げた男は言い放った。
「裏切り者のイレイズの為の――送別会をね……!!」
たった一人の笑い声が、寂れた古城にこだましていた。