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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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ステイリィの忠告



「さ、次は地下四階だ。そろそろ本番だぜ」

「ネイカムも、あまり楽しそうにしないでくださる? 不謹慎よ」

「アルセットは堅すぎるぞ。仕事は楽しくしなくちゃな」


 ガハハハハハと笑うネイカム。

 だがその笑いは、ズズズと響いてくる足音にかき消されていった。


「何か来る……!!」


 そして巨大階段の方から現れたのは――


「地下四階の囚人達!? これほどの数なんて聞いていないわ!?」


 ――大人数の群れとなった囚人達であった。


「総員、囚人達の確保に移れ! 一人たりとも逃がすな!」


 ラクサールの指示で部下達はすぐさま確保へと乗り出すが、なにぶん数が多すぎる。

 たった三十人ぽっちの部下達では対応出来るはずもない。


「いいか! 一人でも逃がしたら、お前らはクビだ! 死ぬ気で捕まえろ!!」

「そ、そうは言われましても……!!」


 数の暴力に押し負け、また囚人達も一人一人が凶悪とあって、彼らの手に負えるような状況ではなかった。

 結果として捕まえることが出来たのはほんの数人。


「何という様だ! 情けない!」


 ラクサールが憤慨し、部下の顔を殴っている。


「ラクサール、お止めなさい!」

「まあまあ、アルセット、ラクサールも落ち着いて」


 またもや部下を放置して口論を始めた『ネクスト』の三人。


「……あいつら、みんな変な奴だな……」


 ステイリィにそう呟かれている始末である。


「しかし見たか? 今の囚人達の顔を」


 ステイリィが部下の一人に尋ねる。


「え、ええ、みんななんだか必死でしたね……。恐怖に顔を引きつらせていました……」

「……この下に、何かあるんだ。そもそも地下四階にいた囚人達だよ。かなりの場数を踏んだ凶悪犯罪者達だ。そんな囚人が顔を引きつらせるほどの恐怖を覚えるなんて、想像を絶することがあったんだ。みんな、ここから動かない方が良い。この下へは降りちゃダメだ」


 ここに侵入したテロリストの力を、甘く見ては死を見る。

 ウェイルはテロリストに心当たりがあると言っている。

 ウェイルがマークしている程の連中だ。今の戦力では到底太刀打ちなど出来ないだろう。


「さ、下に行こうぜ。逃げた囚人は上で誰かが捕まえているさ」

「……仕方ない、テロリストの確保が最優先だ。行くぞ」

「言いたいことは山ほどありますけど、そうですね。先を急ぎましょう」


 『ネクスト』の三人が部下を引き連れて階段へと向かい始めた。


「待て! 行かない方がいい!!」


 そんな三人に対し、ステイリィは大声で叫ぶ。


「ステイリィ殿? どうしたって言うの?」


 ネイカムが振り返り、そう訊ねてきた。


「テロリストを甘く見るな。奴らはかなり手強い神器を持っているはず。この戦力でこの先に行くのは自ら殺されに行くようなものだ!!」


 あまり他人に忠告などしないステイリィだが、この時ばかりは心の底から彼らを想い、そう叫んだ。

 ステイリィの感が告げている。この下に降りるのはまずいと。

 ひしひしと身体全体が震えるほどに。

 だがそんなステイリィの忠告を、ラクサールは鼻で笑った。


「英雄と呼ばれる人間が、そんなに臆病者とは知らなかったね」

「別に私は英雄なんかじゃない! いいから援軍を待て!」

「あのー、ステイリィさん、お言葉を返すようで悪いですが、敵に対してこの戦力、というのはちと我々『ネクスト』を馬鹿にしていませんか? 我々は幼少より神器に関しての知識を身につけ、実践形式の訓練も毎日のようにこなしている。正直、敵がどんな奴であろうとも、我々が負けるようなビジョンは見えない」

「お前らのそれは全部訓練だろう。実践経験はあるのか!?」

「ありますよ。そりゃステイリィ殿のように勲章を大量に頂いているわけではありませんがね」

「ネイカム、時間の無駄だ。あの女は放って先に行くぞ」

「だな」

「アルセットとか言う女! 二人を止めろ! 二人だけでなく、部下達も死ぬぞ!!」

「…………」


 聞く耳を持たぬ男二人に対し、アルセットは少し黙って思案していた。


「おい、アルセット、行くぞ」

「…………ええ。行くわ」

「アルセット!! 考え直せ!!」

「ステイリィ上官。貴方が私の心配をしてくれるのは判ります。ですが、私は十六人会議に入らなければならないのです。治安局の方向性を正すために。そのためには何が何でも手柄をあげねばならないのです。ここで臆していては、二人に先を越されます」

「命を投げ出してまで出世を望むのか!? 死んだら元も子もない!」

「判っております。ですが我々は死にません。我々は『ネクスト』。治安局の中でも『セイクリッド』と並ぶ超エリート集団です。必ずや手柄をひっさげて戻って参ります。……ですがステイリィさんの忠告も、心に刻み込んでおきます。ありがとうございます。部下の皆さん、これより下は、ついてきて下さる方だけついてきて下さい」


 アルセットは部下にそう指示すると、もう話は終わりだと言わんばかりに、二人を追いかけて地下四階へと下りていった。

 数人がその場に残り、ステイリィの元へとやってくる。


「ステイリィ上官、正直な話、ラクサール上官とネイカム上官はどうでも良いのです。ですがアルセット上官だけは、なんとしてもお守りしたい。力を貸しては下さいませんか?」

「お前達……」

「アルセット上官は治安局内部の腐敗を取り除くと、その為だけに『ネクスト』に入られたお方です。最高の上司になって下さると我々も心から信じております。ですからどうか……!!」


 彼らの気持ちは分からなくもない。

 ラクサールの横暴な態度に、しっかりとした正論をぶつけていくアルセットは、間違いなく良い人間だ。

 だからこそ助けたいとは思うが、今の戦力では救出するのも難しい。


「……クソッ、どうすれば……!!」


 三人を止められなかった不甲斐なさから、拳を握りしめた、その時。


「ボク達に任せてよ、ステさん」

「話は聞かせてもらった。良いとこあるじゃないか、ステイリィ」

「フレス!? それにウェイルさんも!? ……うう、ウェイルさん!!」


 唐突に現れたウェイル達に、思わず嬉しさのあまり抱きついた。


「助けて、ウェイルさん……!! このままじゃあの馬鹿達が死んじゃうよ!!」

「ああ、『ネクスト』っていう連中は、案外馬鹿ばかりなんだな。実戦経験が無いのが目に見えて判る」

「そういえばどうやってここに!? 囚人達がごった返していたでしょ!?」

「ああ、囚人のことなら問題ない。何せ上の階にはあの二人がついているからな――――」



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