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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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大監獄『コキュートス』

 当初の目的であるシュラディンへの電信を打ち終えて。


「帰るか」

「そうしましょう! 今日は寝かせませんよ?」

「一人で起きてろ」

「ならボクと一緒に」

「一人で寝な」


 そんなことを言い合いながら宿へ帰ろうとした、その時であった。


「た、た、た、大変です!!」


 一人の治安局員が雨で身体をびしゃびしゃしながら、血相を変えてこの支部へと駆け込んでくる。

 入るや否や床に手をついて肩で息をする辺り、全力で走ってきたのだろう。

 この雨の中、雨具も付けずに走ってくるなど、何かとてつもない事件が起きたに違いない。

 ウェイルの感がそう告げていた。


「一体どうしたんですか?」


 ビャクヤがさっとタオルをその局員に手渡しながら、何が起きたのかを訊く。


「ぜぇ、ぜぇ……、か、か、監獄、が……!!」

「監獄? コキュートスのこと? それがどした?」

「あ、貴方はステイリィ上官!?」


 自分の顔を覗いてきたのが伝説的な英雄であるためか、その局員は驚きの余り声が裏返っていた。


「ど、どうしてここに!?」

「私のことはいいから、何があったか言え」

「そ、そうでした。大監獄『コキュートス』がテロリストに攻撃されたんです!! 私はコキュートス周辺で警護しており、周辺住民への外出禁止命令を叫んで回っていました!!」

「コキュートスが!? テロリストに!?」

「外出禁止令が出たってことは……状況はかなりまずいですね……!!」


 ――大監獄『コキュートス』。


 アレクアテナ大陸にて犯罪を犯した者が収容される施設であり、ここを監視・守護するために治安局本部が置かれていると言っても過言ではないほどの、治安上超重要施設である。

 偶然にも先程ウェイル達が訪れていたあの場所が、今はテロリストの標的になっている。

 巻き込まれ体質のウェイルのこと、嫌な予感しか覚えない。


「本部より電信が入りました!」


 支部の局員が電信のメッセージを持って走ってきた。


「本部より詳しい情報が入りました! 読み上げます! 本日午後11時半、大監獄『コキュートス』にテロリストが侵入しました! 現在の被害者は12名。うち局員は5名。敵の数は――5名!?」


 読み上げていた局員も、テロリストの人数の少なさに驚きのあまり声がうわずる。


「敵はすでに監獄内の『更生門』を突破した模様! 現在『懲罰門』に侵入したとのこと! 敵の武器は神器のようですが、詳細はまだ何も判っておりません!」

「もう『更生門』を突破しているのですか……。敵は生半可な戦力ではないのでしょうね。5人と言う数から考えても、相当強力な神器を持っているに違いありません」

「ねぇ、ウェイル。『こうせいもん』って何?」

「『更生門』というのはだな――」


 ウェイルは監獄のことを詳しく説明し始めた。

 

 大監獄『コキュートス』には、主に三つの機関が存在する。


 一つは『更生門』。


 比較的軽い罪により投獄された犯罪者に対して、社会復帰を促すために設けられた更生施設である。

 日々人権や倫理等を学び、労働に就くことで、一般社会への復帰を支援しているのだ。

 多くの者が刑期を終えた後は、更生して無事社会の中に溶け込んでいっている。

 この監獄において囚人達が最も大切に扱われている機関なのである。


 それに対して二つ目は『懲罰門』と呼ばれている。


 ここに投獄されている者には、凶悪犯罪者が名を連ねており、『不完全』の逮捕者も基本的にはここに入れられている。

 目安としては刑期が15年以上と言われているが、上は死刑クラスであるため、凶悪さでは一長一短である。

 囚人同士のいがみ合いも多く、そのために独房になっているほど治安が悪い。

 表向きは更生施設の一つと言えるのだが、実際には更生を目的とするよりは、社会に出すことが危険なため、ここで拘束をしているという現状だ。

 エリクもここに収容されていたので、フレスもエリア内の雰囲気は大体わかっているつもりだ。


「『更生門』、『懲罰門』、まだあるの? ボクの勝手なイメージだけど、『懲罰門』って結構厳しそうなところだと思うけど」

「そりゃ犯罪者に懲罰を課す場所だからな。厳しいのは当然だ。だがな、コキュートスにはもっと下の機関がある。その名も『封印門』」


 ――『封印門』。


 大監獄『コキュートス』は表向きでは『更生門』を、言い方を変えれば売りにしているところがある。

 犯罪者を更生させ、社会復帰させるための場所。そう宣伝しているのである。


 だが実情でいえば、最もコキュートスが役割を果たしているのが、この『封印門』である。

 その名の通り、完全に外部との接触を断ち、一度入ったならば一生コキュートスの住人になるような機関である。

 ここに入るのは大陸全土を脅かしかねないほどの凶悪犯罪者だ。

 例として挙げるなら、部族都市クルパーカーを脅し、壊滅的被害まで与えた『不完全』過激派のトップであったイングがここに収容されていた。

 すでにイングは処刑が執行されたので、すでにここにはいないが、それクラスの犯罪者が、数は少ない者のここにはまだ残っている。

 しかしながら、どれほど危険とはいえ所詮は人間(およびエルフ等の神獣)である。

 『封印門』と名前のニュアンスは少し大袈裟に聞こえるかもしれない。

 だが、実際には全く大袈裟ではないのである。

 何故ならここ『封印門』は、人間の犯罪者よりも、凶悪な力を持つ神器を収容するということの方がウェイトは大きい。

 ここは凶悪な神器を永久に封印するための機関なのだ。

 扱いを間違えば大陸に甚大な被害をもたらす、神の如き力を持つ旧神器。

 ここにはそのレベルの神器が多数存在し、厳重に管理されている。


「それで、今は『更正門』が突破されちゃったってことだよね。テロリスト達の目的って何なのかな」

「判らんな。多くの場合は仲間の解放であったりするが。しかしこの五人という少人数が気になる。大監獄を襲う人数にしては少なすぎる。嫌な予感がする」


 大監獄という治安自治の総本山たるこの場所を、わずか五人で襲ってくるなど正気の沙汰ではない。このテロリスト達は狂っているとしか言いようがない。

 だがそんな狂った連中に、二人は心当たりがある。

 嫌の予感というのは、まさにその心当たりの連中が関わっているのではないかという感だ。

 そして、それはもはや当然とでも言わんばかりに、次の局員の報告によって嫌な予感は的中してしまう事になる。


「テロリスト達の外見の情報が届きました! 判ったのは5人中3人です! 一人はエルフの女、一人はゴスロリドレスの女、そして最後の一人は――金色の髪をなびかせた、少女だったそうです!」

「――金色……!! もしかして!」


「やはりそう来たか……!!」


 大監獄を、たったの五人で襲うという狂った連中。

 そしてこの目撃情報を示し合わせれば、自ずと答えは明白だった。


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