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龍と鑑定士  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編 『ステイリィ英雄譚』
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やっと、気づけたよ。


 ―― 結局二人に腕を抱きつかれる格好になったウェイルはというと、半歩後ろを歩くお淑やかさと美貌を兼ね備えた絶世の美女ビャクヤを連れて、外の繁華街へと繰り出したのだった。 ――


「……って、ビャクヤ! 変なモノローグ入れるんじゃない!」

「あらあら、事実でしょう? ウェイルさん?」

「外の繁華街に繰り出すって、表現が適切じゃないぞ!? 俺はただ電信を借りにいくだけで!」

「夜の街に出ているのですから誤りはないですが」

「つーか、なんでお前までついて来てるんだ……?」

「上官の後についていくのは当然ですよ。面白いですし」

「そこは秘書だからとでも言っておけよ……。どうして治安局にはこんなに疲れる奴ばかりなんだ……?」

「全くだ! だから私がいつも苦労する羽目に!」

「九割はお前の事だ、ステイリィさんよ」


 いい加減歩きづらすぎる(+周囲からの嫉妬の視線が凄まじい)と言うことで二人を引き離す。


「もう、ウェイルのけち! いいじゃない、ボク達の仲なのにさ!」

「そうだそうだ! 私達は夫婦なのにけちすぎる! もっとスキンシップを増やせ!」

「もう突っ込みを入れるのも疲れるぞ……」


 ステイリィのテンポにひとたび巻き込まれれば、げんなりするほど疲れると改めて言うほど思い知った気分である。


(ま、フレスが元気になったのならそれでいいがな)


