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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
430/500

皆が皆、好きで出世しているわけではない。

 大監獄をわずか5人足らずで侵入した、危険極まりないテロリストの正体。

 それは――


「間違いなく『異端児』の連中だ……!」


 運河都市ラインレピアに壊滅的被害をもたらせた犯罪集団。

 そのメンバーがこの都市に入り込み、そして大監獄を荒らしている。

 奴らが関わっていると知った以上、ウェイルに放っておくという選択肢はない。


「ウェイル、どうするの!?」

「どうもこうも、奴らの情報は何を差し置いても手に入れなければならない。行くしかないだろう」

「だね。カラーコインも取り返さないといけないし!」

「あ、あのー、ウェイルさん? 犯人達を知っているのですか?」


 ウェイルとフレスの間に、「ちょっと失礼」とばかりに小さく手を上げ、おずおずと入ってきたステイリィ。

 嫌な予感が当たり、冷や汗をかくウェイル達二人に対し、何故か何も知らぬはずのステイリィも冷や汗をかいている。


「……もしかして犯人に心当たりがお有りで?」

「ああ。俺達は今回のテロの犯人を知っている。間違いは無い」

「あ、あー、やっぱそうですよねー。いやー、たはははは」


 変な乾いた声で笑うステイリィ。なんだか様子がおかしい。


「す、ステイリィ? どうしたんだ?」

「えっと、えー、なんでもないですー」


 不自然な笑顔と、このステイリィの態度。

 これは何か変なことを思っているに違いない。


「ステイリィ、俺達はプロ鑑定士権限で監獄への突入を行う。犯人は贋作士だ。贋作士の相手は俺達の領分だからな。他の局員達への連絡を頼む」

「え!? や、止めておいた方がいいですよ! 危険ですから!」

「誰が行っても危険だろう。俺達は敵の神器をある程度把握している。俺達の方が下手な治安局員よりも戦力になるしな。俺達はその為の権限も持っている。心配するな、治安局に迷惑はかけん」

「いや、そういう問題ではなくてですね……」


 妙に歯切れの悪いステイリィに、ウェイルも業を煮やしたのか、


「頼む、ステイリィ」

「――ひゃん!?」


 グッと彼女の両手を握り、顔を近づけた。


「うぇ、うぇ、うぇ、ウェイルさん!?」

「俺達は何が何でも今回のテロリストから情報を手に入れなければならないんだ。ステイリィ、俺に協力してくれないか?」


 真剣な表情のウェイルの顔が、目の前にドアップである。

 これにはウェイルゾッコンのステイリィも首を縦に振らざるを得ない。


「ありがとう、ステイリィ。フレス、俺は先に監獄へと向かう。飛んでアムステリア達を呼びに行ってはくれないか? 監獄入り口で集合だ」

「がってん、師匠! 任せておいて!」


 用事は済んだとばかりに、嵐のようにウェイル達は治安局支部から去って行った。


「きゅ~ん……」

「上官って、結構純情なんですねぇ……」


 ウェイルの顔ドアップのせいで思考が異世界へとトリップしているステイリィに、様子をずっと窺っていたビャクヤが嘆息を一つ。


「やっぱりあの人は天然ジゴロですね……」


 本日三回目は、ウェイルの知らないところで言われていたのであった。








 ――●○●○●○――







「――はっ!? 幸せすぎて死にそうだった……!!」

「ようやくお目覚めですか。トリップしてから丁度10分ですね」

「10分も!? で、ウェイルさん達は!?」

「もう監獄へと行っちゃいましたよ」

「なんですと!?」

「上官、どうしてさっきはあんなに変な態度を?」

「そりゃ変な態度にもなるってば! だってあのウェイルさん達だよ!?」

「はぁ、それが?」

「あの人達が近くにいると言うことは……事件を解決してしまうということ……!!」

「……それが上官にどういう影響が?」

「出世してしまうんだよ! ウェイルさんの近くにいると、その手柄が何故かいつも私の所に転がってくるんだから!!」

「……ああー、なるほどー」

「うわあああああ、だめだあああああ、出世してしまううううううう!!」

「最悪な叫びですよ、それ。ネクストの人達が聞いたら上官、殺されちゃいますよ」

 

 ステイリィが今の地位にいるのも、元はといえば全てウェイルのおかげ(もといウェイルのせい)なのである。

 ステイリィはひしひしと感じていた。

 このままでは、確実に、自分はさらなる出世を遂げてしまうことになると。


「――逃げよう」


「――は?」


「だから逃げるんだよ! ウェイルさんの手柄が私に降り注いでこないところまで!」

「何馬鹿なこと言ってるんですか? 今は一大事なんですよ? 上官は英雄扱いなんですから、どのみち駆り出されますって」

「いーや、逃げる! 今すぐにソクソマハーツに帰る! 帰るったら帰る!」

「子供ですか……」


 ビャクヤが呆れてそう呟いた瞬間である。

 バタンと扉が力強く開かれ、屈強な男局員達がズラズラと入ってきた。


「「「「ステイリィ上官、お迎えに参りました!!」」」


「もう来た!?」

「我々は本部よりステイリィ上官の補佐をせよとの命令を受けて参りました。英雄である上官の下で働けることを幸せに思います!」

「あ、ああ……ビャクヤぁ……」

「上官、もう諦めて出世したらどうですか?」

「本部よりの通達です! ステイリィ上官はすぐさま大監獄『コキュートス』へと向かい、事態の収拾に努めるようにとのレイリゴア氏直々の命にございます! 我々が上官の安全をお守りいたします。早速行きましょう!」

「い、嫌だ、行きたくない――――うわっ!? な、何をする!?」


 ひょいと男局員に担ぎ上げられたステイリィは、そのまま馬車に乗せられる。


「上官! 聞きましたよ、あの『ネクスト』の連中と出世を掛けて争っていると! 正直な気持ちを申し上げますと、我々は皆ステイリィ上官を応援しております! あのネクストの奴らはどうにも好きにはなれません! 是非我らの代表にはステイリィ上官になって頂かなければ! その為には何だっていたします!」

「しなくていいって! 出世する気は無いの!」

「な、なんと遠慮深いお方……!! 『ネクスト』の連中に爪の垢を煎じて飲ませたいほど、上官は謙虚な方のですね! ますます我々、上官のために働きたく存じます!」

「どうしてそういう風に解釈するの!? って、うわああああああ――」


 ステイリィの悲鳴と共に馬車は出発していく。

 その光景を白けた目で見送るビャクヤ達一行はというと。


「……行っちゃいましたね」

「ビャクヤさんはどうされます?」

「一応追いかけます。皆さんはここにいて下さい。私は鑑定士さん達と合流しようかと思います。鑑定士さん達と一緒にいると、手柄が手に入るそうですから」

「……結構黒いんですね」

「むしろ真っ白な上官があの地位にいることがおかしいだけです」


 ということで、一足遅れてビャクヤも監獄へと向かうことにしたのだった。



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