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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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ティアの地獄鬼ごっこ


 ――懲罰門 地下四階。


「さて、ここの囚人達の感覚を使わせて貰おう」


 地下四階に収容されているのは、コキュートス屈指の極悪犯罪者。

 中にはかつての仲間もいるが、関係なく利用させてもらうことにする。


「ルシカ、やってくれ」

「判りました!」


 ルシカの胸のペンダントが輝いていく。

 瞬間、この場にいるルシカ以外の皆に暗黒が訪れた。


「ふわああああああああ!! 感じる、ああ、感じます……!!」


 妙に艶っぽい息を吐きながら、ルシカは感覚を一心に受け止め、全てを感じていく。


「……感じました……!!」


 光が戻り、視界が開けていく。


「しかし何度やっても慣れん。気持ちが悪すぎる」


 ルシカの神器は、彼女の周囲にいる者の感覚を一時的に全て奪い去り、己の感覚にしてしまうという能力を持っている。

 これにより魅力を感じる力――魅覚を強化し、目的のモノを探すことが出来る。


「やっぱりこの地下ですね。最初の予想通り、『封印門』にありそうです」

「『封印門』か。厄介だな……」

「厄介と言えば、すでに上の階に追っ手が来てますよ。結構な人数ですし、動きを見るに素人ではないみたいでした」

「人数? どのくらい?」


 くいくいと袖を引っ張ってきながらスメラギが訊ねてくる。


「混乱した囚人達もいたから詳しい数は判らなかったけど、でも30人以上はいますね」

「いっぱい人いるー? 殺せるー?」


 無邪気にそう言うティアは、とりあえず置いておくとして。


「面倒な人数だな……。『封印門』にも多くの局員がいるだろうし、援軍と合流されるのはまずい」

「だな。ならばここからは別々に行こうか。俺とスメラギは追っ手をやる。イドゥさん、ルシカ、ティアは先に行け」

「えー、ティア、殺したいよー」


 ダンケルクの提案に不服なのか、ティアは口を3の形にして文句を垂れた。


「ティア嬢ちゃん、心配しなくても今からも自由にやれるって」

「でも! ティアもう我慢できないよ!? だってここに来るまでずっとスメラギとダンケルクが看守を殺してたじゃない! ずるいよ! ティアもやりたい!」

「あんまり駄々をこねなさんな」

「ティアもやりたいティアもやりたい!」

「困ったな……」


 ティアのワガママには困ったものだが、彼女の気分を害すると任務に支障が出るのも事実。

 どうしたものかと、ふと周囲を見渡したイドゥの目に映ったもの。


「そうだ、嬢ちゃん、ここの牢屋を全部ぶっ壊したらいい」

「イドゥさん? 何を?」


 何をする気だと言わんばかりに、ルシカはイドゥの方を見た。


「嬢ちゃん、ここの牢屋を全部ぶっ壊したら、今度はその囚人達を一人一人ぶち殺して良い。ただし、殺すのはゆっくり楽しみながらやりなさい」

「いいの!? うん、ティアやるよ!!」


 嬉々とした表情を浮かべてティアは翼を出現させて宙を舞うと、その翼に光を溜始めた。


「イドゥさん? どういうことですか?」

「何、囚人達にはこれから逃げ回ってもらう。それだけだ。ティアが一人一人じっくり殺すというのだから、皆の恐怖は凄まじいはず。全員出口に向けて殺到するだろう。ならば追っ手も中々ここまで辿りつけんだろうて」

「なるほど。そういうことですか」


 実は一階から三階までも、いくつか牢屋を破壊して来たのだが、追っ手がかなりやる手なのかあまり期待した効果を上げることは出来なかった。

 だがこの度に関して言えば、囚人達には己の命の危機が迫っている。

 命の危機が迫った人間は、時として想像を絶する力を発揮する。

 それを出口方面へと向けてくれたならば、かなりの時間は稼げるはずだ。


「一応ダンケルクは残ってくれるか? 追っ手が来たときにまだ事が終わってなければ足止めを頼みたい」

「任せておけ」


 ダンケルクが頷くと、それ以外の皆は、『封印門』に向かって走り出した。


「さて、ティアちゃん、やっちゃってくれ!」

「はーい! いくよー!」


 ティアは掛け声と共に、翼に溜まった光を放出し始めた。

 光の塊は、完璧なコントロールで各種牢屋の鉄格子を破壊していく。


「……一体何が起こったんだ……!?」


 深夜と言うことで就寝中であった囚人達が、一斉に起き出して今の状況を知る。


「牢屋が破壊されている……!?」


 ぞろぞろと牢屋から出てきた囚人達。

 そこにティアが楽しげに大声で叫んだ。


「みんな~、よ~く聞いてね~! これからティアと鬼ごっこするよ~♪ 捕まった人は、地獄に行っちゃうよ~♪」

「な、なんなんだ、あれは……?」

「意味が分からんぞ!?」


 ティアの台詞にざわつき始める囚人達。

 混乱しているのだろうが、そんな事は一切ティアには関係が無かった。


「つっかまえた!」


 すぐ近くの牢屋から、ノロノロと出てきた囚人の肩をティアがタッチ。


「あん? なんだお前は?」


 深夜に起こされたとあって、少し不機嫌気味な厳つい囚人だった。


「ティアはティアだよ! それよりもオジサン、アウトー!」

「てめぇ、一体何をして――」


 台詞を言い終わる前に、その囚人は事切れていた。

 ティアが彼の内蔵を腕を突っ込んで引きずり出していたからだ。


「みんな~、頑張って逃げてね~! ティアにタッチされたらこうなっちゃうよ~!」


「「「「な……!? う、うわああああああああああああああああ!?」」」」


 そのおぞましい光景を見た囚人達は、一斉に走り始めた。

 それはティアを中心とした鬼ごっこの様に。


「お~い、ティアちゃんよ、イドゥはゆっくりやれって言ってただろ?」

「あ! そうだった、ごめんごめん。ちょっと興奮しちゃって一気にやっちゃったよ! 次から気をつける!」


 内蔵を投げ捨てて、ティアは翼を光らせながら飛翔し、囚人達へと向かっていった。


「やれやれ、しばらく殺戮ショーでも楽しみますか」


 床に腰を下ろして、ダンケルクはティア主催の鬼ごっこを鑑賞することにしたのだった。




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