 そう前向きに考えようと決めた時のことである。


「あれ? 雨だ」


 折角のポジティブシンキングを邪魔する様に、心をネガティブにする雨がぽつぽつと降り始める。


「急がないと本降りになるぞ、これ」


 空を見上げれば、いつの間に広がっていたのか分厚く灰色な雲。

 昼間は晴天だったというのに、これでは明日は大雨に違いない。


「うわあ、降ってきちゃったよ……!!」


 ぽつぽつと降っていた雨は、ここに来て一気に強く降り始める。

 雨具も何も持たずに来ていた為、このままではびしょ濡れ必至だ。

 他の外出していた住人達も、これは堪らぬと足早に帰宅の途についていた。


「ステイリィ、俺達も急ぐぞ」


 無駄とは知りつつも手で頭を押さえながら、ウェイル達は治安局支部へと急いだのだった。







 ――●○●○●○――






「――へっくし!」


 ステイリィの無遠慮なくしゃみが響く。

 本格的となってきた雨に身体を晒しながら、何とか治安局支部へとたどり着いていた。


「うう、冷えちゃった、風邪ひいちゃう。ウェイルさん、裸で抱き合って体を温めあいましょう」

「また馬鹿言ってるな……」

「ステさん? あまり冗談が過ぎると、ボクも怒っちゃうよ?」

「ひっ!? 冷たい!?」


 フレスから発せられた冷気を孕む怒気は、あのステイリィすらひるませていた。

 普段と真反対の立ち位置にフレスがいるのは珍しいことである。

 この二人、仲が良いのか悪いのか正直よく分からないところ。


「しかし本降りだな。フレス、身体拭いておけよ。風邪をひいては困るからな」

「ボクは大丈夫だよ。ウェイルの方こそ気をつけてね」

「おい、何か拭くものを用意してくれ」


 ステイリィが局員に指示を出して、何枚かタオルを用意して貰い、それで身体を拭く。


「とりあえず電信を借りるぞ」


 支部の局員にプロ鑑定士であることを告げて、ウェイルは電信を打ちに奥へと入っていった。

 残されたのは気まずい空気のフレスとステイリィ(ついでにビャクヤ)。

 夜の勤務と言うことで、局員達の数も少なく、この場には三人しかいない。

 時計の時を刻む音だけが流れる、静寂な場であったが、その静寂を破ったのはフレスだった。


「ねぇ、ステさん。聞きたいことがあるんだけどさ」

「ステさん……まあもういいよ、呼び方は何でもさ。それで何?」

「ウェイルといつ知り合ったの?」

「いつかって? なんでそんな事聞くの?」

「知りたいんだ。ウェイルのことさ」

「ウェイルのこと……」


 ステイリィはフレスの顔をのぞき込む。

 そして気づく。


 ――フレスの目が真剣であることに。


「聞いてどうするの?」

「どうもしないよ。ただ、ウェイルのことなら何でも知っておきたいんだ」

「……そっか」


 柄にもなく黙り込むステイリィ。

 しばらく天井を仰いだかと思うと、


「いいよ。話したげる」


 珍しくステイリィは素直にそう述べて、ふぅと嘆息した後に、二人の出会いの話をしてくれた。







 ――●○●○●○――






「そんなことがあったんだ」

「あの時は私も若かったのさ! 毎日むちゃくちゃしてたしなぁ」

「それって今も殆ど同じじゃないの……?」


 任務中にウェイルに命を助けられたエピソードを、ステイリィは語ってくれた。

 フレスにとって昔のウェイルの話は貴重だ。

 ウェイルはあまり過去を話したがらないからだ。

 薄々感じていたことではあるが、フレスがこれまで共に過ごしてきたウェイルの姿は、ステイリィやその他様々な人から聞く姿と大きく違う部分がある。

 フレスにとってのウェイルは、クールな所もある分優しい性格だと思っている。

 でもアムステリアやステイリィ、ヤンクやルーク、そしてテメレイアの話を聞くに、昔のウェイルはもっとトゲトゲしていたように思える。

 そのことについてステイリィに聞いてみたところ、何故か彼女の顔はふてくされてしまった。


「へん、誰のせいでウェイルさんが変わったと思ってんだ……!」

「誰のせい……? ……あれ? もしかしてボクのせいなの?」

「……ち、違うわい!」

「図星なんだね……」

「そうだよ! フレスがウェイルさんの弟子になってから、ウェイルさんは少し変わっちゃったの! 昔のウェイルさんはとってもトゲトゲしてて、無愛想で、冷たくて、それはもう極寒だった! 私がどんなに近づいても逃げられて、しがみつけば吹っ飛ばされて、心臓まで凍り付いているんじゃないかと疑う位に最高だった!」

「……ステイリィさんて変な趣味あるんだね……」


 むしろそこまでされてもめげずにアタックを続ける彼女の根性の方が恐ろしい。


「それが今や変に優しくなっちゃって。なんて言うかこう、昔みたいな冷たさは消え去ってね。うん、冬が終わり春が来たみたいに暖かくなった。……さらに好きになっちゃったよ」

「……………………」


 ステイリィがウェイルに好意を抱いている。

 そのことは千も承知だったが、実際に彼女の口から「好き」という単語が出てくると、フレスの心臓はドキリと跳ねた。


「ねぇ、フレス? 私にそんな事を聞いた理由ってさ。本当のところは違うんだよね?」

「……え?」

「まあ大筋は合っているだろうけどさー。……逆にどうして私がフレスにこの話をしたか、判る?」

「え、えーと、……わかんない」

「だろうね。うん、でもいいよ。教えてあげる」


 ステイリィはググイとフレスに顔を近づける。

 後数センチでキスしてしまいそうなほどの距離で、ステイリィは呟いた。


「――君の目が、決心した目だったから」

「決心……!!」


 バクバクと鳴り響いていた心臓が、さらに強く鼓動していく。


「自分の気持ちに気づいた。そうでしょ?」



 ボクの気持ち。


 うん。気づいたよ。


 ボクは気づくことが出来た。


 ウェイルに対する、ボクの気持ちを。


 テリアさんやレイアさん。そしてステさんを見ていって。


 フレスベルグに気づかされた、ボクの気持ちを。



「ウェイルのこと、何でも知りたいって思ったんだよね。その気持ち判るよ。私だって全部知りたいんだからさ」


 ススっと身を引いて、ステイリィは立ち上がる。


「うっしゃああ! 今日から貴様は、我がライバル! 敵じゃあ! ウェイルさんを賭けて勝負と行こうじゃないか!」

「勝負……!?」


 ウェイルを賭けた勝負。


 うん、そうだね。望むところだよ!


 すでにテリアさんとは勝負を開始したし、レイアさんだって、そう思ってる。


「勝負だよ、ステさん!」

「敵は私だけじゃないけどな! 全く、手強い勝負だぜ! ナハハハハハ!」

「にゃははははははは!!」


 腰に手を当て高笑いするステイリィに、フレスもつられて笑ってしまっていた。


(やれやれ、私がいること、すっかり忘れられていますね……)


 二人のラブコメについていけなかったビャクヤは、柱の陰に隠れて大きく嘆息したのだった。


「お待たせ。師匠に電信を送っておいた。ついでにテメレイアにもな」


 数分後、電信を打ち終えたウェイルが帰ってくる。


「あ、ウェイル、お帰りー」

「お帰りなさい、ダーリン!」

「誰がダーリンだ、誰が。……あれ?」


 ――妙だ。

 ステイリィのはいつもの冗談(と信じたい)として、いつもならその冗談に反応するフレスが、今は何故かニコニコと受け流している。

 それになんだか二人の仲が近い。

 これほど仲が良かったという記憶は皆無であるのに、だ。


「そうだ、ステイリィさん、今度テリアさんやレイアさんと集まって、一度じっくりお話してみない?」

「そだね。そろそろ誰が正妻にふさわしいか、はっきりさせたいところだし!」

「へへん、負けないもんね!」

「こっちこそ!」

「……なんで急に仲が良くなってんだ……?」


 さっきまでいがみ合っていた二人が、どうしてか今は肩を組むまで仲良くなっている。


「一体何があったんだ……」


 妙だ。妙すぎる。

 変に仲の良い二人を、半ば唖然とした顔で見ているウェイルの元へ、そそくさとビャクヤが近寄った。

 そして耳元で一言。


「――天然ジゴロ」

「また!?」


 本日二回目であった。



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